銀玉珍道中

(初出:第21号 98.12.20)

古き良き時代に、乾杯

学生パチンカーアサヒくんの誕生

「おいっ!揃ってるって!!」
隣のオヤジの声にハッとする。が、どうしたらいいのか分からない。盤面に玉は出ず、機械は景気のいい音楽をビコビコと鳴らしまくっている。
僕は汗ビッショリで、それを見つめている。
と、隣のオヤジが僕のズボンの前に手を持ってきた。
そして手をクイッ、と動かす。僕はビクッ、と反応する。

途端に「ジャララララーッ!!」と耳をツンザクような音。
「おおっ、何〜によ、揃ってんじゃん。」この声は友人。
「いやはっはっは、...当たり?これ当たり?」
「フィーバーだよ!いくらいれた?」
「...分かんない。それよりこれ、どうすればいいの?」
「いいから!そのまま打ってな!」
「でも今玉出なくなったんだけど...。」
「んん?...ああ、玉詰まったんだろ。下皿から箱に落とさないと...いい、いい。俺がやってやるから。お前はハンドル握っとけよ!」
「う、うん。」

チーンジャラララ...
「...しかしスゲーな、よく出たなおい。」
「よく分かんないんだけど、ここ(盤面下の両脇)の穴に玉が入るから、そこ、狙ってたんだよ。そしたら何かここ(大入賞口)がパカパカ開くようになって...」
「はあ?...お前本当に何も知らなねーなー。いいか?...いや、説明すんの面倒臭せー。後で教えてやるよ。今はいいからこの辺(ブッコミ)狙って玉出しとけ。」
「ん?ここ?こんな弱くしていいの?」
「そこ狙うのが普通なんだよ!ったく、そんなんで出るかあ?ビギナーズ・ラックってまさにこれだよなー。」
「ねえ、ここ?ここでいい?」

チーンジャラララ...
「...簡単に言うと、ここ(ヘソ)に玉が入ると、これ(ドラム)が回るんだよ。ここ(盤面下の両脇)に入っても回るけど、これは単なるオマケなの。んで横一列に揃うと大当り。ほら、真ん中で揃ってるだろ?7じゃないから交換だけどさあ、お前これ、見てた?」
「...これって動いてたの?」
「...はは、そんなもんか。ん?
と、....おい!これ連チャン機じゃん!お前スゲーよ。」
「レンチャン?何それ?勝てるの?」
「...今でも充分、モト取ってるよ。違う、もっかい大当りが来るかも知んない台だって話。おっ!終わったぞ!」

「...ま、そんな簡単にはいかねーよ。さて、これ(箱)持って。こっちだ。」
「...重いねえ、これ。」
「一箱なんざたいしたことねーよ。俺、三箱いっぺんに持てるぜ?よし、じゃこれに玉入れろ。」
ザーッ!!!
「ところでまだやるか?一応タバコ置いてきたけどよ。」
「...これで止めれば勝ちなんでしょ?んじゃ、いい。早く出ようよ。」
「でもあれ、まだチャンスあるぜ?」
「つーか、隣のオジさんが睨んでたんだよ、ずーっと。マズいよ、目ぇつけられたかも。」
「...うーん、大丈夫だと思うけど...まあ、いいか。んじゃ換金してさっさと出ようぜ。これ(レシート)、あっこ行って換えてこいよ。」
「俺、金にしたいんだけど。」
「...黙ってわたせばそうしてくれるんだよ!」

「...おう、いくらになった?」
「ん?...こんなんもらったんだけど...どうすんの?これ?」
「バッカ。これがブンチンっつってこれを両替所行って金に換えんだよ。えーと、5千750円か。お前、いくら使った?」
「さっき財布みたら500円くらいだった。」
「500円?何だよそれ?けーっ!俺3千持ってかれたんだぜー!?」
「オゴるよ、何か。」
「当ったり前じゃん!飯、オゴれ。...それより、その金で別な店行かねーか?お前今日ならいくらでも勝てるぞ?」
「いい、いい!すっげー緊張した!やっぱマズいよ、警察つかまるって!」
「逃げりゃいーんだよ。ま、俺もう持ち金ないから俺は見てるだけだけどねー。」
「マジ何でもオゴるからカンベンして!シンゾーに悪いよ、これは。」
「んじゃゲーセンでも行っか。」

