タカハシの目 第16回

(初出:第25号 99.4.20)

けらえいこの「7年目のセキララ結婚生活」(メディアファクトリー)が3月のベストセラーに入った(東販調べ。このシリーズは書籍扱い)。「セキララ結婚生活」(同)という、結婚漫画から始まったこのシリーズは、様々な雑誌に載ったものをまとめた形で単行本化されている(現在4冊)。掲載誌のほとんどが女性誌だったから、あまり目にした機会はないのだが。かつて「コミックコサージュ」誌(小池書院)に載ったのを読んだことがある(「いっしょにスーパー」に収録)。今回の単行本を手にしてから、シリーズ全作を「新刊で」集めてしまった。(注:私の場合、これが最大級の賛辞を表すことはいうまでもない(笑))。
ともかくベストセラーである。漫画の販売数を書籍と並べてみると、これはもう上位は漫画で埋まるといってよい。もちろん安価であることが最大の理由であり、同水準の価格帯で較べるとあまり大差はなくなる。続きものとはいえ、掲載誌は不定、なおかつ4年ぶりの新刊である。何故売れたのか。(シリーズでいえば作者の場合、新聞掲載の「あたしんち」の方が知名度が高い。「セキララ〜」の方もドラマの原案になっていたりするのだが・・・)。
拙い推測にすぎないが、前作までの読者が離れなかったこと(1)、読み返しが効くこと(2)、が理由として考えられる。
(1)をさらに詳しく考えてみると、キャラクターの妙及び価値観の一貫性が安定した面白さを提供していることが実績となっているようだ。元々作者はイラストレーターであったから、二頭身キャラながら表情の豊かさは格段である(好例:P172〜「いやなくせ」)。しかもなにしろ主人公=作者であるからキャラクターの存在感は実在のソレに近い。そしてこれらの基盤の上にある、一定の法則に面白さの秘密があるように思われる。それは「ボケ-ツッコミ」の夫婦像である。当たり前といえば当たり前なので詳述は避ける。この型の良作として他例を挙げるなら、前に紹介した入江紀子の「なんぎな奥さん」(白泉社)になる(この作品ではズバリ、「二人で一生漫才しましょう」がプロポーズのセリフ)。近作でいうと「つうかあ」(集英社)であろう。常に動的であり続ける夫婦というのがネタとして使えるのは、何も漫画に限ったことではなく、テレビ等で取り上げる「面白い」夫婦というのは例外なくこのタイプである。
もうひとつ、(2)についても考えてみよう。これはしかし、考えるまでもなく、「エッセイ漫画」の最大の強みである。物語と違って、最終的に帰結する話である必要がないから、どこから読んでもどこで止めてもほとんど支障は無い。本作も一応時系列的な流れはあるものの、どれから読み始めても問題はない。当初は結婚式という一大イベントを解説するノウハウ本としての機能を持っていた、いわゆる企画本であったが、近作2書は完全にエッセイの型をとっており、勿論話として面白いのはこちらの方である。
結婚なんて近いようで遠い未来の話、というのが20代前半の正直な関心度であろう。しかし、少なくとも異性を人生の相方として眺めることの多くなるこの年頃、読んでおいても全くの損ではなかろう。
 


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