現在4コマ漫画家100人レビュー 第5回

(初出:第70号 03.2.20)

新たな主流(新勢力1)
では最近のトレンドはどうなの?ということで、今回はここ数年で活躍の目立ってきた作家さんを取り上げてみます。

大乃元初奈(15)
私が4コマに注目し始めた3年程前、作者は定期連載を狙う新人だった。「まんがタイムジャンボ」誌(芳文社)は掲載作品の多さで「ジャンボ」と銘打ってあるのだが、新人にもページを割いているのが特徴だ。同テーマでの1本競作からスタートして短期間の連載→本連載(他誌への連載)へとアンケートにより出世していく新人作品を掲載している。
作者のデビュー作となる『おねがい朝倉さん』(まんがタイムジャンボ、まんがホーム)は、今や「ジャンボ」の表紙&巻頭カラー(つまり「顔」)。それはともかく同期の作家に比べて突き抜けたのは何故か?推測するに意外や王道を外さなかったからにある。長身で、もの静かな主人公朝倉と背が低いけどパワフルな神田の要するにデコボコ女性コンビ。対して男性陣は長身で内気な栗原、背が低いのは2タイプいて、パワフル系の東とかわいい系の西薙。で、営業でのコンビは朝倉=西薙と栗原=神田のカップリング(現在)。主人公格(朝倉、栗原)以外の組み合わせは全てデコボコになる(背格好に限らず、ボケ=ツッコミだったり力関係だったり)。ストーリー上の関係性は単純で、さらに主人公はお約束の超鈍感だから勢い、オフィスラブコメとしてのストーリーは止まりがちで新人にとってその展開はマズい。そこを、周りが相手を替え換え盛り上げるのである。この黄金設定は神田が主人公になっただけの『よろしく神田さん』(まんがタイムポップセレクション)でも当然健在。こちらでは恋愛ネタに重きが置かれない分、より純粋にキャラクターの組み合わせで起こるハプニングを楽しめる。
女性作家らしい茶道をモチーフにしたほのぼの恋愛もの『けっこうなお点前で』(まんがタイムナチュラル)。父娘家庭に現われた再婚候補は、意外にも娘狙いだった?という展開に今は成りつつある『+1サプライズ』(まんがタイムファミリー)と、人気は右肩上がりまくり。どの作品も本筋は一向に進展を見せないのだが、脇役との絡みで飽きさせない内容に仕上がっている。

後藤羽矢子(16)
急に最新情報になるが、『どきどき姉弟ライフ』(まんがライフ)、『どきどき姉弟ライフ〜高校編〜』(まんがライフオリジナル)が間もなく終了となる。血がつながってないんだから全然オッケーじゃんという傍から見ればじれったいだけの恋がようやく実ることになる。単行本のアオリに「新ストーリー4コマの女王」とあって、あきらかに進展を見せないこの展開でストーリー系と呼んでいいものか戸惑いがあったが、振り返ってみると一応本編の方は偽装交際?があったりしたから一応そうなるのか。正直言えばあまり深いテーマは向きでないような気がするのだが..(くっついた「後」の展開を期待していただけに、少々辛辣になってしまった)。
うーん、もっと面白いはずなんだけど。とりあえずこれもフライング気味だが「まんがライフ」誌(竹書房)4月号には早くも次回作を目論んだ読切(多分タテマエ)が載り、気に入った男性を力づくで引き込もうとする女の子が主人公でホッとしている。そう、作者のキャラクターは持ち味が押せ押せのパワフルさにあるから、その勢いを最後の一線で抑えられると消化不良に感じるのだ。
他に『パブロフの犬』(ヤングアニマル)を連載(登場人物の名前だけみてると「八犬伝」にちなんであるので壮大なストーリーを浮かべるがさに非ず)。

佐藤ゆうこ(17)
作者の観察眼には独特のものがある。『ユーアーマイサン』(まんがタイム、まんがタイムラブリー、まんがタイムファミリー)は子供の成長日記なのだが、このジャンルの定番ネタとしては「面白い言葉遣い(言い間違いなど)」がある。本作もそれはそれであるのだが、時折全く意味不明な(脈絡のまるでない)言葉をしゃべる息子をそのまま描くことがある。で、特にフォロー(解説、推測)もない。この素直な視点が作者の特徴であり、面白さである。例えば、『メイドのお仕事』(まんがタウン)、『お兄さんがゆるしませんっ!』(まんがタウンオリジナル)の両作に共通するキャラクターに「出来が悪いのに勘違いしたままの青年」がいる。この厄介者をそのまま厄介ものとして描く作者の視点がいい。『あのコはセンセイ』(まんがタイムスペシャル)の主人公は今いちやる気のない先生なのだが、興味のないものには本当に全く興味なく振る舞う。そのつっけんどんさが面白い。

