まあ新聞、雑誌は眺めるだけでも色々な情報が入ってくるものでございます。
大概は自分の中で消化してオシマイ。取り立てて皆さんに聞かせなくとも先刻御承知だろうし大して語るほどのネタでもない。とはいえ今月はそこそこ集まったので、「TOPICS」にでも載せようかと書き始めたところ、意外と伸びたので急遽、こちらで掲載です。まあこんなのもアリってことで。
「少年サンデーGX(ジェネックス)」(小学館)創刊。
すでに発売中であり、ニュースとしては少々古いものとなる。本誌より高学年向けということでは懐かしの「少年ビッグコミック」を思い出す。「少年ビッグ〜」は作品が全て青年向けを志向しており、結果「ヤングサンデー」に転身し、いわゆる青年誌ならぬヤング誌の登場となった(注1)。
(注1)すでに高校〜大学生をメインターゲットとした青年誌(ヤング誌)は存在していた(ex.「ヤングマガジン」)が、当時はまだ大人向とハイティーン向が今よりも混在していた。
今回の創刊誌は「少年サンデー」の冠を付けている通りあくまでも少年向け。但し本誌より本格的なファンタジー系作品が多く、月刊誌ならではの読み込めるラインナップを敷いている。大手出版社のこの手の漫画誌が、これで出揃ったことになる(注2)。集英社「ウルトラジャンプ」、講談社「マガジンZ」、そして小学館「サンデーGX」。
(注2)小学館は昨年「コミックGATTA」を創刊しているが、これは「コロコロコミック」の高学年向けという認識。
最先発の「ウルトラジャンプ」は「ジャンプ」を感じさせぬ連載陣で目新らしさがあるも逆にマニアック指向。「マガジンZ」はアニメ、ゲーム作品のコミカライズが多く新旧バランスのとれた連載陣で好感が持てるが看板がなくマイナー色が強い。対する「サンデーGX」は大物、ベテラン漫画家を揃え安定感は一番だが故に新雑誌としての魅力が少ない。このように各社一長一短あり大規模なマーケットを取り込めていないのが現状と映る。はっきりと「ゲーム世代」の若者(少年?)をターゲットとした「少年エース」(角川書店)が群を抜いている。アニメとのタイアップ、メディアミックス戦略については各社とも本誌等においてすでに成功を治め軌道に乗っているが、急成長を遂げたゲームとのメディアミックスにおいては未だ模索中と考えられる。
かつてはまず「漫画」ありき。コミックでヒット作となりアニメ化、ゲーム化の流れはあったものの、アニメ作品、ゲーム作品のコミカライズは代表的なものでしかなされなかった(注3)。
(注3)理由としてマスが小さかったのと、共通の表現技法が確立されていなかったことが挙げられる(第25回参照)。近年はアニメ、ゲームとも巨大なマーケットとなり(ex.「新世紀エヴァンゲリオン」「FF8」)、また漫画とそれらとの表現上の違和感も無くなりつつある。他ジャンルのコミカライズの成功例として「フリクリ」「魔剣X」(ともに「マガジンZ」連載)を挙げる(かなり片寄った例...)。
様子伺いの感はあるが、大手出版社でもファンタジー系に特化された漫画誌が出揃ったことで、このジャンルの確立が実感され、今後更なる隆盛、発展の期待が持てる。
老舗「漫画アクション」(双葉社)がリニューアル。
増刊でのエッチ路線が好調を受けて、ついに本家も宗旨変え。主な動きとしては「元祖Dr.タイフーン」(かざま鋭二&堀井ひろし・高橋三千綱)が終了、「キャラ者」(江口寿史)が「ぴあ」に、「鎌倉ものがたり」(西岸良平)が「まんがアクションファミリー」へ移動。9/5発売号からの新連載としては小本田絵舞、猫島礼など、いわゆる成年漫画のベテランが軸に並ぶ。青年向け総合誌としては創刊以来中堅の位置から伸び切れず、過去幾度も休刊の危機が噂された本誌。すでに定説となっているのが、そうした土俵際で常に救世主となるメガヒット作が生まれ休刊を免れていることである(注4)。近年は表紙を江口寿史が担当し、実力ある漫画家の連載を数多く掲載している。しかし看板となる作品となるとここ数年出ておらず、低調は否定出来ない状況にある。
