100号記念原稿 花鳥風月を愛でてみる? 第2回

(初出:第100号! 05.8.20)

第50号に登場の佳那氏、当時26歳。2005年の現在、腐れ縁は無事つながっていて、メールのやり取りも相変わらずだが、実はこのところ「詠(うた、と読む)」の送信は無い。
ただこの4年間に送られてきた詠は30詠(本人推奨単位)にも及ぶ。今回、作者本人も久々となるこれらの詠を眺めてもらった。
某日深夜。同期の結婚式帰りですでに半日飲み通しの、自宅駅前居酒屋にて収録。電車移動で酔いはだいぶ、覚めていた..はずだった。
開口一番「おい、わしええこと書いちょるのう!」
一人悦に入り、おもむろに日本酒へ手を伸ばす。今日何本目だろうか?4年ぶりの響宴が始まる。
(相方:矢島順)

一仕事  終えた後の  酒のうまさ  どんな癒しも  かなうはずなし
佳那「社会人になって久しいが、やっぱり酒じゃろ!」
矢島「疲れた時は特にね。しかし妻帯者にとっては昨今、発泡酒すら満足にありつけない状況だとか。今日久々にあった同期も、そんなボヤキをしていたけれど。佳那は奥さん居る割に、晩酌は欠かさないようだね。どんなペースで飲んでるの?」
佳「ビール1本飲んで、後は大体焼酎じゃけぇのう。えっといらん。一、二杯でええわい。」
矢「私は今時期だと日本酒だけど、ワンカップ程度の分量かな。まあ普段はそんなもんだよね。」
佳「それすら飲めんちゅうのは、哀しいのう。」

梅雨時期の  たまに晴れたる  非番の日  野原で遊ぶ  子等を眺める
矢「何だかウソくさい情景だな。」
佳「いやいや。仕事でミスした時なんか、無垢な子供には憧れるど。」
矢「遊んでばかりでいーなあ、って事?」
佳「背負うものが何にも無かった、あの頃に憧れるんじゃ。非番なのにわしは、本当の休みが取れとらん。行楽日和なのにやど?」

雨後の午後  路面にたまりし  水面見る  照り返す陽の  頼もしさよ
佳「雨続きの水曜の午後、降ってたと思っていたら夏の日差しが..この人ええなあ!ええこと書いとるで。」

夏空の  日差しの厳しさ  仰ぎ見る  まばゆい光は  思い出の影
佳「そんで夏の日差しを見て、影と詠む。この詩的感覚っちゅうか..はあ、ええで!」
矢「当時の(自分が書いたという)記憶が飛んでいまして、別人のようなコメントが続いておりマス。」

いつか見た  遠い空を  追いかけて  誰も知らない  所に行きたし
矢「これは望郷の念でしょうかね?広島は今は両親もいないし、やっぱり行かなくなってる?」
佳「いやいや、年イチで帰っとるで。」
矢「..そうですか。ではこれは具体例ではなく、観念上の望郷ということで。」

夏なれば  暑いことなぞ  分かれども  やはり暑さは  老体につらし
(年寄りがバタバタ倒れてる、って風刺じゃねえぞ。)
矢「この注釈によれば、老体とは自分の事ですか?」
佳「うーん、覚えちょらんのう。まあでもこれは大分前の話じゃろ。去年に比べりゃマシだったんじゃないんか?」
矢「都心は40度を越したとか。思い起こせば96年、大学初年以来の猛暑でしたからね。」
佳「そんな最中に外回りじゃぞ?はあ、キツかったわい。このごろは気候が無茶苦茶なんよ!」

遠い日に  仲を誓いし  親友よ  時間(とき)離れても   心離れず
矢「これはですね、時期は忘れましたが我々、半年ほど会わなかった時があったのです。」
佳「ケンカ(口論デス)して、飲まんかったんじゃったな。」
矢「そう、今は物理的に足繁く会う事が出来ないんですけど、当時はお互い都内で、ほぼ週イチで飲んでいた。それが、突然途切れた。付き合いが始まって以来初の珍事?だったんですけど..」

待たしたり  待たされたりして  幾星霜  幾ら重ねようとも  待つ心あり
矢「..結局、特に和解することもなく再開(再会)しましたよね。」
佳「ケンカはしょっちゅうだったけぇ、今さら言わんでも分かりあえとるわい。」
矢「危機感は全くなかったですね。たまたま会えなかった、飲めなかった、で気が付いたら半年経ってたというくらい。ただこの場合に関してはこうやって感慨深い詠が返ってきたと。」
佳「ま、美談ということじゃ。」

