タカハシの目 第52回

(初出:第101号 05.9.20)

「『ベック』って、分かるか?」という質問が残っている。2週ほど前の事だ。久々に会った旧友と漫画の話になり、答えられなかった。背景をもう少し詳しく説明すると、泊りがけの旅行であったから移動中の暇つぶしに友人は「NANA」と「蒼天航路」の最新刊を持参しており、それに食いついてからの流れである。「ほんと、読んでないんだなあ」「俺は最近4コマばっかだから..」と弱気発言。前号「書きなぐりでもそれなりに根拠のある記事を書ける」と豪語してこの体たらく。いかん、ウラシマ現象はますます本格化しているようだ。
つまり「BECK」で、ハロルド=ゴリラーマン=古ければ=毒島=作石の描く音楽漫画だろ?と、今なら言える。音(楽)を漫画化する、というのは難しい話で、だからこそオリジナリティを発揮出来る魅力的なジャンル。「BECK」は久しぶりに「音の見える作品」とどこかで評されていたのをようやく思い出せた訳だが、典拠は不明のままだ。この答えも確証なく書いている。完全なる間違いであるかも知れないのだがあえて記す。合ってる?
手元に「ビックコミックスピリッツ」(9.19第40号)がある。これも別の友人が買っていた暇つぶしを譲り受けたもの。最後に読んだのはいつだったのだろう?ラインナップの大半は、読んでいた作品だったりご存じの漫画家。しかし、わずか1号を読んだだけでなンだが(一応スピリッツ元愛読者として小池・池上コンビの普遍的な言い回しを用いてみる)、続きが読みたいと思った作品は..少ない。
「20世紀少年」は今では漫画を読まない世代からの支持も多く(結構薦められている)、浦沢直樹といえば「マスター・キートン」(つまりNOTスポーツ作品)と考える私にとっては好きなジャンルのはず。「MONSTER」でも立証された抜群のストーリーテリングは承知していて、今話を読んだだけでも充分魅力的なのだが..。食わず嫌いなのは分かっている。寓話仕立ての名称に抵抗を感じているだけ。これは特殊な例で、「バンビーノ!」(せきやてつじ)「ボーイズオン・ザ・ラン」(花沢健吾)など、今号を読む限り展開に不満の方が先に立った。前者には業界ものとしての側面がありながら問題提起がなく、一流を目指す単純な成長譚の図式が見える。後者は絵柄が新井英樹似で、展開もリビドー全開なのに先人の開拓した嫌悪感すら覚える人間の本性を問うガチンコの主張は見られず、オチが往年の誤解の方程式。共通しているのはイイ線まで行っていると思うのだが練り込みの足りなさ。原作付きの作品が多くなったように感じるが、ディテールの深さはやはり格段の差が見える(ex.「たくなび」の山口かつみ。軽薄短小な作品が多いと思っていただけに意外の印象を受けた)。「アグネス仮面」(ヒラマツ・ミノル)は読んでいた作品だが、エンタテイメント・プロレス界を描く業界漫画という認識だったから、昨今の実在団体の相関図とのギャップが大きくて、一頃のようには楽しめず。
IKKI誌でのお気に入りだった稲光伸二の描く「出るトコ出ましょ!」の爽快な悪?女主人公(「フランケンシュタイナー」の主人公に比べパワー不足を感じるが、ラストでデジタル万引き(やめましょう!の注釈付き)をやらかしてくれている。この娘もヤリそう)と、久々にスピリッツ・ギャグ(ショート)の健在振りを感じた小田扉「団地ともお」(劇中劇の形を取る、「スポーツ大佐」の世界と主人公の住む限りなく現実に近い世界とのギャップが今話のオチをドラマチックにしている)などに繰り返し読めそうな可能性を見い出せたものの、毎週読む労力を考えると単行本買いの方に走ってしまいそう。実際、「殴るぞ」(吉田戦車)などスピリッツを読まずとも楽しみにしている作品だし。
スピリッツ誌自体のカラーは相変わらずで、心地良く感じた(企画もの「魂語録」と書いて「スピログ」と読ませるセンスなど)。ターゲット読者層から外れてはいまい。しかし、今回やや反省気味に手を出してみた訳だが、今、自分が読むべき作品は見い出せなかった。おそらくは他誌に関しても同様のことが言えるだろう。百聞は一見に如ずで、一応はチェックしてみるつもりだが..(今回はタイム・オーバー)。これは漫画自体に興味が云々というより、読書傾向の問題であろう。何しろ4コマ誌だけで月間15誌程度読んでいる。2〜3日に1冊は読んでいるのだ。
紹介者としてはバランス良く定期観測及び若干のトレンド把握に努めなければならないと、思いつつ好きなジャンルを追求していきたい気持ちが現在は強い。という事で、自身のトレンドは近年変わらず4コマなのです。4コマの事なら何でも聞いてヨ!



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