ごぶさた。
成人向けへのリニューアルも復調果たせず休刊していた「週刊漫画アクション」(双葉社)が先日再刊行。ラインナップは実力はあるもトレンド的には今サンの布陣で、売れるは二の次で何かを主張したいような硬派な姿勢が伺えるが、ピンと来ない(実に失礼)。そんな中、唯一売れ線を狙ったかのようなコーナーが、「classics」と銘打った名作の再録である。狙い通りというと皮肉に聞こえるが、これが滅法面白い。中でもほとんど初見となる今は亡き小島剛夕「子連れ狼」(原作小池一夫)が良かった。
以前述べたように(第39回)、時代劇が数年来のマイブーム。そして世間的にも映画「ラスト・サムライ」を筆頭にブームが訪れている。個人的には原典とも言える時代小説の方に注目しているのだが、こちらは特に目立った動きはない。映像の世界(映画、テレビ)では続々「時代もの」が制作されている。
本題。漫画の方は、というと多分に漏れずこのところ時代劇専門誌の創刊が相次いでいる。元々劇画家さいとう・たかをが自ら経営する「リイド社」から「コミック乱」誌が出された(01年)事に端を発するカテゴリーだが、専門誌ならではの堅調さで爆発的なヒットは呼ばず、なかなか発展が見られなかった。実際のところ今回の創刊ラッシュも上記の通り他メディアのブームに乗ったような形で、定着するかどうかは微妙だ。ただ井上雅彦「バガボンド」(原作吉川英治「宮本武蔵」/モーニング)のメガヒットなど見ても、ジャンルとしては自らトレンドとして押し上げる力を十分に持っている。何といっても強みは時代小説の劇画化(コミカライズ)という形が古くから完成している所にある。同じ原作を持ってしても、ブランクが開きすぎて(時代劇黄金時代は昭和の頃)ビジュアル的な奇抜さを狙う(しかない)映像と違い、時代錯誤を感じさせない骨太のドラマを見せることが出来る漫画(劇画)は読み応えがあるし、また読者もそれを支持している。どうやら今回の時代劇ブームは、漫画にとっては劇画復活の追い風となるようだ。
ただ再録ものの多いのが気になる所。「刃JIN」誌(小池書院)は小池一夫原作の時代ものを集めた二重の意味での専門誌だが、ほぼ再録(個人的には大満足)。「艶剣」誌(海王社)も艶笑ものの大家ケン月影の傑作選集である。他誌も再録ものが半数を占める。上村一夫、小島剛夕など故人や、安部慎一、山上たつひこのように筆を折った漫画家の作品が読めるのはうれしいものの、新たな時代を築くものではない。新作でも目の引く作品は、というと平田弘史「黒田・三十六計」(乱TWINS誌)、とみ新蔵「薩南示現流」(原作津本陽/乱誌)の時代もの大家がぬきんでている。正直な話、時代ものの漫画に期待する要素は動きよりも知識の絵解きになる。連綿とつながっているがしかし、全く異なる次元の世界(観)を如何にリアリティを持って描けるか。つまりウンチクを絵に雰囲気に、どれだけ盛り込めるかがカギとなる。(そういう意味では近未来もの(SF)と同じ。蛇足)
専門誌というと付き物のようになった感があるが、時代ものもかつて少年誌、青年誌で活躍した漫画家を多く見かける。絵柄が変わったりして、本格的に取り組んだ力作もあり好感は持てるものの、足りない部分がつまり勉強不足という所になるか。原作つきであっても細かい所に「らしさ」を盛り込んでいって欲しい。このままでは劇画復活というより、単なる劇画復刻ブームの一現象となってしまう。(ちなみに「劇画」とは笑いや風刺を入れた従来の「(コマ)漫画」に対する、ストーリー性の強い作品群の名称として考え出されたもので、別段リアルタッチの絵柄を指すものではない。最近出た「COMIC
BOX 別冊」誌(ふゅーじょんぷろだくと)Vol.7でのさいとう・たかを氏インタビューもその事を明言しているので参照されたし。)
以上を踏まえた上で、今後期待が持てる作品として坂口いく「無名の剣」(時代活劇・ホーム社)とかわのいちろう(監修村上もとか/協力宣弘企画)「隠密剣士」(時代劇ファン・集英社)を挙げる。「無名の剣」は副題が新選組隊外記とあるように、故あって殺しをしない剣士間源之介が新選組と関わっていくオリジナルストーリーで、この殺さない剣を遣う主人公に新鮮味がある。資料がなくて記憶に頼るしかないが、確か作者はかつて月刊ジャンプで「闇狩人」という暗殺者を主人公にした作品を描いており(違ってたらゴメンナサイ)、柔らかいタッチながら殺陣シーンは得手のはず。第1話は芹沢鴨暗殺の件に主人公が無理なく絡んでいて、今後の活躍が楽しみ。ただドラマ性にはやや弱いところがあり、「斬鬼」誌(少年画報社)4月号に再録された安部慎一「日の興奮」は同じ芹沢暗殺を描いているがこちらは新選組の特異性を描ききった感がある。人斬り集団である新選組と主人公が今後どう向き合っていくのかはなお一考を要すると思われる(単なる友情だけでは物足りないところ)。
「隠密剣士」はテレビ時代劇の快作を劇画化した作品で、密命を受けた柳生新陰流の使い手秋草新太郎を主人公に、彼につく伊賀忍者と敵対する忍軍との壮絶な戦いが見所。ならではの奇想天外な策を駆使した戦いは、絵で見ることで迫力が増すが、諸刃の剣で興が冷める事にもなりがち。作者はこの点では合格といえる。ただ人物描写に固さがみられ、特に主人公は涼やか「過ぎる」きらいがある。テレビドラマシリーズでは後半、不敗のヒーローから不屈のヒーローへと非常に魅力的な転身を遂げるようなので、作者の絵もこなれてくるにつれ主人公も完全無欠というより愛着が持てるようになることを望む。また同様に悪側の魅力というのも本作品の眼目であるようなので(テレビ未見につき同誌掲載の紹介文を参照)、その辺りも余さず描いて欲しい。
個人的には封建社会下での人々の生き様に興味があるので、実の所勧善懲悪のチャンバラものには食指が動きづらい。とはいっても主人公が時代を問わず魅力溢れるヒーローであるならばそれはやはり「好きな作品」となる。時代ものはそんなヒーローを生み出しやすいジャンルであるから、今回のブームが本流となることに期待する。