特定のジャンルのみを扱った漫画誌(=専門誌)が、コンビニの棚に並ぶのももはや珍しくない。とはいえ野球、釣り、ゴルフetc...大半は売れ行き、内容ともそれほど芳ばしくないのが現状。専門誌として確立されたと思えるのは、すでに歴史ある「麻雀」誌と、近年では「パチンコ・パチスロ」誌になる。共通するのは「コアなファン層が成立している娯楽性の強いギャンブル」が素材である、という点。
「コアなファン層が成立している」というキーワードでは、
例えば「ゴルフ」をとっても、単体では各一般漫画誌(=メジャー誌)に掲載され、支持を得ているが、専門誌となると途端に読者は少なくなる。この違いはつまり、愛好者の年齢層の差、と見ることが出来る。物語性の強いメジャー誌での作品と違い、専門誌ではマニュアル、ハウツー的要素の強い作品が核となる。絵解きで読み易いもの、を受け入れるのはやはり若年層であろう。しかし市民権?を得ている他ジャンルの専門誌との決定的な差、となると「娯楽性」の質の違いになる。
「ギャンブル」というキーワードでは、例えば「競馬」をとっても〜(以下同文)。しかし決定的な差は、となると「娯楽性」の形式の違いになる。
この場合の「娯楽性」とは「複数人とも楽しめるレジャー的、ゲーム的な楽しさ」という意味であり、従って現在までのところ専門誌として成り立ちやすいのは「マニアックな支持を集めながら社交的要素の強い非公営ギャンブルで、勝つための秘訣を分かり易くレクチャーしてくれる型のもの」ということが言える。
とまあ、あまり意味のない分析はこのくらいにして。つまり専門誌としては前記2ジャンルに勢いがあるということである。漫画誌といえど専門的知識がある程度ないと楽しめない作品が多く、また説明書を漫画にしただけのような、内容的に薄いものは当然の如くあまり面白くない。そんな中から実戦に役立つというよりは、勝負事の醍醐味を味あわせてくれる作品(漫画家)を紹介したい。
「麻雀」誌に関しては、竹書房の「近代麻雀」系3誌で独占状態にあるから(他にないことはないけど..あまりにもアレなので)、ともかく雑誌を読んでもらえればということであまり語れることはない。言えるのは、かつての鉄火場的雰囲気(博打としての麻雀)を良く伝えるのは劇画系の作風である、ということ。麻雀作品に可愛らしい絵柄はあまりしっくりとこないのである(といいつつ、入江紀子はここで知った(「めとろガール」)のだが)。
まず挙げたいのは嶺岸信明。仁侠ものやアウトローを描いた作品が多く、侠気あふれる主人公には単純にシビれる。実は「アクション」誌(「オールド・ボーイ」)や「漫画ゴラク」誌(「天牌」(原作来賀友志))での作品を愛読しているが、麻雀誌での作品は読んだことがなかった(「紅蓮」(原作安部譲二)など)。先日、阿佐田哲也の「東一局五十二本場」という短編(注)を漫画化ということで初めて読んだ(今月号の「近代麻雀」誌です)。
(注)同タイトルの文庫版あり。作者阿佐田哲也=色川武大は文豪として名高い。故人。大ファンなのです私。
原作の愛読者なので本作品の演出やまとめ方には違和感があったものの(人それぞれ)、登場人物の描写はかなり納得の出来映え。特に主人公がどんどん追い込まれ、パニック状態に陥った辺りの顔は、作者にしか描けないだろう迫力に満ちていた。
キャラクターの優でいくと押川雲太朗を挙げる。ギャグ漫画の大ベテラン、新田たつおの作品は、劇画バリバリの真剣なシーンと、呆けた描き方でのギャグシーンの繰り返しに中毒性がある。作者のテンポはこれに近いのだが..どちらの状況でも、登場人物はタレ目でニヤケ笑いなのだ(特に悪役系)。このクセのあるも親しみやすいキャラ造形が、荒唐無稽な設定、世界観に実に合うのである。この作者の作品も、実は麻雀誌ではあまり読んでおらず、まともに読んでいたのは「モーニング」誌での「BET」という作品。