銀玉狂騒曲

(初出:第22号 99.1.20)

僕らにもバブルはあったんだ、と気付いて

学生パチンカーアサヒくんの非っ日常
「デロ ディ...チャンチャンチャカチャカ...」
この音に聞き覚えは無いだろうか?
音を正しく表記することなど、無理な話。ではこう説明を入れれば、大丈夫だろう。
「コ◯チ3のファンファーレと、ボーナスゲーム中のBGM」
ああ、なるほどと思われた方が、これで何人か増えたはずである。
もちろん「デロ・・・」が「777」のフルコーラスではない(本当はもっと長く、しかも繰り返す)。
通である皆様には
「ははーん、これは揃えた途端にベットボタンを押して、音を消した訳だな」
と感づいてもらいたいところ。

で、そんな生意気なことをやっているのが...我らがアサヒくんなのである。

(さっきが32ゲームで、その前が16。今度が25。よしよし、完璧入ってるわ。)
この「コ◯チ3」は、「セブンラッシュ」と呼ばれる集中役が搭載されている。その分、各ボーナス確率は低い。しかしこの店の「コ◯チ3」には、さらに「ビッグラッシュ」と呼んでいる、「ボーナスが高確率で入る」謎の機能が搭載されている。早い話が裏モノだ。もちろん、その突入確率は低く、20台ちかくあるこの店でも稼働率100%で日に一台、入るか入らないかの割である。

アサヒは今、その「状態」に突入していることを確信した。
(何ヵ月振りだろう)
ここのところ3回に一度は打っている機種だ。もっとも、この台に座るのはパチンコその他で夢破れ、手持ちの最後の金を(せめて一矢)と託す程度のお付き合いだからまさに偶然の産物と言えるのだが。
今日は珍しくこの店に来て最初に座った。それが効を奏したか。
投資わずか5千円。「集中」→「ビック」→「ビッグラッシュ」ときて、すでに箱半分に下皿は満タンの状況である。
終了後3ゲーム目。まだクレジットは40台を指している。
左リール中段に「7」。中リール中段にも「7」。
いわゆる「2リール確定リーチ目」である。悪くて「レギュラー」、良くて「ビック」。さらに「集中」の可能性もあるアツい出目だ。...普段なら。
アサヒは当然のように右リール、「7」を「外す」と、次ゲーム「一枚掛け」で左リールに「7」を「外す」。そして無言で下皿のコインを箱に移し、14枚のコインを手にカウンターへ向かった。
ジュースを手にユーサクの元へ。こちらは「ニュー◯ル」にて奮闘中。
「どうよ、調子は?」
「バケ、バケ、ビック、ビック。設定はいいのかも知んないけど、まとまって入んねーよ。そっちは?さっきから音、鳴ってるみたいだけど。」
「ああ、ずーっと50ゲーム以内の連チャン。ひさびさの「ビッグラッシュ」継続中だぜ。今もクレジットで入った。あれでバケだったら大笑いだけどな。たぶんビックだろ。」
「くっそ、いいなあ。俺もこれで出たらそっち行きてーよ。おっ!!」
はさみ打ちで左リール上段「7」、右リール下段「チェリー付き7」の明解リーチ目だ。
「危ねー、惰性で中押すとこだったぜ。」
「どうかなー?バケじゃないの?」
「そ・ん・な・わ・けないだろ!うりゃ!」
中リール、すっ、と「BAR」が落ちる。
「ほら。ビックかっくていっ、と。」
「今のホントか〜?7狙ってミスッたんじゃねーの?」
「んな訳ねーだろ!?やっぱカエルで揃えねーと、うれしくねーんだよ!」
ユーサクは「1枚掛け」で中段に「カエル」をヒット。しかし右ボタンの指を離さない。
「何だよ、早く「ゲコゲコ」、聞かせろよ。」
「へっへっへー、これ知ってる?」
ユーサクは指でボタンを押したまま、左手でレバーを下に下げるとボタンの指を離した。ファンファーレは鳴らない。さらにレバーに手をかけたまま、今度は右手でベットボタンを押し、レバーから手を離す。それでもファンファーレは鳴らない。
「くっだらねーなーもう。わかったよ、わかったから早くしろよ!」
「イッツマジック!」
ユーサクはこれを必ずやる。いつも。必ず。モノズキな奴。
「テロレレーレレットロ、ッツッテーレロットットロットー!」
...すいません、もうやめます。
「...どうすんのよ、こっち来る?席取っとく?」
「...やーめらんないっしょ!」

