漫画日記は意外と好き嫌いの別れるジャンルであるようだ。もちろん、「漫画日記」といっても「プロ」の描く「エッセイ風漫画」のことだが。嫌いな人曰く「他人の生活など興味はない」「お茶濁し、私生活の
切り売りを読んでどうする」など、結構手厳しい。しかし世の漫画家にはそれを専門として成り立っている人も存在するので、需要は割とあると思う。かく言う私も好きである。むしろ大好きといっていい。前回
このテの作品を紹介した時(編注:第1回参照)のキーワードは「近況報告的(コラム、と前続けたが、
ちょっと違うかも)漫画」と「猫(ペット)と作者」であった。最近でもこのテーマの作品は多い(注1)。しかし今回紹介したいのはもうちょっと脚色の強いもの、物語に近いソレである。といって「私小説風」の作品ではない。簡単に言うと「ちびまる子ちゃん」ではなく「サザエさん」のような作品である。(意味わかる?)
吉田秋生の「ハナコ月記」(注2)は同棲して1年を過ぎた男女の生活を描いた中編。可もなく不可もなくといった日常の機微を軽いノリで綴ったもので、何もないまま終わる。5年も前に刊行された作品だが、
最近文庫版も出た。作中の小道具等はさすがに時の流れを感じさせるが、20代も後半の男女の年寄り化には時代を越え共感するものがあるのだろうか(笑)。
サラ・イイネス「大阪豆ゴハン」(注3)は大阪のド真中に住む4人姉弟の生活を描いた作品。これの前作が「水玉生活」(注4)といって、こちらは完全に実話を基にした「エッセイ風漫画」。「大阪〜」の方はこれに出てくる人々を元ネタに、多少設定を組み替えて物語っぽく展開させている。とはいえ話の中心は「関西人(極端な)のお気楽ライフスタイル」であり、言い切ってしまえば「身もフタもない」。
再三取り上げているが内田春菊「私たちは繁殖している」(注5)もこの手の作品としてお薦めしたい。
妊娠・出産・子育てをテーマに続いているが、事実を客観視しているところがあり、区切りがあるわけでもなく、全体を通して読んで何となく何かを感じるところが他の子育て(あるいはエッセイ)マンガと違う。
日常を膨らませてなおかつ日常に戻すという描き方はどちらかというと女性漫画家の得意とするところの
ように思われる。男性漫画家の場合はそのまま実録(近況報告的)になるか、それを元ネタとして全く別個の物語を作り出すことが多い。
そんな中から挙げるとすれば、吾妻ひでお「不条理日記」(注6)。「SF大会編」をいしかわじゅんの
それ(注7)と見比べてみれば、本作が事実と虚構の間に位置していることがお分かりいただけると思う。
他人の日記を毛嫌いする人でも、非日常に片足を突っ込んだような日記なら楽しく読めると思う。漫画家の描いた日記にはそんなのもある。
(注1)白泉社「プータオ」誌がそんな作品だけを集めた雑誌。
(注2)筑摩書房刊。後述のように文庫版が出ている。
(注3)講談社刊。
(注4)同。
(注5)竹書房刊。「みこすり半劇場」誌連載。
(注6)奇想天外社刊。「定本不条理日記」がどこかから出ているし、近いうちに復刊されるでしょう。
何といっても「メチル・メタフィジーク」なんかも最近復刊されている状況ですから。(地道に集めてきた作品がいろいろと復刊されていることに最近気付き、筆者錯乱気味です。ナゲヤリですいません。)
(注7)「ダイコン戦記」「TOKONお疲れ控」参照。「寒い朝」双葉社刊に収録。