マスブチのハッとしてグー(特別編) 第15回

(初出:第16号 98.7.20)


 

日の丸な就職活動日記

○月×日 HAL社に行く

就職の第一志望であるHAL社を一目見ようと幕張へ遊びに行ってきた。幕張はとてもとてもおおきなビルが立ち並ぶところで、HAL社もでっかい。でもなんか暗い感じもした。近くにあったNTTのビルはもっとでかくて、ゴジラよりでかかった。

○月△日 HAL社の方にあう

今日は仙台に出張にきているHAL社の林さんという人と会って実際に会社のことを聞けるという、ありがたい日である。こんときにぼくとおんなじ大学の志保ちゃんという女の子も一緒で、彼女と林さんの三人で喫茶店にいくことにした。彼の説明によるとHAL社は3回の試験があって、結構たいへんらしい。ぼくはこんな喫茶店での会話もけっこう緊張してしまって、よわいにんげんだと思いました。

○月△日の3日後 履歴書をおくる

林さんに「今週中に履歴書おくって」って言われていたのだが、もう木曜日も終わりそうな時刻になってしまった。てっきり忘れていたのだ。ぼくは颯爽と履歴書を仕上げ、夜の九時くらいに中央郵便局に向かった。車の中ではいろいろ嫌な考えも浮かんできたが、郵便局の人はちゃんと時間外受付してくれた。こんなに郵政省に感謝したことはない。

○月□日 HAL社の第一試験

今日はHAL社の筆記試験の日であり、幕張に来ている。前日に小島マユミが仙台に来ていて、チケットもとっていたのに行かずに就職を取ったのだ。かなり真剣である。小島のイベントはその後『ゾ!!!!!!!!!!』で放送されるのだがかなり羨ましかった。それはそうとぼくは今幕張だ。仙台から東京駅まで行って、ずーっと歩いて京葉線。そこから3、40分である。着くとまず小雨が降っていたので、コンビニで傘を一本拾う。東京は傘の紛失が多いのだからその管理の手間解消にもつながるのでいいことだと自分に言い聞かせる。マックくらいしかなさそうなのでマックを食いながらTOICの問題集をやってみる。HAL社の筆記試験はかなり難しい英語、数学、そして簡単な作文らしい。武者ブルイと尿意を感じ、トイレに行き、マックを出る。HAL社では志保ちゃんもいた。「ますぶちくぅーん」なんて声を掛けてきてかわいいじゃないか。

今回の試験者は結構いて、皆HAL社の訪問章をつけて一室に通される。出席の確認のときに「東大の〜」とか「理科大の〜」とかいう人事さんの声が聞こえてきて思わず拍手したくなるメンツであった。煙草はこっちで、トイレはこっち、みたいに説明を受けてとりあえず休憩となるのだが、ぼくは真っ先に喫煙所に行こうとしてハッとなった。だれも煙草を吸わないのか!?、どうやら喫煙所には人事の偉そうなおっちゃんとぼくだけでした。「君はヘビースモーカーかい?」「いや、は、すいません、ちょっとすいます」などとたどたどと会話をしながら二人っきりで煙を吐き出す。まずったかなぁ。試験会場に戻ると、英語の試験用紙が配られる。
で、焦る。『げぇええ、さっぱり=@*%$!!!、落ちうる落ちる落ち着け落ち着け落ち着け』てな感じ。少し息を吸うと、周りのすらすらとしたペンの動きと心臓の音が聞こえる。『これはマークシート式だ、解決方法は‥』と高速回転するのうみそ。ぼくはちらと周囲に視線を張ると、正面に大画面テレビがある。これは電源をいれていないので、鏡の役に立つ。ホワイトボードも然り。現在の試験官は3人で部屋の後ろにいるが、きっと人数のせいでチェックはゆるそうだ。就職試験で不正行為をする奴はこの錚々たるメンツにはいない。『どうせ普通に受けても落ちる試験だ!』と本気で決心する。ぼくは隣の志保ちゃんの答案に視線をずらす。見える! 緊張した手で彼女の答案を問題用紙の余白にメモする。勝てるぞ、カンニングの技術なら東大生にも負けん!ぼくの人格がちょこっとだけ壊れかけた。