アサヒが戻ると、すでに各リールはバラバラの出目で止まっている。再び「1枚掛け」で今度はきっちり「777」を揃える。...もちろん、即「音消し」。

なんてイヤミな奴。

空気が澄み渡っている。太陽がマブしい。寒くない。
一年で一番過ごしやすい季節、春だ。そして出会いと別れの季節。
ユーサクとはこの春休み、会っていない。開けても学校で会う機会はもう無い。
俺は、というと今年はマジメに学校へ通うことをすでに誓っている。家もすでに学校へ近いところへ移った。あそこへは、俺もユーサクも再び足を向けることはあるまい。さらば青春!〜の光〜り〜、あの頃俺とお前は〜♪。

さて、AM9:55。パチンコ屋通いもあと1ヵ月ってとこだなーと考えつつ、店の前に並ぶ。引っ越してわずか一週間。すでに駅への道よりも早く、パチンコ店の所在を網羅している俺だ。
この近辺にはここ1店しかない。隣駅には数店舗存在することを確認しているが、自転車でも20分はかかるので気が乗らない。この店は割と広くて、パチンコもパチスロも入っているし、何といっても客が少ない。しかも年齢層が高く、ま、つまりボケ野郎が多いってことだ。
朝取りを主にしている俺にとっては結構いい環境。

開店。前にいるオヤジを押し退け、スロットコーナーへ。この店では「ア◯ジン」とスロットのモーニングが朝のメインだ。
この店、モーニングを入れてはいるが、撹乱作戦か何だか知らないが朝出目をくるくると変えている。前の日の最後の出目そのままの時もあれば、全台「777」に揃えている日もある。で、今日は出鱈目の出目だ。つまり、全台無理やり「リーチ目」にしてあるんである。コマッタモンダ。
結局最近のモーニングの傾向を考えれば分かるんだけどねー。
外してもこの店には「保証」があるから安心だ。スロットは「ニュー◯ル」と「ニュービックパ◯サー」の2機種しか存在しない。で、大半のオヤジはほとんど期待できない「ア◯ジン」へ向かう。スロットはどうやら「良くわからん」らしい。で、一部の人間も「ニュー◯ル」へ。「ニュービック〜」はかつての規格、「レギュラーゲーム6回」の台。古い人間が古い機種を避けるとは...俺は好きだけどなあ。でも最初は「ニュー◯ル」行くけど。そんな訳で全台打たれてしまっても「ニュービック〜」には必ず「取り残し」があるから安心なのだ。(もちろん、それが開店後10数分の保証であるのは言うまでもない)

さて、今日は昨日の3台連続入っていた「隣」の台だ。心無しか出目も他のに比べて怪しい感じ。「1枚掛け」でまずは「7」を狙う。ピタッ、と「7」が中段に入る。よしよし、これで右に「7」がくれば、と。緊張の一瞬も、入らなければ速攻で次の台に移りたいので一気に決める。ほい「7」、ズバリ!だ。
後は余裕である。ここで改めて周りを確認する。現在8人が座っていて、3人(俺も含め)が当りを引いている。台は全部で15台。(あと2台か3台だな)
「ニュービックパ◯サー」には3人。こちらも台数は15台。しかしこちらはたぶん3台入っているか。と、一人の台が軽快な音楽を鳴らし出す(もう書かないよ)。
(また、あいつか...)
俺と同じ位の年の奴。最近見知った顔だ。常に「ニュービック〜」の方を打っている。ま、若いからだいぶシステムを理解しているようで、モーニングは外してないようだ。もちろん、俺もだけどね。とりあえず、シマを食い合っていないからいいけど。「ニュー◯ル」の方に来られたら、結構マズい。
さて、そろそろ揃えよーっと。

