現在4コマ漫画家100人レビュー 第12回

(初出:第77号 03.9.20)

一本だけ?
面白いし人気もある、なのに(4コマ)作品を量産しない作家さんを上げてみました。ページ数も少ないし、単純かつ安易そうな印象を受けるこの形式で無限の可能性すら感じさせる開拓者たちです。

有間しのぶ(82)
「ヤングマガジン」誌(講談社)でデビューは82年。講談社〜竹書房と渡りついにはオサレ系女性誌へ。常に若者の生態を描き、自身も一時漫画を離れ若者文化にどっぷり浸かった(つまり夜遊びしまくりの)経歴を持つ作者の集大成とも言える傑作が現在連載中の『モンキー・パトロール』(フィールヤング)。極上のギャグ4コマであり、良質の恋愛物語であり、秀逸なフィールドレポートである。

私屋カヲル(83)
少女漫画家として実績を持つ作者だが、4コマでブレイクしたのは動物もの。『ちびとぼく』(まんがくらぶ)は現在掲載誌の看板作品である。
それにしても少女漫画〜4コマ漫画への転向は昔から多いが、皆すんなり適応しているようだ。最大の要因は読者層のリンクにあると見ている。以外と主婦層が多いのである(個人調べ)。近年は男性読者が増え、従って少年漫画からの転向組も目立つようになった。

竹本泉(84)
元々のフィールドは少女漫画(81年デビュー)。ただしSF系同人出身であることから分かるように、ジャンルはファンタジーである。90年代から4コマ誌にショート作品が載るようになる(先に上げた読者層の推測は、ショート作品に女性向けが多いというのも根拠になっている)。
4コマの形式で描かれているのは季刊の「まんがタイムナチュラル」誌(芳文社)連載『かわいいや』。..最近はショート形式に限りなく近い。元々コマサイズが変則的で、4コマと規定出来るか微妙だったのだが..うじゃうじゃ(←作者の口グセ)。ファンシーショップ経営の長女を筆頭に、三姉妹と末っ子のBFがメインキャラ。ただし彼女達がかわいいと思うものは、足の滅茶苦茶多いタコだったり、乳房の山ほどついた母猫だったりと悪趣味スレスレ(キモカワというヤツですな)。これだけ聞くと少女趣味と敬遠されそうだが、そこはファンタジー巧者。コケティッシュな魅力ある絵柄である。

唐沢なをき(85)
オタク系カルチャーの博学ぶりには定評のある作者、唐沢俊一とのユニット(唐沢商会)でおなじみ。単独では懐かしいテイストの活劇ものや、4コマものを描く。現在は『電脳炎』(ビックコミックオリジナル)を連載中。「ビックコミック」シリーズは、青年向けがさらに細分化されていて、壮年向け、老年向けも視野に入れているように思える。同誌はサラリーマン(壮年)向けと言え、本作の内容もパソコンのトレンドをネタにした時事ものの側面がある。しかしそこは唐沢マジック。下ネタとレトロがふんだんに取り込まれ、オヤジもニンマリの教養4コマとなっている。

駒井悠(86)
同人作家の作風をひたすら貫き、マニアックな支持を集めているだろう作者は、それ故に「アフタヌーン」系から出られないのかも知れない(まとめられた今までの作品は全てアフタヌーンKCシリーズ)。作者の4コマ作品『そんな奴ァいねえ!!』(アフタヌーン)も同誌に長期連載中。既存キャラをアレンジした名前、異端で耽美的な性格づけ、マニアックな知識が豊富にちりばめられ、時に文字が絵を凌駕する。ストーリーで読ませるタイプではないのだが、深く読み込ませる情報量を持つ、何度でも読める単行本向きの作品。

ほりのぶゆき(87)
「サルでも描ける漫画教室」(愛称サルまん)の派生企画(ギャグ新人コンテスト)で金のアイハラ賞を受賞しデビュー。特撮、時代劇などのテレビ素材を漫画に取り込んだ作風でショート作、企画ものを中心に幅広く活躍する(実は)2人組のユニットである。と紹介が長くなったのは、連載中だった4コマ作品『バカ侍チャンピオン祭』(鬼刃)が、現在掲載誌入手不能(休刊?)の為詳しく紹介出来ないから。タイトルから推察出来る通り、スーツ袴?を着た侍が主人公の作者お得意ギャグ4コマである。

藤臣柊子(88)
別に不人気で転向したのではないだろうが、少女漫画家としては短命であった(82年デビュー)作者は、90年代に入りカウンセラー?として漫画プラスエッセイによる結婚や人生相談などの企画本を次々ヒットさせた。平行して描かれている4コマ作品は通常のコメディタイプが主。しかしキャラの個性は強く、独特の展開パターンはさすが漫画家兼エッセイストといった感じ。現在連載中の『逆転夫婦』(まんがホーム)も当初はキャリアウーマン、専業主夫のカップリングが新鮮だったが、現在はその組み合わせよりも個々人のキャラクターの強さがウリになっている。

西原理恵子(89)
ここのところ漫画の世界ではあまり見かけなくなったが、往年の猛毒ぶりは健在。ギャンブルライター山崎一夫のエッセイには必ず作者のコマ絵がつく。その内、4コマの形式を取っているのが『たぬきランド』(漫画サンデー)。たかが1本、しかも内容は内輪ネタのみ。文章との絡みはほとんど皆無というこの4コマ。しかしながらこの二人の近況を週イチで知ることが出来るというだけで単なる付け合わせではなく、メインディッシュと呼べる程濃い「作品」であると言える。

村上たかし(90)
近年は奥様(村上佳代)とのタッグ(エッセイ&漫画)で女性誌でも活躍する作者だが、本業の4コマは長年に渡り青年誌最大手の「ヤングジャンプ」誌(集英社)に載り続けている。逆に言うと一般誌での4コマは新人が育っていない状況にあるとも言えるのだが..。作者の実力を揶揄する話ではない。『ぱじ』(ヤングジャンプ)は祖父と孫、つまり老人と子供という非常に扱いづらく、またネタの宝庫でもある諸刃の剣(キャラクター)を自在に操り、深みのあるギャグ作品に仕上がっている。

山科けいすけ(91)
「ヤングジャンプ」誌デビューの4コマ漫画家だが、作者は読者のように同誌を離れていった。すでに述べた通り老年をも志向しはじめた「ビックコミック」誌(小学館)にて連載の『C級さらり〜まん講座』は、上司も新米もひっくるめた会社全体の人間模様が描かれている(ただしギャグです)。自身の加齢に素直に従ったせいか、爆発的な反響は呼ばず、本作は(確か)10年にも及ぶロングランであるにも関わらず、単行本化が進んでいなかった。文春漫画賞を受賞したことで、ようやくじっくりと読むことが出来るようになったが、地味な内容では決してない。

吉田戦車(92)
気がつけば『殴るぞ』(ビックコミックスピリッツ)も連載2年半が過ぎ、「伝染るんです」以来10年以上「スピリッツ」誌の顔であり続けている。行く川の流れは絶えずして。4コマの革命児、不条理ものの代表作家も、時代は変わり今や主流の大家として..とはなっていない。作者のセンスは誰にも真似できないものだと言うことが断言出来つつある。形式は4コマ。構成は編集者(ブレーン)の知恵も入っているだろう。しかしそこに描かれた絵、書かれた文字は、作者をもってしか見い出せられないものである。本作は、普遍的なネタをいじくり回しこね回して出来た孤高の笑いが満載だ。



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