(注4)有名なのが「ジャリン子チエ」(はるき悦己)、「クレヨンしんちゃん」(臼井義人)
主な青年誌では実験的な増刊がよく出されるが、アクションも多分に洩れず古くから様々な増刊を出してきた(注5)。この流れから生まれた成年向け雑誌「アクションピザッツ」「M'sアクション」などが軌道に乗っており、特に同人出身の若手を折り込むことで新たな読者を獲得しようという目論見が感じられる。
(注5)いしかわじゅん責任編集となる「アクションラボ」など。近年では「アクション2」。
個人的には「JUNK BOY」(国友やすゆき)「ボーダー」(たなか亜希夫・狩撫麻礼)など、思春期の感慨深い作品の掲載誌ということ(上記2名現在連載有)、また最近でも江口寿史、相原コージ、土田世紀などのラインナップで結構お気にの雑誌だっただけにこのコンビニ仕様へのチェンジは歓迎し難い。しかし、売れ行きを(極地的ながら)冷静に眺めてみると、このリニューアルは誌名存続を優先させた苦肉の迎合策というよりは、ある種の起爆剤としての新起用と考えられる。カラーを統一するための終了、移籍が見られるが、ほとんどの連載は残るのでやはり狙いはあくまで志高く新規読者獲得にあるようだ。しかしこの新旧半々のラインナップを見ると、一般劇画誌の末期(現在)と被って見えなくもない...。時流に流されず、誌の本質を失わないように望む。そして又もやの「神風」が吹くのかが楽しみ。
新潮社が漫画参入。
それに際して専門の別会社「Coamix」を設立。社長に元「ジャンプ」編集長堀江信彦が、出資者に漫画家の北条司、原哲夫など。来春創刊の予定だがジャンプ系の人材をブレーンに、どのジャンルに定着を目指すのかが注目される。
大手出版社では過去文芸春秋「コミック94」、NHK出版「MW」、マガジンハウス「コミックアレ!」、メディアファクトリー「コミックアルファ」などが参入しているが、いずれもパッとせず現在は休刊。わずかにアスキー(=アスペクト。現エンターブレイン)「コミックビーム」が存続も大低迷(「ファミ通」掲載の広告参照(笑))。唯一の成功例が角川書店「少年エース」となる(注6)。
(注6)と、思っていたんだけど最近はどうなの?
これに対し中小の出版社からの発行誌は力強い。かつての劇画誌、ロリコン誌ブームの例を見ても分かる通り、売れセンは逃さず出しまくるバイタリティがある。中でも独自性の強いラインナップは時としてロング・ランを生み出す。近年の成功例ではやはりイーストプレス「コミックCUE」、また太田出版「マンガエロティクス」も3号を数える。
こうしてみると新規参入組が定着するための条件とは、「ジャンルを特化させること」「認知度を高めること」の2つが挙げられると思われる。総合誌的なラインナップでは既存雑誌に追い付くことが出来ない。これは指向がマイナーでも言える。ジャンプのような専属制を引かない限り、どんな特異な描き手でも(人気に応じた)複数の連載を持っており、そうなると読者はメジャー誌(の作品)を読むのである。となると専門誌に近いラインナップをひき、そのジャンルの読み手を最大限引き込むのが重要となる。そしてともかく話題になること。当り前の話だがしっかりと効果的な宣伝を打つことと、今後必要不可欠なのはメディアミックスを大いに行うことにある。既存読者はつまり世論であり、混沌を嫌う。新しいものに臆病なのだ。従って狙うべきはまず漫画に近しいジャンルの住人。この場合アニメ、ゲーム好きの人間を、漫画に引き込む形で知名度を上げていくのが最良であろう。過去の大手参入組はこの点で失敗したように思える。いずれもすでに開拓された若手の注目株を新人のように並べ、実力派のベテランを折り混ぜターゲットを広くとった。そして誌面の充実を第一に考え売れセンを追求しなかったのである。
