特集 第1回
(初出:第1号 96.9.1)
青林堂
今年の1月5日に、月刊漫画「ガロ」初代編集長にして青林堂会長でありました永井 一氏が永眠されました。(*1)
'94年に長井さんの生地、宮城県塩釜市で「ガロと漫画と漫画文化」という展示会が開かれました。ちょうどその頃映画「無能の人」(竹中直人)を観て、「ガロ」の世界にはまりつつあった私は当然の如く観に行きました。多くの原画を目の前にすることが出来、とても満足して帰ったのを覚えています 。(*2)
「ガロ」のよさは、独創的で多様性があり、しかもそれが確かに歴史をつくっているところだと思います。私が「ガロ」に触れた時期はまだそんなに長い物ではありませんが、今まで出会うことのできた作品はどれもが私の視野を拡げてくれました。
編集長としての長井さんを、私はとても尊敬しており(*3)、今回の死はとても残念でなりません。
記念すべき一つ目の記事を、追悼の意味を込めてお送りします。
*1詳しくは、月刊漫画「ガロ」3月号、4月号及び「COMIC BOX」5月
号を御購読下さい。(要書店注文)
*2とはいえ、中日に行われた長井勝一、南伸坊、永島慎二、杉浦日向子
という豪華なメンバーの集まった講演会に、私は苦労してチケットを
入手したにも関わらず行かなかった。今更ながら後悔の涙、、、。
*3御本人の著作「ガロ編集長」の他にも、戦後の漫画史を扱った本には
必ずといっていい程長井さんに関するエピソードが載っています。
死後はNHK「ETV特集」にて4月22日、23日に追悼特別番組が放映
今後追悼本が続々出される(かも知れません)。また、塩釜市に長井
さんの常設館が建ちます。2年後の完成です。
たむらしげる「スモールプラネット」
イラストレーターとして活躍する氏の最初で最後の漫画の作品集ではないだろうか。一般にイラストレーターの描く漫画は、見せ場というものを実に上手く設定していて、そこだけで一枚の絵として十分に観る(読む)価値がある。現在でもイラストレーション、アニメーションの世界で、氏の想像は発展し続けている。この本はそんな氏の世界の原型を見せてくれているような気がする。
ひさうちみちお「パースペクティブキッド」
「タモリ倶楽部」でたまに御本人を拝見することがある。その容姿からは想像もつかない(失礼)が、極めて細かく描き込まれた流れるような美しい絵と、幻想的なストーリーは全く見事である。本の値段と作品の密度がマッチした、今どきお得な一冊だと私は思う。
大越孝太郎「月喰ゥ蟲」
さて、同じように芸術的といってもこちらの方はやや嗜好が強い。過去と未来を混ぜ合わせたようなこの緻密な画風は、もしかしたら悪夢と同質の感覚を与えるかも知れない。(例えば、同系統の丸尾末広氏の作品は、小説「帝都物語」の挿絵のような一枚絵であれば私は大好きなのだが、作品はどうしても読めない)しかしながら表題作「月喰ゥ蟲」、垂紅介のシリーズは、昔読んだ探偵小説、怪奇小説を思い起こし、私の"恐いものみたさ"を十分に刺激してくれる。
しりあがり寿「コイソモレ先生」
こちらは絵で魅せてくれるとゆうよりも物語のほうが素晴らしい。一度読んだだけだと絵も物語も(四コマ作品とはいえ)極めて平凡に見え、「こんなもの俺でも描けるわい」と思ってしまうのだが、最後の最後にコイソモレ先生のつぶやく「それもまたよし。」という言葉と、巻末のトットリ君の手紙を読んでから読み直すと、心の中があたたかくなっていくのを禁じ得ない。これはとても真似出来るものではない。氏の描く作品はだいたいこのように読み流しただけではその素晴らしさに気付かないことが多い。私は「流星次長」の頃から氏の作品を読んでいるが、どうしても単行本まで手が届かず、所有している単行本は恥ずかしながらこれ一冊のみである。今後集めていくつもりで、氏の作品については再び触れることになるだろう。
唐沢俊一・なおき(唐沢商会)「脳天氣教養図鑑」
本好きの為の漫画とでもいうべきか。この作品に存在するのは著者の御二人の持つ膨大な雑学知識の一部である。本当にどうでもいいような情報を次々と教えてくれるのだが、しかしこれが大変面白い。ちょっと(すごく?)外れた知的好奇心をくすぐってくれるのである。
次回は、本作品のような知的好奇心をくすぐってくれる作品をいくつか紹介したい。
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