資料として、その筋(どの筋?)から「武藝」(BABジャパン)、「武術」(福昌堂)という中国武術の専門誌を借りている。手元にあるのは80年代のもので、現在も出ているのか定かではないが、何ともマニアックな記事のオン・パレードである。運動不足は現在、相当深刻な状態にある程で、元より拳法の素養など丸で無い。にも関わらず、記事の内容にはついていけているし、随分参考になっている。
これはどうしてかと言えば、浅学ながら興味を持って接しているからと、同時に漫画「拳児」(松田隆智作・藤原芳秀画)を読んでいた事が大きい(ご安心下さい、ちゃんと漫画の紹介です)。
本作は..。主人公、剛拳児の八極拳を習ういきさつから始まり、行方不明になった師である祖父を探し中国に渡り、そこで同時に中国武術の歴史を訪ね、最後はライバルとの死闘を経て、武道の真髄に達するという、典型的な少年マンガ(主人公の成長譚。ロープレ)を基本軸に、ノンフィクションとしての武芸譚、挿話、解説がふんだんに盛り込まれた、大人の趣味的な需要にも耐えうるまさに「本格拳法漫画の傑作」(文庫版解説より)である。
原作の松田隆智と言えば、単行本(小学館文庫)の紹介にもあるように中国武術を日本に紹介した第一人者である。72年に「中国武術−少林拳と太極拳」(新人物往来社)を出して以来、著書多数。で、日本初の専門誌、82年創刊の「武術(うーしゅう、と読む)」にもたくさん記事を載せている。自身も八極拳を始め様々な流派の拳法を習っており、写真を見るとかなり、ゴツイ(蛇足)。
作画担当の藤原芳秀にとっては88年開始の本作(少年サンデー刊)は長編デビュー作であり(おそらく)、その後傭兵上がりの教師が主人公「ジーザス」(原作七月鏡一)、掲載誌をヤングサンデーに移して、ブラジルに柔道を伝えた実在の格闘家を描く半フィクションもの「コンデ・コマ」(原作鍋田吉郎)、ボディガードが主人公の「闇のイージス」(原作七月鏡一)と、師の池上遼一を継承したアクション路線を行く実力派である。
この二人がタッグを組んだ本作は、多分ジャッキー・チェンらの第2次香港(映画)ブームを反映しての企画ものであるのと、ぶっちゃけジャンプ「北斗の拳」(武論尊作・原哲夫画)のライバル誌的アンチテーゼ作品ながら、後釜狙いでもあったのだろう(根拠ナシ)。ともかく、後年の本格格闘マンガブームの先鞭をつけた作品である。
自身にとっては中学時代の、単なる少年漫画であったのだが、専門誌を読んでいく中で、「拳児」は中国武術史のテクストとして蘇った。「拳児」を通して、記事は非常に分かりやすいビジョンを伴って読める。そして記事からは「拳児」で語られていない辺りが見えてくる。相乗効果でもって、中国武術界が私の目の前に浮き上がってくるのである。
興味が無ければ雑学的情報に過ぎないのだが、その辺の知識が必要となる者にとっては非常に何というか有難い。一元的な情報だから鵜呑みにするのは剣呑であるが、漫画も情報源として有用なのだ。