教養講座「西村しのぶ概説」 第9回

(初出:第20号 98.11.22)

「や、何か先月は先生自らの話を読める機会が多かったみたいで。一応載せるまでに確認した情報は入れたんですけど、間に合わなかったものもありました。その辺のところは別項に書いております(編注:今号の「TOPICS」にて。よろしく)からここでは触れません。
しかし先生は大学を中退してたんですね。寡作というのも本人が望んでのことでは無かったとか。知らなかったことはその他にもあります。だからどうと言う話ではないのですが、今までの話ってそーいうの、知らないで進めていたものですから。読み返すと、たぶんあっ!これは違う!っていうのがボロボロと...(たぶんメールでも色々と)。どうも失礼してましたってことです。
本題に入る前にもう一言だけ。この文章を参考にされるのはむしろ有難い話ですけど、まんま引いちゃ芸ないっスね、某ページの作成者さん。ファン活動には興味が無いので、地味に展開するこの企画ですけど。思ったより重宝されているようで何よりです。(→文末発行人注)
閑話休題。「美紅・舞子」を読みましょう。
前回お話しした通り、「高校生」「美紅の恋」「舞子の恋」の三点から眺めて見たいと思います。
第1話冒頭、「ジバンシーのイザティス」。先生が後悔してます(注1)が、男性読者のほとんどは理解もしていなかったかと。舞子は校内でも評判の美少女&お嬢様(注2)。そして美紅も1年生ながら他クラスの男子に注目される(注3)いい女であります。さっそく目を付けたのが、強気で世の中を渡る男、相川(注4)。そして第2話で先輩有末が登場です。ここまででこの作品の主要人物が出揃っています。
(注1)光風社版あとがきより。
(注2)「田舎だからもう芸能人あつかい」(第6話)
(注3)「かわいい子いる?」「ほら左のはじっこ(美紅)」(第1話)
(注4)相川穂高。「サードガール」ではバーテン、神大生で登場するなど、初期に見られた名前。由来は未聞。
掲載誌の「スピリッツ」は青年漫画誌ですから、反響を呼んだのは想像に難くありません。新鮮な驚きの声が上がったと思われます。当時青年誌はラブコメ全盛。校内一の美少女に、主人公がアタックする。そしてその美少女は、正しく聖女なのです。ところが本作品は、冒頭から口喧嘩。でもって「タバコの似合うしなやかな指先」を持ち、誘惑、甘言に流されずに主張する女の子二人が主人公です。しかしこの特徴は逆に青年誌向きとも言えます。似た型の女の子が主人公の作品は、当時少ないながらもあるにはありました。特筆すべきはむしろ「いい男」が登場するという点になります。そう、校内きってのいい男が登場する恋愛物語は見たことがありませんでした(注5)。
(注5)青年誌で、の話しです。恋敵役としては出て来ましたけど。性格は歪んでいたりする。
単に甘〜いだけの男なら、キザ、嫌味なんて反発もあったでしょうけど。その辺の描き方は絶妙なところ。最新の情報を付け加えますと、「夢と現実の境界線ギリギリかも知れませんけど、そのギリギリのところでリアルだと思うんです。そのギリギリのところで、私(先生)は「あるよ」って言い切れる。」(注6)。我々よりちょっとハデ目な高校生活が描かれているようで、エピソードの一つ一つは実は我々が体験していたことだったような気が、するのです。当時彼等と同い年だった私が魅かれたのも、単なるアコガレではなかったのかも知れません。
(注6)「コミック・ファン」第3号(雑草社)インタビューより。
