タカハシの目 第2回

(初出:第8号 97.8.22)


 士郎正宗の作品「攻殻機動隊」 (注1)が三度の注目を集めている。単行本化(注1)アニメ化 (注2) 、そして今回はゲーム化 (注3) だ。前回のアニメ映画化にしても「実現 は不可能と思われていた」という番組宣伝が唱われた。しかし、士郎作品のアニメ化、ゲーム化は本作以前にすでに実現している。この文句が何を言いたいのかといえば、おそらくは「士郎作品の他メディアへの完全移植」が実現したことなのだと思う。

 今までネックとなっていたのは、演出面であろう。漫画と比べて「動きを出せる」という点は、前記2つのジャンルの特徴であり、得意とするところのはずだが、事ここに至るまで「完全移植」を誇示出来なかったのは、作者の作画技術と演出方法がいかにレベルの高いものであるかを明示していると思う。そんな作者が、自身の作品を発表する場として「瞬間を切り取る」表現に秀でた「漫画」を選んでいたのは、漫画偏重主義の私にとっては幸いなことであった。

 さて、アニメもゲームも出来は相当なもので(私見)、作者自身が作品世界を今後これらの分野に求めていくのも仕方のないことと思っていたのだが。 「ヤングマガジン」(講談社・週刊)誌上では続編がこれまで何度か発表されている(注4)。このことは他メディアの進歩も目覚しいものがあるが、それと共に、いやそれ以上に漫画作品を形にする「印刷」技術レベルが高いことを示しているのではないか。

 更に進化する印刷技術。その最先端が今回、ゲームと共に発売された「攻殻機動隊」の画集(扱いとしてはこれに類すると思われる)、〔サイバデリックス〕(注5)に導入されている。 漫画は鑑賞領域も確実に広げているのだ。

 漫画家の原画集、イラスト集は色々あるが、多くの場合作品のメモリアル的なものである。購買者が特定してしまうので、付加価値をつけたりする。例えばこの〔サイバデリックス〕は、ジグソーバズルなど5大付録。初回版はさらに特典がついている。その価格は実に9000円(税別)。しかしながらファン心理に働きかけなくとも、充分に楽しめるものであるならば等価を支払う事は全く問題ない。ただ、人それぞれにこれらの価値がわかる(必要とする)時機というのは異なると思う。買ってろくに読みもしない、コレクターズ・アイテムとして買ってしまう事だけは避けたいものだ。何を価値として高価な本を作ったのか、買う側としてもその有用性を見極めねばなるまい。 (注6) (注7)
 

(注1)講談社 ヤンマガKCDX.未完結
(注2)劇場版アニメ作品として’95年公開
(注3)プレイステーション用ソフト
(注4)特に映画化当時掲載された作者へのインタビューには、今回の前半部分の記事に関する興味深い話があったのだが、記録しておらず、詳細は紹介できず。すいません。
(注5)発行/講談社。発売中。
(注6)私自身今のところビジュアル的なものを士郎作品には求めておらず、実は〔サイバデリックス〕は今のところ持っていないのである。
(注7)但し購入意欲がない訳ではなく、機会がないだけなので内容云々については評価出来なかったが、紹介した。〔サイバデリックス〕に関する記述は広告を基にしている。



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