のっけからこんな話で申し訳ないが、今年に入って単行本を買っていないことに気付いた(ちょっとウソ、だがしかし)。店で読む量は相変わらずだし、飽きも何もないのだが。家でまともに漫画を読んでいない。ほとんど寝床としてしか利用していないから、とも言える。テレビが数年振りに直ったから、とも言える。大量買いをするヨユーが無い、これも言える。しかし何より、購買意欲がない。これに尽きる。読み倒したい漫画家が出てこないのだ。
桜玉吉の作品は、「アフタヌーン」誌の「なあゲームをやろうじゃないか」、これを毎号読んでいる。この「なげやり(俗称)」、毎回新作ゲームの紹介をしているのだが..本編では全くしていない。せいぜいがタイトルを台詞に(強引に!)混ぜているだけ。約1/3を占める欄外に(おそらく別人が)レビュー形式で紹介している。では本編で何を描いているのかというと、作者の日常。いわゆるエッセイ漫画である。この作品の独特のノリ、作風、実は「コミックビーム」誌での「幽玄漫玉日記」も同様である。全体に怠惰感が漂い、覇気がない。しかしダラダラと続いている。
彼の支持されている要因は、一体何なのだろうか。かくいう私も好きで読んでいる。私の場合は、まあつまりエッセイ漫画全般が好きであることと、作風がある漫画家を彷彿とさせるからである。
実に久々に古本屋に行った折り、彼の作品「防衛漫玉日記」と出会うことが出来た。表紙はかわいい系の学生服の眼鏡っ子(1巻)、人形を抱いたナース(2巻)。レジの姉ちゃんは「エロ漫画か..」と思ったかも知れない。中身はほとんど野郎連中との絡みであるのだが。タイトルで瞭然の通り、現連載中の「幽玄〜」の前身、収録分には更に前身である「トル玉の大冒険」、その1話のタイトルが「帰ってきたヒゲ船長!」であることからこの漫画日記は連綿と綴られてきたシリーズものと分かる。「防衛〜」の核たる登場人物は、著者桜玉吉を主人公に、その担当者達である。彼等は地球侵略を目論む宇宙生物を速やかに捕獲しおいしく食べる(=釣り)「地球防衛隊」を組織している。この活動をレポートするのが主な内容であるが、実際のところ防衛隊らしき活動を報告しているのは「トル玉〜」(及びその前身の作品・推測)であり、「防衛〜」では温泉、ジェットスキー、バンジー体験などテレビで言うところの「企画もの」をネタにしている。つまり作者自身の体当り取材(船舶免許を取る、似顔絵屋を開業するなど、その目的は作者の人生に密接に関わっている)を面白おかしく綴っているのが人気の秘密とまずは思われる。彼等の行動は本当に突拍子もない。続く「幽玄〜」では会社設立(タイトルが有限と掛かっているか)、株券購入など文字通り自腹を切って展開していく話は確かに享楽的である。
しかし、継続的な面白さは他にあるような気がする。作者の経歴は今イチ知らないのだが、ゲームデザイナー、イラストレーターとしての顔もあるようだ。そういえば漫画専門店「まんがの森」、これの広告イラストは彼の手によるものだったはず。ポップで明るい画風、これは「〜日記」時とは対局を成す。漫画家としての作品、手元にあるのは「ブロイラーおやじFX」。これもイラスト風のスッキリとした画風で暗さはない。特徴は、女(の子)をかわいく描き、その他を醜悪(でもコミカル)に描き区別している所。これは全ての作品に通じている。そして時に折り込まれる「パロディ」。ここに我々?はある先達の漫画家を思い出すことが出来る。
吾妻ひでお。あのかつてのビッグマイナーの描く作品に、彼の作風が重なってみえる。勿論踏襲ではない。筆遣いはまるっきり違うといっていいと思う。ただ、かわいい女の子とマニアックなネタ、そしてスター化された登場人物とくれば、コアなファンがつくのは自明の理である。吾妻ひでおは内的宇宙に入りこみ、一旦筆を折った(現在復帰)。桜玉吉は、その境界線ギリギリの所で漂う術を得、突き詰めていく過程と放棄するオチによる緩急をつけた展開=独特の味わい、で描き続けている。
ともあれ、久々に「見つけ次第保護する」漫画家リストに新たな人が加わった(残り7冊)。その名は桜玉吉。(古)本屋に通う楽しみが、出来たのは目出度い限りである。