話しを戻します。第1話、2話は前後編としてこれだけで独立した話と見ることも出来そうです。根拠としては、掲載時期が第3話との間に1年半ほど開きがある点、第5話まで、結論が全てこの両話に帰結する点を挙げます。前回有末の人物設定に変更がみられると言いました。当初の有末の人物像は「耽美派、少女趣味の2枚目」。確かに第2話での描かれ方はこの通りです(注7)。しかし第3話以降この線は消えていきます。もっとも、この「耽美派〜」はあくまで舞子と相川のセリフにしか出てこない(注8)のでありまして。虚像と実像では違っていたと考えても良さそうなのですが。有末との出会いは第一印象からでしたから、この両話を序章と見ても良いのではないかと思えたわけです。ま、たいした効果はないんですけどね。それよりも、第5話までを本作品の前半部と見る考え方を推しておきたいですね。舞子と相川、美紅と相川、美紅と舞子、美紅と有末の関係は、第6話(文化祭)まで進展しません(注9)。ここまでで語られていることは、恋愛中の日常。ゆっくりと、共有する過去が増えていく様はそれだけで良質の恋愛物語として成り立つような気がします。
(注7)第2話、「如月さん!」のセリフが象徴的かと。光風社版では「美紅ちゃん!」と書き換えられていることからも間違いないようです。
(注8)しかも第2話のみ。
(注9)舞子。第1話と第4話のラストの一致。「操の概念が一応、あって〜」(第5話)という恋愛観は第1話ですでにみられます。美紅。愛人志向(第3、4話)ながら誰かの一番になりたい(第5話)お年頃。この恋愛感情は第2話ですでに表われています。
でここまでの恋愛像は「サードガール」と共通項が多いです。盲目的でないところとか。そのかわり後半(第6話以降)は又、別の展開が待っていると。いよいよ「恋に生き急ぐ」(注10)訳です。
余談。舞子と相川の出会いについては語られていませんが、想像付きますね。お互い付き合ってみたら意外とお買い得だったといったところではないでしょうか。
(注10)下山手ドレスより。
分量的に、いいですか?(編注:...いいです。)では一気に参りましょう。
といっても後半はあっさりとまとめたいと思います。あんまり野暮なことは言いたくないですし、割と分かりやすい構成ですよね。第6話が両者の転換点になるかと思われます。近い将来の別れを実感した訳です。で、第7話。二人とも行動に出ます。舞子はそこで一つの確証を得たわけですが、美紅の方はまだ持てません。その差が今後の展開、そして結論に表われます。
「距離ってのは、結構なストレスだ」とは「サードガール」での涼のセリフ(注11)。これに表わされるように、先生の作中で(精神的、物理的、時間的)距離を置いた恋愛は成就しません(注12)。青少年去りし後、舞子の言。「大事なのは恋(を)する心よ。」。同、美紅。「好きだよって、よく効くわ。その一言で気が済んだみたい。」。美紅の場合は百合の一言も合わせて考えてみましょう。「だれもだれかを不幸せにも幸せにもできないと思うよ。」。この言葉、美紅は理解出来なかったようですが、私は納得出来なかったととりたいと思います。で、結論。
の前に余談。美紅と舞子が分かり合えたのは、第6話であると私は思いますね。最終画面での意気投合。中原嬢が的確なコメントを寄せております。第7話冒頭ではまだシコリがありますが、以降美紅と舞子の会話は親友のそれですよね(注13)。
(注11)第52話より。
(注12)短編に例外あり。というか当てはまるのってこれと「サードガール」位?
(注13)第8話、「ありがと、美紅」〜など。枚挙に暇なし。しかも名セリフ揃い。
結論です。少し成長した舞子が思うのは、私が恋することが何よりも大切だということ。美紅の場合、愛を受けることに能動的になることで幸せは得られるということ。
どちらも恋愛に前向きにという結論であり、「娘たち、いたって元気」なのであります。
...ま、こんな風にややこしく考えず、素直に読むのがいいですね。
とりあえず次回は短編を少し眺めてみようと思います。そして第2部、結論です。今回はこの辺で。」



発行人注:あるホームページにおきまして、明らかに当文を無断で引用されている箇所が認められました。執筆者の意向でアドレス等は公表いたしませんが、本誌掲載の全ての記事におきまして執筆者に無断の引用はお断りしております。常識として、事前(後)報告をよろしくお願いいたします。
本誌発行人 高橋 基樹


「過去の原稿が読みたい」ページへ戻る
 
第10回を読む