タカハシの目 第32回

(初出:第45号 00.12.20)

原点回帰。取り立てて明確な主張の元に続いているコーナーではないが、主旨としては「最近漫画から遠ざかっている人に少しでも今、読んで面白い作品を紹介しよう」ということを念頭に置いて書いている。まあそういう意味では最近の記事がズレているわけではないし、冒頭に原点回帰などと書かなくともいいのであるが。自身は(買って読むものに関しては)ダラダラとだが連鎖読みを続けている。ということは「昔は特に興味を持てなかったが、最近は面白くなって読んでいる」作品についても取り上げておくべきだと思うのだ。
今回はそんな訳で初の「特集」、紹介する漫画家は「CLAMP」である。先に断わっておくと、半年ほどここに書こうと追ってみたものの、彼女(達)の活動範囲は極めて広く、全てを読破することは出来ていない。また近年の活動拠点たる公式HPにおいては..私の環境からは眺めることが出来ない。従って「特集」と銘打っておきながらその内容はほとんど大したものではない。分かる範囲の情報はなるたけ盛り込むつもりなので、読み進める際の参考になればと願う。
まず参考までに「CLAMP」とは?

映画制作に近い設定、原作、脚本、監督等々を作品毎に各人が担当するシステムで執筆活動を行う企画・制作集団。
`87年頃に関西の同人サークルから派生したグループが起源。
`88年にはメンバーが7人に固まり、同人活動が活発化。
商業誌デビューは`89年「サウス」誌(新書館)に載った「聖伝-RG VEDA-」。
`90年に七穂せいが引退(社会人に)。
`91年には秋山たまよ、聖りいざがそれぞれ卒業(独立)し、残る4名で現在に至る(新規参入はなし)。
漫画(作品)に限らず、そこから派生するアニメ、CD、コミカライズetc...も取り仕切る、まさにスーパーユニットである。
現メンバー:大川七瀬 もこなあぱぱ 五十嵐さつき 猫井みっく
(参考:「COMIC BOX」`90・7号、CLAMP新聞海賊版(単行本巻末記事))

同人〜商業誌という流れは現在は主流だが当時はまだ先駆け(注1)で、伝奇ファンタジーを主体とした初期の作品(ex.「聖伝」「DERAYD異境天秤の月」)はその頃の私には全くの対象外。
(注1)ジャンルによっても違うし、一概には言えないのだが、現在のように大手誌までが青田買い、というのは90年代に入ってからの事だろう。

これらの作品は、数年前にアニメを観ていた(注2)ことで一通り読んだのだが、その時もあまり面白いものとは思えなかった。
(注2)当時友達に頼まれてテレビ東京系アニメを週に5、6本録画していた。その内の一つが「CLAMP学園探偵団」。初等部生徒会の面々は、通常業務の他に「全ての女性の幸せのために」日々活動している。本作は色々な作品とリンクしていて、副会長、鷹村蘇芳(及び恋人の梓夜凪砂)は「破軍星戦記」から、書記の伊集院玲(及び恋人の大川詠心)は「20面相におねがい!」からの継続キャラクター。生徒会長、妹之山残を中心としたこの3人は後、学園の中枢人物として「X」に登場する。「CLAMP学園」を舞台にした作品にはこの他に「学園特警デュカリオン」がある。

で、3度目の正直というか、ようやく面白さがみえてきたのが半年ほど前。きっかけは..アニメ「カードキャプターさくら」(以下「CCさくら」)を観たことである。相変わらず流行の半歩(一歩半?)ずれで、物語はすでに中盤。特にストーリーを追うでもなく、当初はボンヤリと眺めていただけであったが..今までとは何かが違う。それは作画やキャラクター設定に関するものではなく、ストーリーの展開や、セリフまわしにおいての進歩である(注3)。
(注3)作画レベルでは確かに近作はもこなあぱぱに代わって猫井みっくが担当しているが、見た目にはあまりこだわらないので触れない。キャラ設定といえば、本作の主人公木之本桜は「Wish」の琥珀と良く似ている(ex.困った時の台詞「ほぇ〜」がかぶっている)がこれはどうでもいい話。本作では桜の親友、大道寺知世を今までになく、しかも秀逸なキャラクターとして評価したい。若干10歳で、推定年齢30超(ここ、笑う所ネ)の柊沢エリオルをも脱帽させる(最終話)洞察力を持ち、しかもそれを全て「さくらちゃんの幸せ」の為にだけ発揮するという特異なキャラクターをむしろストーリーに効果的に取り込めるようになったことは進歩といって良いだろう。本来の(注)・・アニメと原作は違うのではないかと思われるだろうが、アニメ版においても脚本は原作者の大川七瀬が担当しており、どちらにしても言える話となる。確かに一話分(原作)を20分枠(アニメ)に延ばす為の追加エピソード、あるいは省略部分は認められるが、間違い無く「大川節」のそれである。