4年後...
校庭にてランニング(部活中)。ノルマ10周。部長が突然言い出した企画。
面倒臭ーなー。なんで俺たちまで。
5周目。と、昼休みに学校から消えたヤツがニヤニヤしながら部室から出てくる。
「遅ーえよ、どこ行ってたんだよ。」
「え?今日新装でさー。それが聞いてくれよ!マジかなりアツかったんだよ!」
「何、勝ったの?」
「それがさー、いい?
昨日仕送り入って2万持ってったんだよ、一応。でも新装だから絶対使うことないと思ってたんだ。で、一発台いったんだけど、モーニングとれなくてさー。他の台みんなふさがっちゃってて、しょーがねーから、続けてたんだよ。したら隣の友達が連チャンしちゃって、止めるに止めらんなくなっちゃって。2万一気だよ!マジで。もうかなり泣き入っててさー。頭ん中(マズい、マズい、今月どうすんだ!)って。死ぬかと思ったよ。そしたらさー、2万、ぴったり2万円目だよ!?入ってくれたのよ!!これが!ギリッギリで!ドラマだったよ!結局2万入れの3万戻し!しかしスゴかったぜー?」
「何よ、1万勝ちじゃん。何かオゴれ。」
「いや、それは無し。」
「何でよ?1万勝ってんじゃ〜ん!」
「本当はもっと勝ってるはずだったんだもん。友達がそれから半分飲まれちゃって、もう帰る言うからさー。」
「何〜?お前部活もサボるつもりだったのかよ?」
「当ったり前じゃん!生活賭けてんだぜー?」
「そんなんお前も何?ノマレ?てたかもしんないだろ?」
「いや、あのパターンはまだイケたね。5万くらい出てたはずだ!」
「そんなん出るか〜?一回出て6千弱だろ〜?」
「連チャンがハンパじゃないんだって!マジ5連チャンとかすんだぞ。何つっても一発台だからな!」
「...その一発台って何なのよ?デジパチじゃないの?」
「はあ?お前パチンコ知ってんじゃないの?全然違うっしょ。」
「俺はだから中学ん時に一回勝っただけだって言ってんじゃん!知らねーよ、最近の台なんて。」
「...あのなあ、一発台って要するに一発入れば大当りするみたいな台なのよ。もちろんデジタルもついてるんだけどさー。モーニングっつって事前に大当りを入れとくのよ、店が。入ってる台は一発で必ず大当りするの。で、連チャンがどこまで続くかが勝負になるんだけど。モーニング入ってると、地獄に落ちやすいんだよねー。今日の俺の場合は自力で当り引いたから、天国モードバリバリ。絶対伸びてたね。」
「ふーん、地獄?天国?何か面倒臭そー。俺がやった頃なんて、ただ玉打ってりゃよかったぜ?」
「基本的には同じなの!ただハイ・リスク、ハイ・リターンちゅうの?めちゃくちゃアツいってこと!いやーシビレたねー。明日も3時開店なんだけど、どうよ?お前も行かん?マジイケるって!勝って、豪遊しようや。」
「俺そんな金持ってねーよー。勝ったらいいけど、負けたらどうすんのよ?今月まだ始まったばっかだぜ?タバコも買えなくなるじゃん!」
「だから新装だったら、絶対勝てるって!並んで座れりゃ勝ちなんだから!」
「いーよ、そんな大金別にいらないし。...それよりお前〜。部活には間に合えよ。最近遅刻者多いからこんな走らされてんだからよー。」
「何それ?俺だけじゃねーべよ。しかも今日だってちゃんと顔出してんじゃん。お前だってこの前何か映画観に行くってサボったじゃん!」
「...うん、まーな。その辺はお互い様ってこって。とりあえず、行くなら行くで勝ってオゴッてや。タバコくらいさー。負けて金貸してっつーのだけはカンベンだぞ?」

さらに2年後...
予備校の自習室。
扉を開けた男が、俺を呼ぶ。
俺は読んでいたマンガ雑誌を置いて、外に出る。
「メシ行ってたん?」
「違う!飯代稼ぎに行ってたんだけど、すごいって!5箱出しちゃっててさ。今行けばタバコくらいもらえんぞ!?」
「マジ?...んじゃ行くべ。」

「よう、すごいじゃん。」
「んー、アサヒか?何、今来たの?」
「いや、さっき来たとこ。みんなどうせメシくってんだろうと思って、自習室いた。」
「で、ここに来たってことは...?」
「へっへっへ、タバコ欲しーなー...ジュース飲みたいなー...。」
「しょーがねーよなー、俺だけだもんなバカヅキは。いいよ、箱から取って。」
「んじゃ遠慮無く。何発だっけ?」
「えー、55の25だから80発か?...おいおい、それは取りすぎ。」
「え?これで一勝負させてくれんじゃないの?」
「ヒラ台じゃないんだから、出る訳ねーだろ。そんなもんじゃあ。」
「他の連中はそのヒラ台で頑張ってるぞ。」

