タカハシの目 第39回

(初出:第54号 01.9.21)

きっかけは、アフタヌーン誌5月号に載った平田弘史「新・首代引受人」。決定打は「CR必殺仕事人」?いやいや(パチンコやってない)。しかし最近の新たなブームが「時代もの」。この夏、結構読んだがまだあまり詳しくないので幅広くご紹介。
さいとうたかをは池波正太郎の小説(「鬼平犯科帳」「剣客商売」)を漫画化(劇画化)している。自身の経営するリイド社からも月刊で時代劇専門誌「コミック乱」を発行、売れ行きはまずまずのようだ。ではこれらの「時代劇コミック」、お薦めかというとそうでもない。真っ当な、時代劇はつまり、小説でもテレビドラマでも数限りなくある。殊更に漫画で、といかなくとも良い。お薦めは「雲盗り暫平」(注1)になる。どんなものでも盗むと評判の主人公に様々な盗みの依頼が入る。難事件を解決する名探偵のように盗んでいく、「ミッションクリア型」ともいうべき展開は作者の十八番(ex.言わずもがな、の「ゴルゴ13」)。
(注1)リイド社より愛蔵版が出ているが、コンビニ仕様の廉価版(SPコミック)が手軽。
コミック乱誌に載る作品では、村野守美「門前市噺」がお薦め。門前市(現在のフリマ)の金品を見張って寝ずの番。その一夜に語られる様々な話はさながら時代もの版大人の童話。
石森章太郎も時代ものを数多く残している。変わっているのが「化粧師」。女性を化粧するだけでなく、店を、町を、時代をも化粧する、江戸時代の妙な商売人が主人公。現代で言うプロデューサーである。バブル時代に発表されただけあって、様々な「片仮名語」を当て字に使っており、そこのところ大不況の現在少々鼻につくが、斬った張ったではない痛快劇というのが興味深い。
「大人」が魅力の作品は、小池一夫原作のものに多い。先頃出た斬鬼誌第6号(注2)に載った「御用牙」(画・神田たけ志)は、こんな出だしから始まる。
(注2)ヤングキングSPECIAL増刊。「厳選時代劇コミック」とあるように、ほぼ再録もの。次号10月26日発売。
突然の雨に廃寺で雨宿りの男女。男が「女、傘を貸してやろうか」「といっても入る傘じゃねえ、入れる傘だ」
とこれが主人公、板見半蔵と女賊、お百の出会い。ナニが出るから大人ってんじゃござんせん。師走に再会することを約束し、追う身追われる身ながらも再会を果たし、愛し合った後、斬り合いとなる。ところがそれは女の目論見通り、「師走」は「死走」の掛け言葉。「弐十手物語」(画・神江里見)(注3)に至っては、鶴次郎の惚れる女が全て死ぬ。ついた徒名が「死神の鶴次郎」。愛し合いながらも死と隣り合せ。或いは死線を越えた愛、を描けるってえ所が「大人の魅力」。
(注3)元々は「狼の睾丸(ふぐり)」と呼ばれる同心、飯伍と女装が上手い岡っ引き、由造のコンビ。で「弐十手」。割合早い時期から主人公が新入りの鶴次郎に変わる。現在「週刊ポスト」連載。単行本はビックコミックで96巻を数える。作画の事を言うと、初期の絵柄が個人的には大変に好きな絵柄。ながやす巧に似た太い線でものすごく色っぽい。その初期シリーズを収録した「My First BIG」シリーズがお手軽&お勧め。
この「斬鬼」に載る作品では、もりもと崇「難波鉦異本」が最注目。遊廓で育つ二人の小童(実は一人は男子)の奇妙な日常が、大人の愛憎劇と絡んで絶妙な面白さ。
時代ものはどうもと言うかやはりと言うか、おじさん以降の読み物のようで。ビックコミック誌に載るのは高瀬理恵「公家侍秘録」(シリーズ連載)。作者は女性?そう、絵柄はまさしく「少女漫画」。武士全盛の江戸時代、貧乏貴族の娘とその付き人の二枚目が主人公。これがビック本誌で好評連載中で、単行本もある。全世代が抵抗なく漫画を読む時代というのが確実に訪れている良い見本、と言えるだろう。
このように、今回は「時代もの」でも少々変わり種の作品に注目した。そもそも魅かれたのは「武士(もののふ)」たる者の壮烈な生き様であるが、漫画の時代ものの楽しさはそれだけに止まらないようである。



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