○月▽日 通知

一次試験の次の日あたりに電話で合格の通知と二次試験の日程を知らされた。人格が壊れかけているぼくは電話を置いて笑顔を浮かべた。

○月◆日 二次試験

今日はグループ面接というものを幕張でやる日である。これはつまり、何人かまとまった試験者が2人の面接官の質問に答えたりするのだ。周りは、東大生、理科大生、工科大生、都立大生、東北大のぼくと志保ちゃん。みなの緊張も伝わってくる。面接官の一人は高校時代フェンシングの顧問だった千田先生に似ていて、シャに構えた苦虫顔だった。ぼくは結構口が達者な方だから質問には割とすいすい答えれた。いや、
むしろ自分でも感心な回答だったぞ。

「このごろ読んだ新聞で怒りを覚えたことはなんですか?」「政府の打ち出したベンチャー企業育成の法案はアメリカ式の学生のためのステージを用意する方向性もなく、息のかかったいくつかの企業に金が回っているだけです」かぁああ、我ながらインテリチックだね!自分でも知らない内容をこんなに説得力をもって喋るなんて。「大学で不満なことは何ですか?」「私は特にありませんが、一般的に既存の大学と、最近の専門学校的な一部の県立大学のようなものは、存在意義的にもスミワケが必要だと思います」おお、インテリなだけじゃなく哲学風(注:哲学的ではない)な発言までしてしまった。きぃー(注:喜び)、カッコ良い。加えて、まわりの人(注:全員理系)はぼくのすばらしい発言にびびって緊張も増してきてるようにさえ見えます。その日からぼくはインテリになることを決意した。給料の半分以上を使って、青山に住もう。劇画エロ本がおっこってそうな上野とかには住めないね。英語試験から一週間、不死鳥のようにぼくの自信は復活したのだった。

      

◇月◎日 突然のピンチ

試験から2日後、当然のように合格通知が舞い込んできた。今回は電子メールである。ひとまず安心していたらその週の金曜にPHSの留守伝にHAL社の方から伝言があった「HAL社の丹野です、ますぶちさんに‥(プツッ)」「至急3次試験の出席確認を‥(プツッ)」。何だ?一体何が起こっているのだ??ぼくは学校でももう一度電子メールを見直すと、文末のほうに「お手数ですが確認のお返事をください。お返事が
ない場合はお席が用意できない場合があります、云々」などと書いてあるじゃないか。急いでメールの返事を書き、HAL社に問い合わせると、「わかりました伝えておきます」などと言われる。いったい出席できるのか?、このまま幕張へ出かけて実際に現地へ行かねばならないのか!?この日は寝付きがすこぶる悪かった。

◇月◇日 HAL社の三次試験

とりあえず一抹の不安をもって幕張へ来て見ると、なんとか受付の名簿にぼくの名前があってほっとする。今日の受付のねえちゃんはいままでよりも奇麗に見えた。今回の試験は研究発表、個人面接、性格判断。なんか普通の人よりも苦労を背負っている気がしてきた。面接のときに「君だけ履歴書まだ届いていないよ」「えっ?出しましたけど‥」なんつーぐあいだし、だいたい性格判断なんていって、一時間ずぅっと足し算の暗算をさせられた。不愉快である。返りの電車で理科大生と工科大生と一緒だったが、一人はすでに何社か内定あるらしい。「今までの傾向だと2、3日で返事こないなら覚悟したほうがいいよ」「きっと前回いた東大生はおちてるはずだよ」。嫌なことを言う奴らである。

この間のこと

すべての試験が終わった。もう4日目だがまだ返事が来ない。何度も何度も何度もメールは開いているはずだ。この優秀なぼくが落ちるなんて考えられない!!試験の帰りの時の2人の言葉がきになるところ‥‥なのだが、明日は休みの日なので気にしないで寝ることにした。最近知り合った娘でも誘って遊ぼ。そうじゃん、もう夏も近いじゃん。日焼けして海行って、気分爽快えみりみたいな女の子捕まえてスーパー大学生
ますぶちライフ復活するのだ!!ニヤケながら再びぼくの人格が壊れつつあるのに気付いた。

現在

昨日電子メールで履歴書が見つかったとの報告を受け、そして今日内定の報告がメールで来ました。うーーん。やったぜかあちゃん。まぁ当然といえば当然じゃないかい?知り合いのOLねえちゃんに内定祝なにを貰おうかじっくりしっぽり考えなきゃ。
ぶししししし。

増淵大輔:現在目下就職活動中。ピーナッツのルーシーのような性格。


 



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