「おっ!何でタバコ取ってきただけで、当ってんのよ?」
「今天国モード入ってるからねー。
あーあ、やっぱり今日の昼飯代は貸しまくりになりそうだな。」
「でもあいつらだって打ち止めればそこそこ行くんじゃないの?」
「額が違うよ。俺、今もう3万は勝ってんぜ?」
「3万!?...すげーなー。一月遊べるんじゃない?」
「いや、バイクのローンで無くなるょ。それより、お前もメシ、食うか?少しならオゴッてやんぞ?」
「...いや、いいよ。タバコもらったし。メシは家で食ってきたんだ。コーヒー代くらいは自分で出すよ。」
「何遠慮してんだか。しかしお前もパチンコやりゃいいのに。バイトしてんだろ?金あんじゃんよ。」
「パチンコなあ...賭け事苦手なんだよ。すぐアツくなるし。向きじゃないね。」
「でも出入りしてんじゃん。」
「だってみんないるんだもん!予備校行くよりここら辺寄った方がはるかにいるぜ、お前ら。」
「勉強してるよー?俺なんか。確率とか、出玉計算とか。」

「うーん、このリーチが外れるってことは終わったかなー?」
「よー、昼飯代消えた〜。腹減ったよー。」
「だっせえ。ちょっと待ってろよ、これ(一箱)飲まれたらヤメにするから。」
「アサヒィ、外で一服してよーぜー。」
「おう、じゃ先出てるわ。」
「いつもの店行ってていいぞー。終わったら行くからー。」
「分かったー。」

...この後、一月経たずしてパチンコ店の台サンドに100円玉を投入するアサヒの姿を確認することになる。ちなみにその実質的デビューは夏期講習代3万円丸飲まれという惨々たるものであった。
...昼過ぎの「綱◯物語」のバカ...

1年後...
「よう、寝・て・ん・な・よ!モーニング取り行こーぜー。」
バイト先から帰ったユーサクが、朝も早よからハイテンションで騒ぐ。
寝不足でボーッとしたまま、タバコを一服。買ってきてもらった缶コーヒーを開ける。
どうせ1時間もたたずにまた飲む缶コーヒー。流行りの果実系にしてくれればいいのに...。
「んぁぁあーあ!ふう。今日はどっちにする?マツヤ?ハトヤ?」

家から近いのがマツヤ(徒歩3分)。ハトヤは隣駅(徒歩10分)の店。
ともにパチンコ店の名前である。どちらも「028」「808」とベルに打ち込む時にたいそう都合がよい。ので、通っている。

「腹減った。マック寄る。だからハトヤにしよーぜ。」
サンダルばきで顔も洗わないまま、家を出る。ぶらぶらと線路沿いを歩く。すでに陽は高く、すれ違う人も少ない。

マックはハトヤの目の前にある。
「今日も人、あんまいねーなー。」
「最近モーニング台少なくなってるからねー。昨日も4台?あれじゃ意味ねーもん。」
「いいかげん、俺らもやめにする?「エ◯サイト」、もう飽きたよ。釘シブいしよー。玉全然入んねーんだもん。」
「そうだよなあ。でもじゃ何やるよ?「綱◯」ぐらいしかないぞ、朝イチで打てんのって。」
「...スロット、行ってみない?」
「スロットお?っても俺、「ニュー◯ル」しか知らんぞー。」
「俺、「スー◯ラ」分かる。いいじゃん、行ってみようよ。あっこ、ほら、高架下にスロット屋あるじゃん。あそこ2つともあるぞ。」
「うーん...」
「モーニング取れなくとも1万ありゃ自力で引けるっしょ。「エ◯サイト」じゃ1万以上かかるぞ。朝イチからデジパチ行くより絶対いいって!」
「...行ってみっか?」

開店5分前。ドアの前に結構な人出だ。モーニングサービスがあるのは確定的。わずか100メートルの距離で今まで知ることもなかった世界。パチンコとパチスロには結構な溝がある。俺たちも、パチスロをちょっと別モノと見ていた。極タマに触ってみることはあったが、朝イチから、しかもモーニング取りは初めてだ。
開店1分前。店員が奥から出てくる。ドアの前の先頭の客は、早くも半開きのシャッターから中を覗き込む。「今日はあそこだ」「昨日はこことここ」常連客の会話も熱くなる。緊張の一時。この雰囲気は、全く変わりがない。
半笑いのユーサク。同じく半笑いの俺。
開店。派手な音楽も鳴らず、シャッターが上げられるのが開店の合図となる。せまい店内にサーっと陽の光が入る。人が一斉に動き、ホコリがキラキラ。
次々に下皿に投げ込まれるタバコ、カギ、ライター。
「どうする?」「ニュー◯ルだっ!」
気圧されて中に入ると、瞬間的に隣同士に席をとる。しまった!

