特集 第6回
(初出:第6号 97.4.15)
少年のナミダ.
さて、本題に入る前にここでお断りしておかねばなりません。
実はこのコーナー、型としては今回が最後になります。先月、我が家で蔵書整理を改めて行いまして、簡単な目録を作りました。眺めてみたところ、今まで紹介した作品はともかく、今後紹介していく上で今のような分類は少々苦しいと。 体制を立て直して次回からは新しい型で皆様に作品を紹介していこうと思います。
では、本題。今までに読んで泣いた作品といえば、それはもう数限りなくあります。しかし量を読む現在となっては、「良い作品」を見せてもらったという満足の一表現でしかなくなっているような気がします。僕にとって`80年代の後半、出会った作品に涙したのは、もっと熱いものではなかったか。そんな反省を込めて今回、極めて個人的な「名作」をお話しします。皆様も自分の中の「名作」を読み返してみてはいかがでしょうか。 (という訳で今回は特に紹介する意志はありません。ごめんなさい。)
「はっぴい直前」克・亜樹(小学館)
典型的なアニメ絵で、描いている作品もファンタジー物多数。
でもたまにラブ・ストーリーも発表します。本作品は、主人公とその家庭教師のラブ・ストーリー。主人公の通う高校の校長である父親との対立というドタバタ劇が後半展開されていて、正直なところ尻すぼみのテンションで終ってしまいました。成長物語としても恋愛物語としても、後半はあまり緊張感がでていなかったという事で、うーん。それに対して前半は、高校受験を迎え逃避に走る主人公と、それを追う家庭教師。そしてお互いが特別な存在に変わっていく過程と、お約束ながらキャラクターの動きが良く、評価できます。母性あふれる家庭教師と、無器用な主人公。その辺が目新しくて(浅学故、、、)、割とすんなりシンクロできました(当時)。特に単行本にして2巻目の最終話は見事なヒキで、滂沱の涙と共にその後何度も読み返しました(まだ3巻が出ていなかった)。私にとって初めて「続きが早く読みたい!」と思った作品でした。
「サード ストリート」本 そういち(小学館)
「海の向こうに渡った時、自分の国の本当の姿を知ることが出来ることを、初めて知りました」とは、当時私が作者に送ったファンレターの一文。(これだけは覚えている)家を飛び出して行ったアメリカで、ビザを失ってしまった主人公の生活を描く第一部。続いて第二部では自発的にアメリカにとどまった主人公が、見えない真実を求めてカメラをとる過程を描いています。良くも悪くも、メッセージ色の強い作品に直に当てられた当時の自分です。反抗期の自分にとって、憧れる人生が展開されていました。 メキシコ国境での話は、今でも胸が熱くなります。
「銀のロマンティック...わはは」川原 泉(白泉社)
私にとって「泣けた作品は何か」と問われた時、常に一番に挙がるのが本作品です。どういう訳か、初めて手に入れ出した少女漫画がこの作者でした。自分の「少女漫画観」を崩された、もっさりとした主人公、のんびりとした会話、劇的でない物語と、その作風にはしかし魅かれ続けています。
本作品は、大げさに言えば天才バレエダンサーの娘と、元天才スケーターの2人が、フィギュアスケートで栄光を目指す物語。緊張感の欠ける進行で、俗に言う「川原節」の効いた、一見毒にも薬にもならないお話しです。ところが最終話で、私泣いてしまいました。クライマックスを少し前に出して、余韻としてエピローグを加えてあるところが見事(2回泣ける)。感涙する話といっても色々ありますが、泣けるだけの話というのもいいものです。所詮この程度の男ととるか、是非御一読してみて下さい。
という訳で、次回からは新展開で皆様に作品を紹介していきます。
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