...入ったのもあっさりなら、飲まれるのもこれまたあっさりだ。すでにコインは無い。開店後わずか30分。このまま引き下がれる訳が無い。
「ニュービックパ◯サー」の方に、今日はまだ「朝出目台」が残っている。みんな以外と1台に粘っているのだ。どれどれ、まだ1台は残ってそうだな。
んーと、とりあえず奴の1台隣でも試してみっか。
しかしこの機種、「7」が見えにくい。というかリール配列がまだ良く分かってなくて、リーチ目も数種類しか知らない。
(ま、入ってりゃ勝手に7が揃うっしょ)
...数ゲームの後、この台は外れであることがどうやら判明した。クソッ、じゃどれだ?
残りコインを消化していると、何だか妙な出目。ん?おかしーな。
残りコインは5枚。とりあえず「1枚掛け」で試してみる。いや?違うか。
3枚掛けで1ゲーム。ん?これは...?
困った。「7」と「BER」が一直線のいかにもな出目。入っているのか?しかし残りコインは1枚。もう千円入れるのは惜しいし、かといってこれを確認しないことには...。
「あ、あのー。スイマセン、これ、入ってるか分かりマス?」
「え?」
これが、まあ、予想通りキューちゃんとの最初の出会いだった訳です。
結局この時はバケで、その後リーチ目を教えてもらいながら、この店の「いかに甘いか」について語っていく内に仲良くなりました。

そして1ヵ月後...
学校が始まっているというのに、こんな会話。
「おはよーッス。いや、眠いね。」
「あれ?今日はバイトじゃなかったっけ?」
「うン?ああ、昼から。起きれなくってサー、電話で具合悪いんで遅刻します言ってきた。」
「で、ここには遅刻しないのねー。」
「へっへっへ。ここで勝てばバイト休んでも影響ないっしょ。午前中の分、稼ぐぜー?」
...学校は?

このところ、朝の会話が週1でこの話題。
「よー、今週のタ◯ムラ見た?」
「おー、昨日読んだ。いやいや、笑わせてくれるよなー。今回は「黄◯ちゃま」のリーチ目だとさ。試してみる?」
ちょっとしたブームである。週刊漫画誌に連載されているパチンココラム。筆者は独自の「オカルト理論」を基に連勝を続けている。とのこと。
我々はもちろん、信じていない。が、この「考え方」にはちょっとした関心、いや感心している。
「2箱飲んだ台は3箱出る。でも3箱飲まれたらその台は一日出ねーゾ」
なんて言う「オヤジのタワ言」とは一味違う。綿密な観察と知識を持って展開しているのだ。それで何で「リーチ目」なんて出てくるのかは知らないが。
最近は二人ともモーニングにそれほど情熱を傾けていない。二人して進化した結果、あの店の「モーニング台は設定が悪い」ということに、今さらながら気付いたのだ。つまり「千円で出ても勝ちにくい」と。で、どうやら店自体の景気があまり良くないということで、ここはビジネス・ライクにいこう、と現在は隣駅のパチンコ店へ「遠征」している。
すでにだらけた朝取りに慣れていた二人は、盛り場のパチンコ店では思うようにモーニング台が取れなくなっていた。
そこでここのところ流行りの「CR機」に走っているのである。
CR機。登場当時は特に規制は無かった(何といっても「連チャン」機の代わりだっただけだから)ものの、最近では確変突入&継続率に幾分規制がある。現在の主流は「突入&継続率1/3、2回ループ」の台、いわゆる「フルスペック台」である。
そしてこの仕様では様々な「名機」が登場した。
以下、それら「名機」と我々の「蜜月期」の一コマを紹介しよう。