分かりにくくなるかも知れないが、こんな例を挙げる。
(インタビュアー)これからステキな結婚をしたいなと思っている男性・女性にアドバイスをお願いします。
(西村しのぶ)お礼は「すみません」ではなく「ありがとう」と言う。そういう言葉遣いと考え方をする男性・女性をひとは愛するのではないでしょうか。
(「ぱふ」`98・3号インタビューより)
CLAMPの作品にも、このスタイルは見受けられる。ただ、今までの作品についてはこれが「主張」として明確に表現されていた(注4)。
(注4)「東京BABYLON」での皇北都の台詞(「気を使う」ことについての一連の台詞の中)「だからね 私 嬉しいときは必ず「有難う」って言うわ。悪いことしたら「ごめんなさい」も言う」。双子の弟、昂流に向けての台詞であるが、読者へのメッセージでもあることは確か。この例で一番顕著なのは「20面相におねがい!」の大川詠心。「あまりに過激なセリフにお忘れの方も多数いらっしゃるだろうが、彼女は幼稚園児なのである」(登場人物紹介・単行本1巻収録より)。またこの作品では男性キャラにもこの手の「説きたがり」がいる(明智茂貴)。「とにかくセリフが長い。1P丸ごととって毎回必ず説教する若年寄り」(同)。

対して、現在の作品。「CCさくら」だと..桜は「ありがとう」の一言しか言わない。そのスタイルは、明示されることなく内包されている。ここのところが今までと違っていて気になるし、また気に入るところなのである(注5)。
(注5)キャラクターの性格が違うからというのは勿論、ある。北都は元気ハツラツ、きっぱりした性格、桜はおっとり、ほややん(?)な性格。それはそのまま初期と現在の主要人物設定の違いとも言える。憧れるキャラクターから共感出来るキャラクターへ、用いる主人公を変えてきたということは進歩といって良いだろう。

正直なところ話自体はまだ、ファンタジー系の典型から外れていないと思う(注6)。現実とのギャップがアンバランスなままで、作品世界が確立されていないことは、今後も課題となるだろう。残念ながら現在までの人気はキャラクター先行と感じる。
(注6)エンタテイメント作品は見た目に惑わされ易い。あまりきっぱりと言い切れることではないが、現在隆盛のファンタジーものは、SF漫画の流れを一旦止めてしまった(退化させた)ジャンルではないかと感じている。美形であることが大前提で、基本的にみなイイ奴。勧善懲悪をちょっとヒネっているが逆に最初の筋からどんどん外れて、物語的に整合性がない。台詞が説明口調すぎて、何を言いたいのかが分かりすぎる。そして、主人公だけが救われれば完結、といった身もフタもない終わり方etc...ファンタジー系では定式化しているこれらの要素(揶揄してあるが、新井理恵の「×-ペケ-」にある「土の王子さま」「赤い羽音」のシリーズ(ともに単行本4巻収録)が解説として分かり易い)が、「日常の中に非日常」を描く(シュミレートする)SF漫画に較べて安直に写るのだが..。逆に言えば今後が期待出来るジャンルでもある。

しかしそんな中でも未来への可能性を秘めた作品がある。今回特におすすめしたいのがこの作品、「「すき。だからすき。」」になる(注7)。
(注7)内容は、「キュートでミステリアスな学園ラブストーリー」(単行本帯ママ)。一応謎めいた設定→クライマックスで謎解きという流れなので、詳しいところには触れないが。少しは紹介しておく。
主人公の旭ひなたは高校一年生で一軒家に独り暮らし。「頭もいいし運動神経もいい あれで もちょっと一般常識があればねぇ」(第2話より)。天真爛漫な性格。はっきり言うと現実にいたらかなりイタい。いつもニコニコしてて、歌って踊ってて..。「おまえの側にいる奴は善人ばっかじゃない ふわふわ夢ん中みたいな頭の中のままでいるとひどい目にあうぞ」(第9話より)。彼女は言う、「あわないよ」(同)と。今までも、これからも。優しさの中に強さを秘めた、魅力的なキャラクターである。
話の中に、絵本が登場してくる(オリジナル)。全部で4編、途中途中に置かれている。ここに書かれた内容は、そのまま作品(主人公)の内容(恋愛)の「今まで、今、これから」を表している。フィクションの中にフィクションを置くことで、この作品の命題、「すきってなに?」という謎を普遍的に読者に解いていくことが出来ているのではないだろうか(意味不明?俺もちょっと分からなくなってマス)。
ともあれ、剣だ魔法だの話でない現代ものだから好きだという訳ではなく、単純にひなたが可愛いからというだけではなく、彼女を取り巻くこの作品世界がとてもすっきりしていていい。

CLAMP独自の「優しさだけで包まれた世界」が、この作品である程度描けたのではないかと思う。
デビュー以来トップ街道を歩み続けているが、今までは王道を通ってきたに過ぎない。CLAMPは、「これから」まさに自分達で新たな道を造り上げていくはずである。今後に注目したい。



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