タカハシの目 第33回

(初出:第47号 01.2.20)

相も変わらず4コマ漫画。さて、最近の興味はキャラクター(登場人物)のキャラクター(人間性)に向いている。冒頭のジャンルのせいでもあるし、今関わっているものがどれも「アングルが斜め上からの附観と決まっている」ものである為かも知れない(何のことかはとりあえず秘密)。とにかく凝ったアングルや、描写に関してはあまり気にしていない。気になるのは「どれだけ特異な人物を使いこなせているか」にある。
「コミキュー(COMIC CUE)」誌を紹介するに当たって、毎回のように評価しているのが黒田硫黄になる。自主映画にも関わっている(た)というからなるほど、動きや構図には力強さがある。しかし私の現在の興味で評価するならば、登場人物の台詞がすごくいい。例えばデビュー作「蚊」の主人公の台詞。「してなにゆえ現われたのだ 蚊よ」。何故か芝居がかっている、これは全作品の登場人物に一人は存在する道化である。そして好きな女に対して無謀なほどにパワフルなのは全作品の男に共通する。際たるものは「THE WORLD CUP 1962」の主人公、小林少年。彼は好きな亀子をいじめる相手に立ち向かい、最終的に人類は滅亡する(話が見えない?)。この作品の道化役は親に捨てられた小林少年を養う寺主である。これも道化として堂々たる口上を述べまくっている。作者の描く作品は斯様に芝居のような熱気、勢いで溢れており、内容は陰気にすれば犯罪スレスレ(事に現在においては)なのだが実に面白い(注1)。
(注1)「蚊」「THE WORLD CUP 1962」いずれも短編集「大王」(イーストプレス)収録。
作者の作品を読むには、そこそこ「通」な漫画誌を漁らなければならない。現在は「アフタヌーン」、「スピリッツ増刊IKKI」、「Cutie comic」に連載がある。この内「スピリッツ増刊IKKI(以下「IKKI」)」が今回取り上げたい漫画誌になる。青年誌において増刊は必ず付随するものである。例えば「モーニング」誌においては、「編集者は30までに一度、自分の手で増刊を一冊作っておけ」という主義のもとに「モーニング増刊マグナム」誌が発行され、それは「アフタヌーン」誌創刊につながった(「マグナム」はその後復活継続)。「アフタヌーン」は創刊14年。3月号にその歴史の検証記事が載っている。「テーマ、題材は自由だが、「読むと心がゆれる」という方法論は共有する雑誌に」というのが「アフタヌーン」創刊の発端であり、現在は「世界雑誌(漫画誌)として、未開拓のジャンルから才能を見い出し、定番とする。」=「MANGA FRONTIER」を提言している。実はこの主義は講談社系の漫画誌の特徴でもあり、「ヤンマガ」がやたらと海賊版を出したり、「マガジン」が妙なジャンル(ex.推理ものやら超常現象もの)の作品を載せる理由になる。そしてこれらが新たな主流を産み出す原動力となっていたのである。
大手出版社からのこうした亜流が成功を治めるのはまあ有りうるとして、「普通よお、実験的なギャグでも何でも、安定した雑誌の中で、大黒柱がだーんと立ってて、その傘の中でバカやるじゃん。ウチそんなのねえもん。」(注2)という新規参入のフリージャンル漫画誌もそこそこの知名度を挙げる中で、「新人」に注目していた小学館系の増刊も徐々に新規「ジャンル」の開拓に乗り出してきた。
(注2)「桜玉吉のかたち」(アスペクト)からの引用。「コミックビーム」誌編集長O村氏の談。
そこでついに登場したのがかつてなかった平綴じの増刊「IKKI」誌になる。
はっきり思ったのは、「アフタヌーン」の追随であること。その点では面白味はない。「アフタヌーン」の方が圧倒的に「読む」作品があるし、歴史は裏切れない。しかし、逆に「アフタヌーン」は人気、実力故に長期連載が多くなっており、新鮮味はさすがに薄れてきている。そこに「IKKI」を取り上げたい理由がある。個人的には、日本橋ヨヲコ、黒田硫黄、小野塚カホリ、林田球、稲光伸二という小学館初?組にすごい新鮮さを感じている。しかもそれぞれかなり面白い。キャラクターが際立っているのだ(注3)。
(注3)例えば一作だけ挙げると、稲光伸二の「フランケンシュタイナー」では、自分の娘に全く愛情のない政治家兼高校理事長の父親と、彼に雇われ娘を監視下に置く学校と秘書など「大人」たちが異様なのは良くある話。そんな彼等を相手に対等以上にグレまくる主人公篠原美矢の言動がすごく良く出来ていると思う。このくらい極端なキャラクターに、魅かれている。
勿論その他にもベテラン、実力派、ビッグネームトレンド各種取りそろえてあるのだが、そちらの評価は「小学館(スピリッツ)系らしい」にとどまる。企画ものでいとうせいこうと川崎ぶらが又も関わっていること。そして「伝染るんです。」以来の紙面をいじるセンスはスピリッツ系の専売特許である(注4)。しかし、核がスピリッツ系とはいえ、これほど多彩な顔触れを揃えられたのは、この増刊が「スピリッツ」に止まらず、「ビッグコミック」各誌の有志により作成されているからであろう。で、創刊2号目で彼等は言う。「コミックは、未だ「黎明期」である。」と(表紙柱より)。
(注4)目次欄にある定番の「無断転載等を禁ずる」表記に「但し、「ボツマン宣言」は比較的どうでもいいです」との一文がある。「ボツマン宣言」とはいとう&川崎コンビの企画もの。また創刊号表紙での間違い(同一人物の2重表記)もお詫びと訂正に「ネタではありません」という一文が追記されている。
彼等の目指す新規ジャンルとはなんだろうか。以下は勿論私見であるが。「古くさい常識や価値観の範囲での絵空事を辞め、新しい世界観で描く虚構」ではないか。思うに近頃の若者(...)は、我々の抱く禁忌を全く気にせずに突き抜けている。それについて詳しく分析していくつもりもないし、いいか悪いかの判断も保留する。しかし、価値観が劇的に変化しているのが現実である。漫画は、そもそも絵空事である。それが現実に追い付いていないのは、想像の産物として時代錯誤であろう。「IKKI」に載った作家は、そういう視点でいくと共通している。次の虚構世界を創ろうとしている漫画家たちなのだ。
「IKKI」は、読者の投稿を作品のページ下に掲載している。創刊したてというのもあるだろうし、制作側の意図したセレクトとも思えるし、連載陣を眺めても何となく分かるが、「漫画読み」からの言葉が異様に多い。現在のところは漫画を読み続けている者にとって納得のいく(あるいはこのレベルで続いて欲しい)漫画誌となっているようだ。しかしこの内容ならば、今どきの若者に受け入れられるのもそう遠くない話のような気がする。
次世代の漫画を分かりやすく示してくれるのが、我々にとっては「アフタヌーン」であり「コミキュー」であり、新進の漫画誌であろう。その中でも「今」一番新鮮味を持っているのが「IKKI」なのではないだろうか。



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