単純な理由だ。「2台連続してモーニングの入っている可能性は薄い」
いかに下火になりつつあるとはいえ、パチンコ店の朝も結構アツい。開店直後に起こるちょっとしたパニックも、すでに何度となく経験済みだ。しかし、さすがに最近は6、7人ほどのライバルたちと、10数台を争う状況。ナマっていたということか。
我々に出来る「ニュー◯ル」「スー◯ラ」は、すでに全台がお手つきの状況。さすがに初見の機種には動けない。

つまり、良くても俺とユーサクのどちらかしか、モーニングは取れないのである。
「ミスったな。」
「ああ、失敗した。」
「ま、でもヘタに離れてもどっちも取れなかったかも知れないし。」
「この台数で1台おきってのも考えにくいしな。リーチ目分かんないから、隣で良かったかも。教えあえるじゃん。」
「よし、じゃさっそく。」
「やりますか。」

普段はここで両替に向かうはずの千円札を台サンドへ。皆すでに打ち始め、早くもパトランプを光らせている台もある。俺の左隣がユーサク、右隣は...外したようだ。心無しか荒れた手つきでコインを入れていく。
次隣も外れ。これはどうやら予感的中のようだ。俺か、ユーサクか。
危なっかしい手つきでコインをまず、3枚入れる。頭はすでに真っ白。レバーをちょこん。リールが回転する。
(は、早ぇー!!)
どれが「7」やら全然見えない。
(落ち着け、とにかく入ってれば勝手に「7」が出てくるはずだ!)
左ボタンをバン!
ズルっと「7」が左上に。
(で、で、で、「対角線上に7が来るとリーチ目」だだったよな!?)
右ボタンをバン!
今度ははっきり分かるスベリでもって「7」が右下にピタッ。
(!!)
思わずユーサクを見る。
ユーサクの左ボタンはすでに止められていた。こちらも真ん中に「7」。ユーサクもちらっとこっちを見る。
「どうよ、アツくない?この目?」(以下、小声での会話)
「ちょっと待って。俺も2つ止める。」
ジーッと目を凝らすと、ユーサクは真ん中のボタンをバン!
(!!)
何と「7」が真ん中に止まった!リーチ!
「どうよどうよ!」
「あ〜っ俺も真ん中から止めればよかった〜!!」
「いきなり最初のゲームで7がテンパるなんてアヤシくない?マジ2台とも入ってんじゃねーの?」
「よし、じゃ俺からいく!」
目を凝らすも何も見えない。...いや、ちょっと大きいのが見えるか?
真ん中のボタンをバン!
ズルっと、「BAR」が下に。かくっ。
「...違..う?」
「よし、じゃあ俺だ!」
キッと台を睨むと、何故か片手を胸に当ててボタンをポン!
「カエル」。かくっ。
パラララッと音が鳴り、コインが4枚、落ちてくる。
「何だ?コイン戻ってきたぞ?」
「バッカ、チェリー出てんじゃん。小役だろ?何かでもお前の揃ってんなあ。俺のバラバラだぜ。お前の入ってるよ、たぶん。」
「そーかー?」

...書いてて頭痛くなってきたので止めます。
質問:上記の「スロット話」で「素人丸だし」と思われるところを指摘せよ(10点)。

結果、二人ともモーニング取り成功。しかも二人とも、判断出来ずに2千円目を投入しようとして、若いアンチャンに止められた。このニーチャン、ムスッとしながらも見事、2つの台を「1枚掛け」でピタリと「777」に導く。

このスロット屋の名前を「ミナト」という。「3710」。...以後、馴染みの店となったのは言うまでもない。

大学で知り合ったユーサクとは、パチンコ以外でも妙にウマが合い、夏休みを経て共同生活を営むまでになった。パチンコ屋には3日を置かずに通いつめ、学校には週1で顔を出す程度。バイトは深夜の工事助手という生活である。
この奇妙なコンビはその後1年ほど続き、結局ユーサクの大学中退で幕を閉じることになる。

(了)



という訳で予告通り続編です。再び明記しますが、この話はフィクションです。誤解の無いように。会話部分に心血を注いでおります。好き者さんに楽しんで頂ければ幸いです。



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