特集 第5回
(初出:第5号 97.3.4)
男の職場.
日常に潜む非日常というものが、前に言ったように大好きであります。普通の生活に「事件」というアクセントが絡む物語は、従ってよく読みます。探偵が主人公のマンガ、現在の主流である「推理もの」と区別したいのが、
主人公が屈折した完成品であるということ。 単純な勧善懲悪でもなければ、明確な目的が事件の解決でもない物語。「事件」は単なるアクセントでしかなく、そこには主人公の「生き様」が描かれているのです。
「DADA!」吉田 聡(小学館)
笑いあり涙あり、喜怒哀楽がはっきり出ていて、青春マンガの 代名詞と呼べそうな作品だ。作者の作品は壮大な連作(シリーズ)のようであり、時とともに主人公達が入れ換わるものの、その世界は全てつながっている。本作品で特徴的なのが、主人公が高校を中退するところから
物語が始まるところ。主人公の務める探偵社の仲間は、皆彼よりちょっとだけ大人びている。そして教師のようなボスの存在。今までにない新しいテーマ、「少年の自立」が描かれているのは間違いなかろう。
とはいえ、ややこしいことは考えずに純粋に楽しめるのは他の作品と一緒だ。他と同じように登場人物達は「さわやか」で「いいヤツ」である。
「事件屋稼業」関川 夏央・谷口ジロー(日本文芸社・他)
いつか見たドラマの主人公を覚えているだろうか?
さえない顔をして無駄な馬鹿騒ぎが好き。ちょっとイカしてしょっと野暮。何かに不満を持ちながら、不器用に世の中を泳いでいた、そんな探偵だ。本作品も、そんな雰囲気を持った探偵が主人公だ。前時代的な物語に感じるはずだが、古臭いと一笑に付することは出来ない。 そこには、いつか憧れていた大人の姿が描かれている。
「地雷震」高橋 ツトム(講談社)
「荘厳」のイメージがする。複雑な要因と主犯の単純な動機によって
行われる犯罪に立ち向かう刑事に「正義」の観念はない。「守るものがない、同種類の人間だ」と犯罪者に言われる主人公。その人物像はいまだに語られていない。予想を平然と裏切る物語は、だが確実に終章に向かって伸びている。 現在も「アフタヌーン」誌にて連載中の本作品は、予想を超える結末が待たれる。
次回は「涙がでてくる」作品を紹介しよう。
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