孤高のギャンブラーと博才のみのお人好しのコンビがラスベガスで活躍する、と、しかし内容は意外と骨太で感心していた。好評を受けて「モーニングマグナム増刊」誌で始まった外伝的続編「BET2」は..凝りすぎの展開故に甘さが目立つ。トリックや駆け引きといった演出は、フィクションとしてのバランスに気を配らなければならない、と思う(後述)。中途半端な本格さは、かえって興をそぐ結果となる。いかに強引でもそうなると、「ダイナマイトダンディ」(近麻オリジナル)の主人公の独尊さや「根こそぎフランケン」(近代麻雀)の主人公の、根拠のない強運ぶりがよっぽど楽しいものに思えるのだ。
話が麻雀誌以外の作品に寄っているが、では麻雀誌では何がおすすめかというと。ここで改めて取り上げたいのが福本伸行になる。現在「天」(近麻ゴールド)の中でアカギという男が大変なことになっている。本作では準主役の彼が活躍する、これより過去の話となるのが「アカギ」(近麻オリジナル)。そして「ヤングマガジン」誌での「カイジ」、これらを読んでみて、作者の人気の秘密というか、何故面白いのかが分かったような気がする。それはつまり、フィクションとしてのバランスがとても上手くとれているからになる。作者は「カードじゃんけん」であったり、「変則2人打ち麻雀」なり、ともかく一つの虚構の世界を設定する。その世界観を徹底的にシュミレートしていくのが、前に紹介した時に述べた「毎回最終ページに転換点を置き、それに至る過程を丁寧に描く」という独特の演出となり、読者を熱中させるのである。一方、物語の結論は単純な設定に基づいている。過程においては(天)運、技術、ともども描かれるが、決まり手は常に個人(=主人公)の資質によるものとなっている。例えば..悪魔的な強運の持ち主であるアカギは、死に際においても尚神がかりな芸当(最新話)をやってのける(次回〜)。対して元々が負け組であるカイジは、ラックにより勝ちをつかんだものの(最新話)、それは罠に似た単なる伏線なのである(次回〜)。強運の主人公は、運まかせの超人的な勝ち方を。凡人たる主人公は、必死にもがき勝ちを目指す。そのプロセスを極めて丁寧に描き、結果は単純明快。作者の面白さはこのバランスの良さと言える。
娯楽的ギャンブル漫画の王道は何かといえば、やはり「負けない」主人公の物語であろう。麻雀しかり、カードしかり、パチンコしかり。勝ちまくり、負かしまくる様は爽快きわまりない。しかし、ただゲームをして、勝つだけの話なら面白くない。過程に起伏を入れる、別の側面を描くなど、スパイスの存在は必須である。
麻雀漫画でいうと代表的なのはやはり「哭きの竜」(能條純一)になる。「牌に命を刻む」、作中ただの一度も負けることのなかった主人公は、間違いなく王道である。数々の名ゼリフ、名勝負と共に、麻雀漫画としての王道と思われがちだがしかし、実戦向きでは全くない(ちなみに作者は当時全く麻雀を知らなかったという)。本作は娯楽(麻雀)漫画の王道であり、面白さは麻雀の持つ別の一面にある。「代打ち」。その歴史には詳しくないが、極道においては代理戦争のような形で麻雀が使われていた。その頃の物語として本作品は評価される。魅力は従って、主人公始め登場人物達の「いかにもな」雰囲気にあり、そのような作品には劇画の作風が実によく似合う。もう一度繰り返す、「かつての鉄火場的雰囲気(博打としての麻雀)を良く伝えるのは劇画系の作風である」。
これを継承している作品を、麻雀漫画の最後に挙げる。神田たけ志「Shoichi」(近麻ゴールド)になる。新宿(ジュク)の雀鬼として無敗を誇った桜井章一(実在)の実録記として描かれているこの物語は、英雄を神格化した神話のそれとよく似ており、余りにも非現実的だ。主人公(=桜井)は現在、「雀鬼流」という一門を構えており、実際、本作品と連動している数々の企画は彼の勝負理論、麻雀哲学を如何なく披露していて限りなく実戦向きであると言える。しかし本作品は、勿論実戦解析としての側面もあるが、それ以上に主人公の英雄譚が全面に押し出されている感が強い。これは何も批判ではない。実話として地味になりやすいエピソードを上手く演出することで娯楽漫画の王道足り得ているのである(バランスが良い、といえるのだ)。