関根亮子(18)
ゲーム好きらしく、用語がたまに飛び交うので過去にゲーム系4コマ執筆あり?と思ったが確認取れず。コメディ作品が多く、笑うツボに特徴がある。1〜3コマまで、やや極端なメルヘンタッチで話が進行する。でオチの4コマ目でいきなり素に戻るのである。イメージだけお伝えすると、片思いの彼が意味深な発言をして彼女ドキドキ、ちょっとポエマーになったりして(1〜3コマ目)。ラスト、その発言が全く的外れなのに気付き彼女、無視(素に戻る)。コケやツッコミではなく、日常に戻るこのオチの付け方は独特(どの作品にも毎回1本はこの型があるのでご確認の程)。
『819☆び〜んず』(まんがタイムスペシャル、まんがタイムファミリー、まんがタイムナチュラル)はバイク便が舞台なので当然の如く毎回荷物を「壊して」お届けする主人公がネタ、『隠密少女』(まんがタイムきらら)は忍者の末裔が主人公。時代錯誤や非常識ぶりがネタ。
オフィスラブコメの『ソーセージ☆まーち』(まんがタイムラブリー、まんがタイムジャンボ)、姉(高校教師)弟(高校生)のドキドキ二人暮し『OH! MY GODコータくん』(まんがタイムポップセレクション)も、恋愛ネタはひとまず置いといてコメディ主体。

湯川かおる(19)
4コマを(専門に)描いている人は、何というか小さいコマに全身を描かなければならなかったり、大変だ(逆手にとってネタにしたのは新井理恵)。従ってたまにショート作品など見かけると、頭身がおかしかったりするのだが。『ダブル☆スター』(まんがタイムジャンボ)は4コマから年明けてショート作品になったばかりの好例で、見比べてみたけど特に違和感はなく。バストアップばかりの構図はなンだが..。
こういう流れにするつもりではなく、つまり全般的に親しみやすくかわいさ全開のキャラクターが人気を博しているということ。『春がきた』(まんがホーム)の主人公健太は「子供」でまめ太は「犬」、『プリンセス夢美』(まんがタイムナチュラル)の夢美は「コスプレ(昼OL、夜占い師)」、『おジャマします!』(まんがタイムきらら)の麻里乃は「眼鏡っ子」、『ほーむめーどメアリー』(まんがくらぶオリジナル、終了)のメアリーは「メイド」、とどめに『桃色爆弾』(まんがタイムラブリー)のもも子先生は「チビでロリ」。
ブロッコリー系の戦略要素が全て網羅されているといった感じ。需要に応えられる技量は見事。

小坂俊史(20)
作者の登場人物達は、男女問わず皆口が悪く、ガラも悪い。『せんせいになれません』(まんがくらぶ)は教師の素行の悪さがネタだし、『とびだせ漂流家族』(まんがライフ)は父親が山師で大問題。唯一社会的弱者?「児童文学研究会」というマイナーサークルが舞台の『サークルコレクション』(まんがライフオリジナル)も、基本軸は「いかに成り上がるか」。しかし逆にそこが、すがすがしい。
特に女性がヒドい作品は秀逸である。『ハルコビヨリ』(まんがくらぶオリジナル)は全く同等な、しかもそれでいて友達暮らしとはちょっと違う絶妙な同棲生活が描かれているが、主人公ハルコの柄の悪さが効いている。『ひがわり娘』(まんがタイムオリジナル)の主人公はその日暮らしのフリーターで毎回職が違うのだが、それが展開の軸となり全く先の見えぬ暮らしぶりなのに悩みのカケラも想像させない。
いずれにせよ粗暴なキャラクターを主人公に立てることに徹底しており、単行本のアオリには「4コマ王子」とあるが、プリンスの称号よりはアウトローな通り名の方が向きだと思う。

柳田直和(21)
社会派の作者は時事ネタを当事者の側(人に限らず物も動物なんかも)から描くちょっと変わった作品『うしろむきでOK!』(まんがホーム)を約4年描いていたが、年明けてリニューアル。作中好評だった節約マニアの社長が主人公になり(『大丈夫です!サクセス社』に改題)少し寂しい..。
他作品は女性が主人公で、バーガーショップで働く『スマイル!ひな』(まんがタウン)は現在正社員(篇)として、『スーパーガールえりか』(まんがタウンオリジナル)の主人公は大型スーパーでそれぞれ働いている(ちなみに作者は双葉社系では「柳田なお」名義)。共通するのはいずれも売る側の視点で描かれていることで、作者はそれを得手にしているらしく、本来は外面(キレイ、働き者)と内面(不精、ズボラ)を使い分ける奥さんがネタの『千秋ツーフェイス』(まんがタイム、まんがタイムスペシャル)の主人公もスーパーでパートをしていて、主婦(買う側)としてのネタよりも多く、これがまた面白い。
返す返すも「うしろむきでOK!」は惜しい作品だと思うのだが..やっぱり漫画はキャラ立てなきゃ駄目?



「過去原稿」ページへ戻る
 
第6回を読む