タカハシの目 第19回

(初出:第27号 99.6.22)

先月は久々に大きい本屋さんに行った(吉祥寺パルコブックセンター)。漫画専門店に行く機会も減り、新刊チェックも大分怠るようになったから、2〜3時間かけて眺め回った(普段行く高円寺文庫センターが小さい書店といえるかどうかは疑問だが)。漫画に関しては、新刊書店ではめったに見られないラインナップ。(集めている作品の)続巻も相当数出ていることを確認したものの、全て買い占めるには予算があまりにも足りなく、といってこれだけは!という決め手のあるものもなく。結局何も買わず、それでもそこそこ満足して去った。考えてみるとこのところは活字を読んでいることが多い。

従って今回は「ネタがないのでつれづれに・・」と題して雑感を書き綴ってみることにする。片手落ちで、割に長くなってしまうようだが...。よろしくお付き合い願いたい。
まずもって明言しておくと、私は当然、性の権威ではないし、これから述べることは全て私見である。
コンビニ店員をしていて客観的に思うのだが、この頃いわゆる「エロ漫画」の購買層に変化がみられる。劇画誌を朝から買っていくおとっつあん。グラビアメインの漫画誌をジャンプにはさんでくる性少年は変わらずとして。ロリコン誌のメイン読者たる若人。いかにもな風貌の男性が買われることがほとんどなくなり、代わりによく目につくのが、インテリ風。カップルで、なんて時もある(当店個人的データに基く)。
いかにも..な通人は専門店に行っておられるのだろうという推測が成り立つ。今までノン気だった人が、興味本位で(コンビニで)買っていくのだろう。流行りに敏感な人々は、総じて快楽主義で、臨機応変な価値観の持ち主である(面白ければ何でもアリ、みたいな↑)。ということはつまり近頃のロリコン誌は、かつてなく「面白い」(この場合はヤラシイ、か)状況にある、と考えられる。
エロ漫画は有史以来、隆盛と衰退を繰り返し続けてきた。近年では宮崎勤事件→衰退(=自粛)、青年誌への流出→隆盛、有害図書騒動→衰退、そしてボーダー上の漫画誌の過激化(ボーダレス化)→隆盛?の現在に至る。迫害とのいたちごっこと見えるが、繰り返す毎に読者層は広がってきているように感じる。現在の状況では多くの人々にとって何らかの有益をもたらすことの出来る段レベル階に達しているのかも知れない。
私は漫画をよく読むようになってから、有害図書騒動を体験した。エロ漫画が青少年に与える影響は、犯罪と結び付くのか。擁護すべきか否定すべきか。結論は出ず、元々偏見持ちであったから、これらの類の作品には触れずに(避けて)いた。しかしこの(有益である可能性のある)現状は、大変に気になる。ということで、有り余る休憩時間を利用(悪用?)して、読んでみることにした。
当店に納品されるエロ漫画は、月に30誌を超える。これらを5つに分類し、以下にまとめる。
劇画誌・・・テーマはほぼ一貫して「淫乱人妻を凌辱する」である。犯罪ギリの和姦が繰り広げられる。絵にクセがあるので慣れないとまず入っていけないが、刺激としては結構、強い。妄想の具現化といった感があり、気力は充分も体力的にちょっと..という、この型の読者層のニーズにぴったりと当てはまるようである。
レディース・コミック・・・実はテーマは上記の「劇画誌」と一致したものが多い。もちろん主体は女性になるが、かなり鬼畜の入った展開を見せている。強い刺激を指向する場合、写実的な描写法である劇画は有効なのかも知れない。人間の業の深さを実感出来ることが、我々20代が読んで得られる唯一の利点ではないだろうか。青年以降の恋愛を描く時、この手のものは特にドロドロした雰囲気が否めない。劇画の持つ暗い印象を逆手にとって、ギャグを絡めた作品は、読んでいてまだ救われるが。
ロリコン誌・・・描写が前項までと対角を成す。テーマは多岐に渡り、物語を志向するものの人物像に類型的な表現が目立ち、展開を予測することが容易。時を越え、舞台を移して..でもやることは一緒。割と普遍的で、保守的と映る。そういった既存の型を壊そうという作品は少なく、イロモノ扱い(鬼才ト書カレル)になっている。フリーセックスを描いたものが多いのは、現実的な願望の現れなのだろうか?状況設定は出尽くされた感があり、評価の分かれ目は構図の取り方にかかっているようである。より刺激的で効果的な構成で描き切られる画力を持つ作品が求められている。夥しい体液が描かれるのは前記二項と共通するのだが、生臭さや熱気はほとんど感じられない。やはり極端にデフォルメされた体型や表情が現実感を失くしているようだ。従って鬼畜な内容であっても男性的な荒々しさは強調されず、もどかしさや切なさといった感覚のみが肥大している。思春期の性衝動に近く、その意味では心の内面を描くことに成功しているようだ。
成年誌・・・裸は描かれどセックスはイメージ描写で抑えられているという記憶があったが、現在は過激化が著しい。セックスまで描いた恋愛物語は確かにリアルだが、併存するはずの不安や苦悩が描き切れていないのは、核心を追求する姿勢を求められていないからなのだろうか。やってやってちょっとモメて、ハッピーエンドの型が多い。今までのタブーが解かれて自由度が高くなったのだから、叩かれる前に化ける可能性に期待したいのだが・・・。今の所はナニに至るまでの過程が丁寧に描かれている作品が興味を引く。
4コマ、その他・・・4コマは、絵柄がどれほど多様化しようとも内容はオヤジギャグのオンパレードである。しかし、艶話が酒の席でしばし極上の肴となるように、この繰り返し語られる下ネタは気分転換にとてもいい(嫌いな人はマジで嫌うらしいけど・・・)。その他としては漫画による風俗体験記やセックスHOW TOもの。ハメ撮り(専門用語?)写真と漫画の合体したものを挙げる。いずれも元々あった型ながら、物語性を強くしたところが昨今の特徴となる。漫画の持つ、イメージを喚起させる力を上手く利用したものと言える。
繰り返し。あくまで個人的な感想だが、「新鮮だけれど完璧には程遠い」といったところである(ちょっと抽象的?)。1カ月、いろいろいろいろ見てきて、満腹ちょっと胃もたれといった感じ。とりたてて続きを追おうと思った作品もなかったので(いや、マジで)、今回は特定の作品を紹介することはない。では時間の無駄だったのかと言うとそれがそうでもなくて、実は意外なことから新しいジャンルに興味が向いたのである。
それについては次号に。今度は具体例(作品)も挙げます。



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