この日は朝から二人とも張り切っていた。週に1度の「完全空き日」。といっても「無理やり作った」日でもある。キューちゃんは彼女に「臨時のバイト」とウソをつき、ケータイの電源をオフにしているし、俺も有り金が無くなり次第、ただちに学校に駆けつけられるよう、教科書の入ったバックを持参している。ただし二人の持ち金は合わせて10万。これが無くなればの話だが。
この「フルタイムパチンコデー」は二人で考えた案だ。お互い休日は大事にしたいもの。店も混むし。で、平日の一日だけ都合を合わせて朝から晩まで「打つ」のだ。何故こんなことをするのか?それはこの日だけは何と言っても「フルスペック台」を打つからである。投資から時間から、CRは毎日打つに適当ではない。しかしすでにその爆発力のトリコになっているから、週に一度は打たなきゃヤリきれん。しかしさすがにその道は険しい。って訳で、せめて道連れを...死に水をとってくれる人がいないと...となった。
ま、週に2度、3度となる「例外」は日常茶飯事であったが...。
今週はまさに一度目だったわけである。気合いの入れようは持参金が示している。ちなみに店の前での恒例の時間つぶし(会話)は
「昨日さー、渋谷出れなくて結局、コンビニで雑誌買ったよ。140円損したー。」
「何だ、言ってくれれば今日持ってきたのに。」
...であった。...どういう金銭感覚だ?

開店。この店のシステムは午前11:00までの大当りで終日無制限。以降確変大当りで無制限。その他1回交換。
まずは「CR黄◯ちゃま」。「フルスペック」ながら、確率は一定なので、釘次第の台。
まずは2人とも順当な回り。このペースだと1万で1時間の感じ。
と、5千円券2枚目の途中でキューちゃん、「8」の当り。これで「無制限札」ゲットだ。
「よう、いい感じじゃん。」
「まーねー、ヤシチが後ろ長く向いてたから。タニ◯ラの言う通り。でも単発だからね。アツくなかったよ。」
俺の方は1万を過ぎても当り来ず。午前11:00、10分前。ま、この回転だったら大丈夫か。再び5千円券を購入。
この3千円目で3(当れば確変)のリーチ。「ポワポワ..」と音が変わって、きた!ハチベエだ!
ゆっくり歩いてきて、ジャーンプ!...失敗。
うーん、しょうがないか。結構アツかったのに...。
と、キューちゃんの台がいきなり光り始めた。パトランプ点灯。え?当った?
「何、なに?何がきた?」
「えーっ!?どノーマルできちゃったよ!姫!いやービックリした!」
驚きつつ、満面の笑みのキューちゃん。
対照的に心中穏やかでない俺。
(マジかよ...タニ◯ラ理論だと、ノーマルの確変当りは大爆発の予兆だったハズ...)
完全に調子が狂う。リーチもこれといって期待出来るものが来ない。
キューちゃんは、3回目に首尾良く再び確変を引く。これで5箱確定だ。
2万5千。ここが引き時かも。これでは確変を引けなければ取り戻せない。
「...ちょっくら、移るわ。この調子で頑張れよ。」
「おお、これ(確変)終わったら、ジュース持ってくよ、コーヒーでいい?」
「うん..。」

さて、目指すは「CRモン◯ターハウス」である。確変突入&継続率1/2ながら、確変終了後200回転の時短付きでそこそこの爆発力を持つ。まあ、大当り確率はやはり結構..キツい。
(1万程度だな...それでダメだとちょっとCRはヤメにしないと...)

1万...5千円目。もうかなりキている。
すでにハンドルは固定して、目はウツロに盤面を見つめている。
頭の中は金勘定と回転数をカウントしているばかり。
323回転目。3連続めの「スベリ」だ。ピクッと体が反応する。
(これ...3連続だよな?確かスベリ始めで保留4つついてたハズ..)
この出目は外れ。いよいよ4連続。
(スベッ...た!)
(リーチ来いリーチ来いリーチ来い!来たっ!!)
左出目が「3」、右出目がそこで「2」を指している。確変だっっっっ!!
中出目が「3」を過ぎて高速回転を始める。オバケが登場して画面右下へ。
(よっしゃーよっしゃーこれはOKでしょ!)
いわゆる「オバケつかみリーチ」だ。信頼度はおよそ6割。
当然のように「1」の手前でスローに。つかんでる、つかんでる!
はい、「2」。はい!「3」!..戻れ!「4」!
!!?
ハ、ハズシテシマッタ...レンゾクスベリ...シカモツカミリーチデ...

