タカハシの目 第10回

(初出:第17号 98.8.20)

暑い日が続いている、こんな時こそ食欲を持ちたい(今年の夏バテはマジやばデス)。
谷口ジロー「孤独のグルメ」(注1)は昨年話題になった異色コンビによる作品。原作の久住昌之は泉晴紀とのコンビ「泉昌之」名義の作品が印象強く、本作はあっさりとした主人公で意外なところ。しかし久住らしさというのはセリフに表われている(注2)。また谷口の方もドラマ性の少ないこの作品を、街の風景を上手く取り入れて印象深く仕上げている。どちらも定番のコンビから外れたところで新しい可能性を見せたといえる。話がそれてしまった。グルメといって贅沢なものではなく、かといって家庭料理のレシピ集でもない。これは単なる一市民の外食遍歴だ。たかが食事、でもなるべくなら大事にしたい。牛丼屋に通うのをちょっと辞めてみたくなる作品だ。
これを挙げておきたい。西原理恵子「恨ミシュラン」(注3)。(何をやっている人なのかは失礼ながらご存じないが、最近の活躍は存じている)神足裕二と共に日本中の「高級店」を挙げていった作品。西原の素行の悪さと向こう見ずな行動は以前から楽しませてもらっていたが、「ルポもの」に才能を開花させるとは思ってもいなかった。また話は脱線。貧乏人(夏バテ気味)の私の食欲にダイレクトに響いてくるのが「池袋スナックランド」の回(注4)。食欲の減退著しい夏にあって、それでも「食べたい」と思うには何らかの勢いが必要なのだ。そう、祭の縁日のような活気が。これを読むとその効果てきめんである。
いわゆる「食」がテーマの作品はあまり持っていない。ので、「食事シーン」が効果的に使われている作品を以下に挙げていきたい。
いしかわじゅん「東京物語」(注5)は、今や懐かしいバブルの頃の恋愛もの。(出版)業界人は食事が不規則だ。なので「飲む」ことが出来てかつ「食べられる」店を好むらしい。作品中には実名で様々な店が登場する。もはや影も形もない店もあろうし、以前から存在し、現在もなお営業中の店もあろう。興味はその「食べられる飲み屋」にある。私の現在の「なじみ」さんはチェーン店か閉まるのが早い居酒屋である。多人数ならそれでもいい。が、その味には結構飽きがきている。早くここに出てくるような店を発見したいものだ。
深谷陽「アキオ紀行バリ」(注6)に、食事シーンは多い。主人公の恋した女の子が食堂の店員さんだから当然か。とにかく通う、食べる、ちょっと話をする。これの繰り返しで話が進む。出てくる料理はもちろん南国料理。暑そう、辛そう、でも..おいしそう。暑い時には暑い国の料理を食べる。これ案外有効かもしれない。

(注1)扶桑社刊。書籍扱いと思われる。
(注2)例えば「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」(第8話)。
(注3)朝日新聞社刊。
(注4)シリーズ2作目「それでも行きたい恨ミシュラン」所収。
(注5)集英社刊。全10巻。
(注6)講談社刊。全1巻。



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