特集 第4回
(初出:第4号 97.1.21)
華麗なる女流作家
前回の予告で「少女マンガ」を紹介するといったのですが、正直なところ少女向けのマンガ作品は、私今でもよく読みません。(うそだけど本当)石頭というか、未だに固定観念にしばられています。
しかし、すでに年齢、性別による漫画作品の区分というのは意味がなくなってきており、作り手も読み手も特に意識しなくなってきているような気がします。改めて眺めてみると、男性誌でも女性誌でも受け入れられる作品を描く漫画家が数多く存在します。今回紹介する作品は、そんな方々の作品です。
中村 真理子「ギャルボーイ!」(講談社)
特徴的なのが太い線と荒々しい構図。男性誌において原作付きではあるが名作を出しているのはうなずける(注)。しかし、女性誌においても人気作家の一人であり、本作品は20巻を超える長編である。魅力は主人公、軍司 晃の中性的な設定であろう。粗野で明るく、熱血漢。剣道の有段者であり、その竹を割ったような性格はまさに男の中の男と言ってよいのだが、この主人公は女性なのだ。そして好きな男の前で時折見せる女らしさ。この描き分けが実にうまく、恋愛ドラマとしてあきのこない濃淡が出ている。周りをとりまく家族や友人らの人間関係を細かく物語に取り込んでいるところは女性漫画らしいというところか。 サイドストーリーも充実している作品である。
上記注
狩撫麻礼氏の原作による「Days〜時の満ちる」(スタジオ・シップ 現在は廃刊か?)、「天使派リョウ」(小学館)「ギルティ」(小学館)がある(確認分のみ)。これらの作品についてはいずれ改めて紹介するつもりである。
入江 紀子「なんぎな奥さん」(白泉社)
女性漫画には短篇読み切りの作品が多い。そしてその中のいくつかはシリーズものとして半定期的に発表、単行本化される。本作品もそんなパターンを経て現在5巻を数える。主人公夫婦の漫才のようなポンポンとテンポよい会話、そして全体を流れるお気楽な雰囲気は読んでいてとても心地よい。お気楽というより瓢々としているといった表現が適当か。実際、物語のヤマ場で語られていることの多くはバリバリの恋愛指南なのだが、それを感じさせないキャラクター達は何というか”今風”なのだ。 設定、物語とも決して珍しい型ではないが、その解釈は新しい。
吉田 秋生「ラヴァーズ・キス」(小学館)
入れ変わる主人公、そして主要人物を除いた脇役を極力排除した構成でありながら、一夏の出来事が青春の1ページとして広がっていくのは見事。前半部の主人公には重く暗い過去があり、だからこそその人生はドラマになるのだが、いわゆる感情移入によって引き込まれるのではなく、
キャラクターの圧倒的な存在感に読み手はただ外から眺めるしかない。それぞれの視点からくり返される同じ時間、次第に集束していく心と心。そして刻は再び流れ始める。短篇でこれ程の表現が出来ることを改めて教えてくれる作品である。
西村 しのぶ「SLIP」(白泉社)
男性誌を中心に活躍する漫画家でありながら、作品を通して流れる一貫したスタイル、洗練されたセリフ、そして愛する登場人物は、極めて独特のものである。10年ぶりに再会した幼なじみ、ケンソーとスズのそれぞれの視点から展開されていく恋愛物語…のはずなのだが、
2人の関係があまりに近すぎる為に一見姉弟のようである。それでも2人の会話、行動から意識が徐々に重なっていることが想像できる。実に奥深い作品なのだ。一般の恋愛物語から一歩突き抜けたような主人公達の価値観、恋愛感情は、いつみても新鮮で素敵である。
次回は「探偵・刑事もの」を紹介しよう。
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