さて、話題を移そう。「パチンコ・パチスロ」誌は、対してアニメチックな画風がそれほど違和感を持たない。特に最近は(実機種、ユーザーとも)ゲーム性が突出している嗜好なので、劇画的な作品ほど却って苦労しているようだ。ただ、最初に挙げたいのは話の流れに従い劇画作品である。伊賀和洋「田山幸憲パチプロ日記」。主人公は現役、実在のパチプロ田山幸憲(注)。
(注)私5年ほど前に目撃したことあり。ちなみに最近目撃したアニかつ氏はガセでした(蛇足)。
本人の書く原作は同タイトルで「パチンコ必勝ガイド」誌に連載中。つまり漫画化作品である。パチンコ漫画の面白いものの一つに実録ものが挙げられる。この場合の面白さは、先にあげた常勝の物語とは少し違う。パチンコは、ここ10年で急成長を遂げたジャンルである。まだまだ未完成だし、イカサマ(ゴト)も多い。同じ実録ものでも違法な攻略を使い常勝する話は読み手には別世界の出来事でしかない。そうではなく、確率論に則って正攻法(ヒラッコ)で今日まで生き残った、読み手(打ち手)にとってある種理想像である彼等(プロ)のエピソードに強烈な親近感を覚えるのである。主人公の場合特に、すでにオールドスタイルである「釘読み」を使っての攻略であるから劇画が良く似合う。現在は原作でいくと第1シリーズ(原作は現在第6シリーズと記憶)で、20年ほど前の話になる。パチンコにハマり身代をくずし..と、哀愁漂う展開。ここからパチンコを生業とする過程が描かれていくことになる。
このような実録ものとしてもう2作品。趣味(パチスロ)と実益(借金返済)を兼ねて車を宿に全国を放浪中の主人公を描く奥田渓竜「パチスロひとり旅」(実話提供名波誠)。「パチスロ必勝ガイド」編集スタッフが主人公で、同誌に長期連載中の企画を漫画化した藤丸あらた「THE
MAD PACHI-SLOT BROTHERS」(協力アニかつ&ガル僧)を挙げる。
先ほど「釘読み」による攻略をオールドスタイルとしたが、では最新の攻略は何かというと、「全く釘を見ないパチプロ」になる。この提唱者は漫画家谷村ひとしであり、最新作「パチンコロード」(漫画ゴラク)での主人公のセリフである。田村の小説にも出てきたが、作者は数年前に独自の攻略法(オカルト打法)をあみだし、コラム「パチンコ・ドンキホーテ」(モーニング)にて実証してきた。漫画では、「ハイエナ」(パチプロ7)でオカルト理論を解説(現在も連載中だが内容は全国の優良ホール紹介になっている)、「パチプロ探偵ナナ」(漫画ゴラク)では確率的に考えられないハマりを行政批判を絡めて物語化した。そして今回の「パチンコロード」でついに常勝の理論を大成しそうである。実際には賛否両論(勿論)あるが、実録に限りなく近いフィクションということでは作者の描く作品もバランスが良いと言える。
とまあ、挙げれば切がないのだが、後は専門的な娯楽の色濃い作品となるので紹介は控える。最後に蛇足ながら、麻雀、パチンコに限らず、専門誌にはかつてメジャー誌で活躍していた漫画家の作品が異様に多い。そして現役人気漫画家の作品も意外に載っている。発行出版社の人脈、新人の登竜門、ベテラン安住の地、と要因は様々挙げられるが、皆さんにとって思わぬ「めっけもん」があるかも知れないことを付け加えておく(但し面白さに関しては保証しかねるが)。
(付記)今回の作品紹介では、作品の副題については省略、作画者以外のクレジット(原作、脚本etc...)、掲載誌、発行出版社については確認分のみ明記しております。情報の足りない作品もありますことをご了承下さい(コンビニで入手出来るものばかり..です。すいません)。