教養講座「西村しのぶ概説」 第8回

(初出:第19号 98.10.20)

「...えー、どうも。お久しぶりですね。再開です。
とりあえずここ1年ほど、先生(編注:西村しのぶ)の執筆活動が極めて良好だったので、喜々として新作を読むことだけで満足していました。さらっとおさらいしてみます。えーと、時々の動きは本誌の発行人が紹介していたのでそちら(編注:「TOPICS」にて。よろしく)を参照していただくとして。現在の状況を中心にまとめます。
まず「サードガール」ですが、書き下ろし単行本の話が実現していません。単行本は8巻(文庫判は6巻)で止まっています。「コサージュ」誌(スタジオ・シップ現小池書院)所収の残り2話分と、わずか2ページに終わった「番外編まりをちゃんのこと」以降の続きはまだ読めません。...しかし担当だった辻由起子(つーじぃ)氏がまだおられるのでお蔵入りになることはないでしょう..あ?もうフリーでしたっけ?...ま、ライフワークと先生もおっしゃられていることですから大丈夫..。えー、次なるは「メディックス」になりますか...懐かしいですね。これも現在までのところ再開及び単行本化は望めそうにありません。最近の活躍を見ればそろそろ考えてくれてもよさそうですが...根は深いなあ(注1)。あとは「RUSH」を掲載していた「アクション2」誌(双葉社)はやはり休刊。一部連載は本誌のほうに移って無事単行本化されたものもありますが、わが作品は..3度の冬眠に入られました。「一緒に遭難したい人」も同様、掲載誌の廃刊により連載がストップしています。どちらも掲載済み分では単行本化出来ません。江口寿史のように(注2)ならないことだけを祈りましょう。
(注1)この辺は全て推測です。出版業界については詳しくありません。この発言の意味については
いずれ。ただし現在「スピリッツ」誌(小学館)は「おたんこナース」が終了して女性漫画家に空席があるはず。ひょっとする?
(注2)「アニマルケン」と「エリカの星」の2作が合わせて一冊に収録された。「アニマル〜」は
ともかく「エリカ〜」の方はこの本の中で完結宣言が出された。
暗くない話題もありますよ。「ライン」が連載になって1年で早くも単行本化です(注3)。しかも「Kiss」誌(講談社)は売れ行き好調の漫画誌。不幸な中断だけは避けられます。だけ...どうも暗くなりますね。今度は大丈夫。「Slip」は割とあっさり完結しましたが、どうやら白泉社とのつながりは強くなったようで、このところ「プータオ」誌(白泉社)にエッセイ漫画がちょくちょく載っています。これはまとめられるか分からないけど、好評を博しているようだからうれしいですね。そして「YOUNG YOU」誌(集英社)10月増刊号に読み切り「アルコール」が。大手出版社に相次いで作品が載る。かなりイイ感じです。この調子で連載等増やすと絶対無理がたたるから(失礼)、今の好調に乗じて是非未収録の
イラストや、唯一の長期連載「下山手ドレス」がまとめられることを望みますね。そういえばネット上の
西村しのぶ関連ページも、この講座当初は数えるほどしかなかったのにいつのまにかたくさんヒットするように(注4)...今なら積年の不可能も可能に出来そうです。みなさんで働きかけましょう。
(注3)あまりに早すぎて「PRODUCTION NOTE」が間に合わなかった?それともページもらえなかった?有名な「後書き」なのに、最近の単行本は宣伝がメインでちょっと寂しい。
(注4)もちろん昔からずっと応援している方もたくさんいるということを付け加えておきます。
パソ通では実際に先生とお話しした方もいらっしゃるし、「ニュータイプ」誌(角川書店)愛読者には
「しーちゃん」の愛称で長年親しまれていることもご承知。
最新情報も。「Cutie Comic」誌10月号に出張版「下山手ドレス」。先生のお姿が見られます。「Feel Young」誌に読み切り?最近ついていくのが大変(喜)。

さて、今の話はこれぐらいにして。本題に入りましょう。前回予告を引き伸ばしてうやむやにしてしまった「美紅・舞子」です。この作品、復刊本が出てさらに「RUSH」(注5)もあって、ちょっとどうまとめるか悩んだんですけど。復刊本については一応チェックだけいれておくことにして。作品解釈はビックコミックス版を参考にします。
(注5)主人公ユリとアキが「美紅・舞子」の登場人物だったことはご承知の通り。
「美紅・舞子」は86年〜89年にかけて「ビックコミックスピリッツ」誌(小学館)に断続的に載せられた作品であります。デビュー2作目で早くも大手。師匠の小池一夫氏の影響もあったにせよ、先生の非凡さがうかがえるところですね。連載中の評判は残念ながら知るところではありませんが、単行本はめでたく絶版。そして光風社より復刊と相成るわけです。
その光風社版ですが、復刊に当たって若干の修正箇所が見られます。一考に値するか。見ておきましょう。最大の違いは何といっても短編「デート」収録の有無ですね。この作品は94年に発表されたもので、当然小学館版には無し。この時期、前後に他に短編を書かれていませんでしたので、状況的には「押し込まれた」といった観があります。実際、この作品の雰囲気からすれば「ライン」辺りが適当な感じがします(注6)。でもま、オールカラーで収録されていますから満足すべきでしょうか。イラストというと光風社版には小学館版の中表紙イラストが無くなっています。他は全部収録してあるので、ちょっと残念かも。その代わり光風社版のカバーイラストは表裏ともに新作ですけどね。
(注6)作画的にいえばまた違いますけど。
本文中の差異は挙げるとキリがないので、特徴だけ押さえておきましょう(編注:ここ)。
セリフに関しては「各人物の口調を合わせようとした変更が見受けられる。手書き言葉の消去、あるいは追加が目立つ。有末のセリフに「RUSH」とのつながりを持たせる変更が目立つ。」
作画に関しては「美紅、有末の修正が目立つ。美紅の場合は口の修正。有末の場合口及び髪の修正が特に目立つ。」
どちらに関しても言える、光風社版の最大の特徴が「有末」の人物像にかなりの修正が加えられているということで有ります。当然「RUSH」との絡みが大きいでしょう。しかし、修正を加えたことによって、返って中途半端な設定になっている点も少なくありません。
参考までにここで「RUSH」について簡単に説明をいたします。「RUSH」は「美紅・舞子」に
登場した有末と百合が主人公の話。発表は「美紅〜」よりも大分後ですが、主人公は二人とも連載開始時で高校1年ですから、物語としては「美紅・舞子」より前の話となります。
従って復刊された機会につじつまをなるべく合わせようというのは分かるのですが。そのために「美紅〜」中の有末の人物像がはっきりしなくなっています(注7)。
(注7)次回触れます。実は小学館版ですでに起きていることなのですが。
とはいえ物語の核心部分に関しては特に不都合な点はありません。
この作品に関する先生のコメントは「恋に生き急ぐ脳天気な女子高生ふたりのおはなし」(注8)、「県庁所在地の青春。適当に都会で田舎」(注9)など。
(注8)「下山手ドレス」第19回より。ちなみに「私の半生ともいえるんでないか? 足かけ4年連載だもんなあ」とも。今となっては笑い話...。
(注9)単行本「ライン」第1巻後書きより。
単行本宣伝での「テーマは正しい処女の心意気です!」というのが印象強いですね。
本作品での注目点は「高校生」「美紅の恋」「舞子の恋」ということになる。と、今回は簡単に挙げておきましょう。詳しい考察は次号に。今回はこの辺で。」



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