タカハシの目 第5回
(初出:第11号 98.1.8)
さて。別段懐古趣味がある訳でもないのだが。日々出される新作をあれこれ読みつつも、私の読書範囲は実は‘80年代が一番強い。高円寺に住んでからすでに4年経つが、今でも定期的に古本屋を巡る。それは、買いそびれた新刊を安く手に入れる!というより、未だ見ぬ旧刊を探し求める為である。
しかし、最近になって成果がどうもよろしくない。単に買いたい本がないのではなく、手を出しかねている。主たる原因は値段の高騰である。
古川益三といえば、有名な「まんだらけ」(まんが専門の古書店)の店長。最近ではTVでもおなじみの人だ。どうもこの・・・なじみの顔になったあたりから値段が変わってきた気がするのだが・・・。断言できないから話をそらす。
今までは「マンガは全て半値!」(これは少々古い相場)という店が、このところ消費税以前の本を全て定価より高くしている。時の流れという理由で納得すべきか・・・。一応今のところ様子見の状況である。
そんな訳で古本を買い控え、といって新刊をどさどさ買うつもりもないので、このところ「読み返し」に徹している。高橋留美子「うる星やつら」(注1)といえば、誰でも知っている作品。しかし、完結から10余年。再読する機会は確実に失われているのではないか。どうもその、「何なか進展しない恋愛物語」というイメージが強くて、今さら・・・の感がある。ところが、今読んでみるとこのイメージはちょっと正しくないことに気付く(はずだ)。「うる星やつら」はギャグ漫画で(も)ある。しかもかなりレベルが高い。
ギャグ漫画というと、個性的なキャラクターがいて、それに周りが振り回される型が普通だと思われる。しかるに「うる星やつら」のギャグ形態は、「ボケ役とつっ込み役が特定していない」のである。「既存の構成パターンの破壊を成し得た」と当時の批評にある様に、この型は画期的であった。で、先に「レベルが高い」と言ったのは、「うる星やつら」の場合、この形態がそのまま作品の「世界観」ともなっている事による。作品中に登場する全ての人々が「笑える」。ここまで徹底しているギャグは、今でも珍しい。
澤井健「サーフワールドハイスクール」(注2)だけ挙げておこう。話の本筋は全く違うけど。
また、「うる星やつら」と言えば「少年サンデー」誌(小学館)。同時期の連載作品には今でも再読の価値がある作品が多い。安永航一郎「県立地球防衛軍」、ゆうきまさみ「究極超人あ〜る」、吉田聡「ちょっとヨロシク!」(注3)、と、こうやってみると当時の「サンデー」誌はギャグ漫画の黄金期であったのではないかと感じる。 昔はよくマンガを読んだけど、最近はよくわかんないからなーと疎遠になっている人へ。当時の作品を今、読み返すのも案外実入りのある行動である。別に「現在」にこだわる必要はない。と、今号はそんなお話。でした。
注1「小学館少年サンデーコミックス」全34巻は未だに発行中。ワイド版は全15巻
注2「少年ヤングサンデーコミックス」1〜4巻。同誌に不定期連載中。また、同誌に連載中の阿部潤「the
山田家」(同コミックスワイド版1〜3巻)は対象の構造を持つギャグ漫画。読み較べるのも一興。
注3前から順に「小学館少年サンデーコミックス」全4巻(絶版)、「同」全9巻(絶版)ワイド版が全4巻、「同」全12巻(絶版)。
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