俺は何を信じればいいんだ?

時刻は正午をとっくの昔に回っている。俺はすでにジンジョーではない。
この結果を機関銃のようにキューちゃん(現在7箱キープ)にぶちまけると、全体重を椅子に預ける。座った機種は、泣く子も黙る「CR大◯の源さん」。
その雄姿はご覧になったかたも多いだろう。もちろん「フルスペック」、「時短」をも搭載したまさに時代の象徴だ。
芸能人にも「ゴッ◯ねーちゃん」やら、「ヤマ◯カツてない」など、ファンは多いと聞く。
ともかくこの台、俺もずいぶんお世話になった。しかしそれ以上に泣かされている。すでに4万の赤字を背負って(しかも相方バカ勝ちして!)いる今の俺が立ち向かえる相手ではない。
しかし前述のように俺はすでにジンジョーではない。
ちらっと、これで負けてもキューちゃんから金借りれば生活は出来るな...と思っていたことだけ、告白しておこう。

最後のカードは2千、3千の分割にした。
5千円券を9枚買い続けた、この店へのせめてもの抵抗だ。意味は...あるわけねーだろ。何だバカヤロー。

...申し訳ない。こっから先、実話なんだ。
回転数は、数えてない。ともかく9千5百円目。総額4万9千5百円目だ。
盤面のデジタルは、突如紅蓮の炎に包まれた。源さんが、アツく拳を突き上げている。

全回転リーチ。すでに呼吸すら困難だった俺に、この台はさらに追い打ちを駆けてきた。
「タッタッタ、タッタッタ、タッタッタ、タッタッタ...」
(ここで止まる...ここじゃダメだろ...)
すでにデジタルは表示上、確率1/2の数字ゾーンに突入している。単発絵柄と確変絵柄が交互に停止する。あくまでマイナス指向で。盤面を見つめる俺。「6」で壊れない。ならば信じよう。

「777」。確変の女神は、あまりにあっけなく我の元へ舞い降りた。

「おい!やったな!きたじゃんよ!」
目敏くチェックしていたキューちゃん(俺の裏のシマだ)が駆けよる。ああ。来たよ。やっと。やっと!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

後にキューちゃん回想す。
「あん時はマジ笑ったよー。何つっても涙目になってたもんなー、お前。まあ、気持ちは分かるけどねー。しかしドラマだったよなー。」
俺もあの時、高校時代の友人のセリフが頭に蘇った。
「2万一気だよ!マジで。もうかなり泣き入っててさー。頭ん中(マズい、マズい、今月どうすんだ!)って。死ぬかと思ったよ。そしたらさー、2万、ぴったり2万円目だよ!?入ってくれたのよ!!これが!ギリッギリで!ドラマだったよ!」

従ってこの先は、詳述を避けよう。
ザクザクと下皿から玉を箱に移しながら、俺たちはそれから8時間もの間、至福の時を共に過ごした。店内の全ての人々の目が、必ず俺たちの聖域を前に一瞬止まる。その時の憧憬と嫉妬の微妙に入り交じった表情を横目で眺めながら、手は忙しく玉の移動を繰り返す。
何人かのオヤジが、俺たちに祝福の言葉を投げかけた。
「おう!兄ちゃんたちスゲーな!この店ツブれるぞ!」
あまりに無粋で野暮な言い種だが、今の俺たちには百万の親兵のトキの声も斯く在らんといった感じに聞こえていた。

結果。キューちゃん21箱(11万7千円)。アサヒくん26箱(14万1千円)最高19連チャン(時短中引き戻し含む)。
共に10万オーバーの現金を懐に収めたのであった。

この時期の名言(迷言)を一つご紹介しよう。
「何かさー、出なきゃマジヤバい授業のある時に、それが始まる頃に必ず確変引くんだよねー。で、そん時思うわけよ。(ああ、俺は金もらって単位落としてんだなー)って。」
...馬鹿話。