個人的には質の向上は歓迎である。そんな形での新規参入を快く思っている。しかし現実として、それだけでは売れないのである。漫画ファン全員が熱烈な読者ではない。これは私もそうで、面白く思っていても買わない時もある。創刊誌にとって反応が無いのは致命傷である。しかしまさに他人の痛み。無情でシビアで、いいかげんである。その口で漫画界を憂うな、といわれるだろう。天の邪鬼なので申し訳ない。
閑話休題。あくまで仮説であるが。
「特に社会人において、漫画はすでになじみのあるメディアであるが、自発的に求めるものではなくなっている。供給体制が巨大になりジャンルが細分化した現在、需要は暇つぶし、読み捨てが主になっており、読者はパターン化されたストーリーを、自分が今まさに読みたいと思った時に提供されることを望んでいる」
これを感じさせるのが近年の文庫、そして廉価版ブームであり、踏まえて最後のトピックに行きたい。
講談社 新漫画雑誌創刊
講談社は8月1日よりオンラインで購読する漫画雑誌「e-manga」を創刊した。
http://www.e-mangaonline.com/
ラインナップは
・ベストセラー作品のインターネット版特別バージョン
・コミック・ファンに評価の高い実力派作家の未単行本化・未発表作品
・海外コミック・アーチストの新作
と幅広く、刊行形態は月刊、購読料は1号で500円、1作品のみの場合は200円。購読方法は1作品ごとのダウンロード方式。書店に足を運ぶことなく、簡単な手続きでオン・デマンドに作品を購入することができる。(漫画の)オンラインマガジンは個人及び法人単位ですでにいくつか出されているが、先駆者たる講談社の今回の本格的漫画誌が成功すれば他社も追随する可能性が高い。オンラインでの作品提供は同人界ではすでに定着しており、メガヒットも少なくない。今回の創刊誌は逆にオフィシャルという点で爆発力には欠けると思われるが、ともかくネットで新作漫画を見る(読む)という新しい常識の誕生となりそうだ。
(つまりは完全なる読み捨てシステムの登場である。先の仮説で言うと「読む機会の少ないサラリーマンが唯一、漫画を欲するほんの数分のヒマに差し出されるスキマ商品」となり、ついに漫画は飽和点に達したかとも考えられる(注7)。
(注7)コンテンツを見る限り、この評価は勘違いもいいところ。むしろ現在のスペックでは細密なフルカラー作品が提供=読めるという漫画の可能性が更に広がる実に喜ばしい話。他ページもコンセプトは志高く、決して読み捨てを助長してはいない。ただこれが現実的な話になると、逆に敷居が高すぎないかということになる。ネットの利便性を追求すると読み捨てスタイルも可能で手軽なわけで、現にiモードで毎日一本の4コマを配信するサービスを行っているのも講談社なのである。定着するにはここまでの考えでいくとやはり売れセンを外すことは出来ない訳であり、そうなると高尚なものではありえないと悲観もしてしまうのである。ただ今現在、はっきりとそういう状況になっているとは言えないのであくまで仮説である。本論ではない)
約10年、流れを見てきた者として最近の状況を分析してみた訳だが、漫画界(出版界)に通ずる者ではないから説得力には欠ける(詳しくは専門誌、業界誌を)。
しかしこれだけは言えると思うのだが、やはり漫画界でも常識というものは絶えず変化し続けている。結果論だがこの変化は(商業的な成否は別として)思いきった改変や斬新なコンセプトでもって創刊された漫画誌が発端となることが多いように思う。その意味では今回挙げた出来事について期待を持って眺めている。