タカハシの目 第36回

(初出:第50号 01.5.21)

前回書いたように最近は乱読覚めやらずといったペースなのですが、これはかなり意識してやっております。とにかくまんべんなく眺め続けてみよう、と。名作ベスト100は読了していても、皆さん個人のマイベストの中にはまだまだ読んでいない作品があることに気付いたからです。(「職業柄..」と言える身分ではないけれど)これらを網羅するのは私にとって必須だと考えています。
結果として、読んだけど「まあいいや」で離れることもありますが、「う〜ん、しんどいなあ」と常に感じつつも読み続ける方が多いものです。今回はそんな中でも特に、「何だか読みにくい(けど面白い)」作品を紹介していきましょう。
まずは内容が凄惨だったり、テーマが重すぎたりして「読みにくい」と感じている作者。挙げると安達哲と山本直樹になります。安達哲は一般的な男女の役割を逆転させた展開が見た目以上の違和感を感じさせます。悪者に酷い目に合わされながらも立ち上がる英雄と、離れた場所から彼の無事、勝利を祈る姫。これが物語の常道。安達作品では非力で女性に幻想を抱く主人公(男)と、傷つきながらも力強く立ち続ける女性達というのが多く見られます。「君を守りたかった。ドロドロした大人の世界なんて見せたくなかった」主人公が自らの痴態を見せて(見られて)しまう「さくらの唄」(ヤングマガジン刊)。連載中の作品「ギャル雀」(原作有元美保/近代麻雀ゴールド連載)でも、罠にハメられて脱衣麻雀をさせられているヒロインを案じつつ、自らは想いを寄せられている別の女性と快楽に興じている。女性が強く描かれる作品は最近多いですが、代わりに男性が卑少に描かれることは少ない。作者の作品はだから、読みにくいんだけれどもこれもまた真なのかもと思わせる魅力があります。
一方の山本直樹は、「スピリッツ」連載作品を連綿と読み続けていますが、近作は森山塔名義の色が強い。つまりエロ漫画に近い感じ。ドロドロしたものはやはり読みづらい、救いようのない話は読んでも報われない。実際森山作品の半分はそう感じるのですが、物語性のある作品については寧ろ、見たことのない迫力というか、緊迫感が漂います(ex.「とらわれペンギン」)。対して、初期の山本名義での作品は青春物の色が非常に強い。マイナスエロというだけではなくて、一応の解決が望めるテーマで語られていて、読後爽快感がある。現在の山本作品は、より解決が難しい問題を突き詰めていて、読んでいてツラいけれどもラストまで引っ張る森山作品の力強さを持っています。「うみべのまちでぼくらはなかよしだったか」という副題がついた「YOUNG&FINE」(双葉社刊)は、作者の二面が融合された近作のスタイルの好例(&初心者向)だと思います。
次に作者を知るほど作品が読めなくなるというか..あんまり言わない方がいいので一人だけ。森村あおいはデビュー作が「気まぐれオフィス」という作品で、先日単行本化されました。この単行本にはあとがきが付いており、主旨はこの作品が他社より単行本化されたことの経緯説明なのでしょうが..かなり凄惨な内容です。「現在の絵は自分本来のものではなく、デビュー時に無理やり変えさせられたものである。」「本作は担当者と締切のことでモメた後、突然打ち切りになり、物語として完結もさせてもらえなかった。」とのことが切々と書き綴ってあります。
ある意味で、それがプロということであると思うし、甘さも感じます。また現在もほのぼのギャグ路線で書いている作者の(微妙だけど)プライベートな恨みつらみを、作品の読後に読むことになる読者への謝辞は一言も記されておらず、「何だかなあ」と思わざるをえない一冊になっています。とはいえ4コマ作品、漫画家の冷遇された状況というのは4コマ誌を読んでいて何となく感じているところなので、こういったあとがきを記す気持ちも分からないではなく、複雑な気持ちで彼女の作品を読んでいます(作品自体は面白いんでね)。
最後は明るく締めましょう。以前は「読まない」側に置いていたのに、改めて読んでみたら面白かったというもの。これはかなりたくさんありますが、今回は最近気付いた作品を。いわゆる廉価版コミックスが様々な出版社から出されている状況ですから、皆さんも身に覚えがあるのではないでしょうか。SJR(SHUEISYA JUMP REMIX)では徳弘昌也「シェイプアップ乱」が、今読むとネタが非常に面白い。下ネタ中心なんですが、これって大人向の艶笑に近いのではないでしょうか。当時は「汚い」(失礼)イメージしかありませんでしたが、年を取るほど安心して読める作品に思えます。TFC(TOKUMA FAVOLITE COMICS)では望月三起也「ワイルド7」。これ、正、続と100巻ぐらいあって、常に読みたい(集めたい)と思っている作品。なかなか揃いでは見つからないので、順番通りではありませんが手に入る(読める)のはうれしい。今回のテーマ的に紹介したかったのは、ビデオ化に伴って最近発表されたアフターストーリーの「ROSEV」(別冊ヤングジャンプ第12弾)という読切。古いのが面白いというのは当時の世相も相まってというのが通例。当時の絵で新作を見せられても..という思いで読んだのですが...やっぱり面白かった。作画的にどうこうというのはもはやほとんど問題にはなりませんね。例えばアフタヌーン5月号に載った平田弘史「新・首代引受人」。年一の時代劇シリーズなのですがこれまでは全く食指が動かなかった。絵的にピンと来なかったからなのですが、今回読んでみたらエライ面白い。劇画調は読みづらいというのは分かりますが、それが理由で読まないのは勿体無いと思えます。ACTIONオリジナル(3Coins)でははるき悦己「じゃリン子チエ」。これも元々好きなんですが、連載当時はあまり読んでいなかった...。完結してからの一気読みというのは、作者にとってあまりよろしくはないのでしょうが..やっぱり止められません。
結局、好きだ嫌いだとエリ好みしながらも読み続けているのは何か得るものがあるからで、世に出ている作品は、少なくとも無意味ではないということです。私のように手広く読み進めるというのは無理かも知れませんが、それでも機会と意欲があるなら「冒険買い」は決して無駄ではないと思います。そんで、面白かったら教えて下さい。



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