「モーニング廃止だって?」
この話は前々から流れてはいた。同時に連チャン機の自主撤廃も本格化するという。
しかしまだ実行に移されてはいなかった。どうせまた、ウヤムヤになる話サ、だいたい朝イチで行く客がいなくなるだろ。困るのは店だって同じだろ。
「それが結構今回はマジ話らしいよ。どうやら行政側が...」
と、これ以上の話は置いておいて。
「ならば思い出に」とさっそく今日は行き先変更。駅を越えずにあの店へ。
だって確率高いんだもん。別に勝つつもりじゃないし。
店の前には相変わらず人が少ない。並ぶのがためらわれる程だ。
しかし「いつもの」常連オヤジが健在。うん、世の中平和だなあ。
さて。急遽だったので早くも開店。

「おおっ?いつの間に!」
台が入れ替わっていて、「ビックパ◯サー」のところには「ク◯ンキー」、「ニュー◯ル」のシマも半分が「ピ◯パン」に。
「やたっ!俺ク◯ンキーやろっ!」
先日「リプレイ外し」の攻略法が開発されて以来、すっかり「お気にの台」になっているキューちゃんは早速移動。俺は...と、やっぱり懐かしさ優先で「ニュー◯ル」へ。
しかしここで気になること。人が益々少なくなっている。今、スロットのシマにいるのは5人。しかも出目よりも昨日の大当り回数(隅に手書きで告知してある)が気になるご様子。もしや...モーニングすでに無い?
「よう...これってさー...。」
キューちゃんも事態を察したか、台選びもそこそこに俺に近寄る。それでもしっかり、端台を確保しているのは玄人のカガミ。
「うん..ひょっとするとな。とりあえず様子を見つつにしようぜ。」
俺もひとまず無難そうな台を確保し、ゆっくりとしたペースで打ち始める。今日の朝出目は「777」バージョン。これを見るに、まだ大丈夫..のはず...だ。
と、1台のマシンがいきなりファンファーレを鳴らす。
「ん!」
「うん!」
よし、モーニングセットはまだ「あった」!こうなったら採算度外視、当てるまでカニ歩きするぞ!

30分後...空は高く、ウロコ雲。季節、秋。心の中は、すでに真冬。
「まさか...」
「ああ、あの1台だけとは...自力じゃない?」
その後、この店に寄ることは2度となかった。

隣駅の店でもほどなく、パチスロのモーニングは無くなっていった。
時代は常に流れている。ほどなくボーナスゲームでいかに多くのコインを獲得するかに焦点は移り、そして新基準、「CRパチスロ」ご登場となる。(現在は更に基準が変わったと聞く)
ゴト師暗躍の「裏ロム」セット機も次第に(多くは任期満了だが...)姿を消し、「裏モノ」か?との情報も噂だけの物になっていっている。
読者諸兄の中にも、裏モノを実体験した方は確実に少なくなっているのではないだろうか?
パチンコ。あの黄金の連チャン機(保留玉連チャン、モード移行型、連チャン継続型etc)もすでにほんの一握りしか生存していない。そう、かつての「オマケチャッカー」も今はすでに、単なる賞球口に変わってしまっているのだ。一発台、特殊デジパチ、特殊権利物のゲーム性を踏襲した台はすでに骨抜きにされている。その変わり、今は「ヒラ台」にまでデジタルが搭載され、確実に「住み分け」は無くされてきている(まさに時代はボーダレス)。

別に過去を礼賛したい訳じゃない。スペックも過去の方が良かった訳じゃない。今の台が悪いとは言ってないし、だから通うの止めましたなんて訳ではもちろん、無い。
ただ...運てやつを頼りにすることが、だんだんと出来なくなっているんだなあ...なんて思う、今日この頃なのです。

(了)



えー、とりあえず3話目は割と実話絡みで書いてみました。数少ない「いい」思い出のヒトコマです。もうちょっと普遍的な楽しさや面白さを表現出来るようになるか、または読んでいて恐ろしくなるようなリアルな描写が書けるようになったら続編を出したいと思っています。ひとまずここまで。


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 続編できました。