遠き日の  詠を枕に  一休み  夢で出会うは  無垢な心か
佳「わしのイチオシじゃこれは!ええど、これは。枕が二重に掛かっとるんじゃ。分かるか?」
矢「物体としての枕と、枕言葉という意味と..。まあ、それは分かるけど..」
佳「心情が伝わらんかぃのう!?大岡信先生(朝日新聞の俳句選者だそう)なら『やるのう!』言ってくれるでこれは!わしはシビレちょるけえ、上の句でブルブルじゃ!」

若き日の  黄昏時に  見た城址  街は変われど  ここは変わらず
佳「城址と言えば、仙台、青葉城じゃのう。丁度わしが行ったんは石垣の修理しとった頃じゃ。じゃけえ城跡は見られんかったんが、古の城下町は(資料館の)CGで見た。今はビル街じゃが眺望は一緒じゃ。あれは良かったのう..」
矢「延べで3度、青葉城には行ってるよね。」
佳「そうじゃ。資料館にも毎回行っとるで!」
矢「いや、最後に行った時は閉館後で、見られなかったはず。」
佳「そうか?何しとったんじゃ?」
矢「あの時は確か..」(この後、しばらく昔日の旅話で盛り上がる)

寒空や  星降る宵に  酔いながら  古に愛でし  詠を眺める
佳「宵に酔い..韻を踏んどるのう。太古のロマンに思いを馳せる、旅情あふれる詠じゃ。」
矢「ということは、この夜空とは、仙台?」
佳「当り前じゃろ。」
矢「仙台にても、毎度飲んでおりました..」

酔いどれに  たつた一人の  家にいて  思い起こしは  あの女の影
佳「失恋したんかなあ..(遠い目)」
矢「たった一人の、という所は「たつた」になってるんだけど、意味はあるの?」
佳「(石川)啄木の影響じゃのう..。女にふられての、寂しさに飲みたくもないのに飲みに行き、はしゃいだ後に帰って結局あの女(ひとと読めとの事)を思い出してこの後一人誦じるという..」
矢「こうして見ると、孤独、逃避といったネガティブな内容が結構多いよね。」
佳「詠とはそういうもんじゃろ?わしも根本は、意外とナイーブなんやで。」
矢「う、うん、まあ、繊細というか..」

とうとうと  流れ出づる  水のよに  友からの返事  待ちわびてみる
矢「おそらくメールの催促だったんだろうけど、こうなると風流だよね。」
佳「じゃろ?『メールよこせ!』より大分マシじゃろ。」
矢「あの..『返事が遅い!はよ送らんか!』って催促されたメールもあるんだけど..」
佳「それはあれじゃ、お前いっつも1週間とか、間が空きすぎるからじゃ。」
矢「携帯メール導入により、ようやっと解消されたのが昨年の話..」

旧友の たまのメールの 嬉しさよ 会える日を待ち 指折り数える
矢「んで、出したわけだ。これは東京を離れてからの話だね。おそらくこの時は会うのに1年くらい間が空いたんだ。」
佳「わしも転属になったで、そっちにも行けんようになったからの。」
矢「東京には定期的に行ってるんだけどね、そっちが都内勤務でないと会うのもなかなかね。」
佳「まあそういう時期もあるわい。」

真夜中の まばたく星を 眺めやり 胸に宿るは 寂寞の思い
佳「寂寞の思い..ええのう..実家の時じゃな。飲んだ帰りの夜道、あっこの道、分かるじゃろ?トンネルの手前じゃ。真っ暗な中で、見えるんは星だけよ。物音一つ聞こえんのんじゃ、寂寞の思いにもなるわ..」
矢「バイク通勤の身ではそういうしみじみした帰路の覚えはないなあ。酔ってる時なんか大概ご陽気ですっ飛ばして帰るから、路面は見ても空はね。」
佳「野暮な奴っちゃのう。」

親友の 便りは常に 厳しけり 忘れ行く傷 心にとどめる
矢「この時、何か言った?」
佳「まあまあ、たま〜に、お前は厳しい事言うけぇの。」
矢「そう?」
佳「その中でもあの時に聞いた一言、これは忘れらんないよ。『お前だけ舞台から下りてええのんか?』」
矢「ああ..あの時、ね。しかしこの時は何を言ったのかなあ?」
佳「お前はあの一言でええんじゃ。この時は、はあ、わしが何かグズグズ言うちょってお前が喝入れたんじゃろ。」
矢「..だみだ、思い出せん。」(酩酊につき、ご容赦を)

さて、一夜明けて以降は翌日、午後5時より収録。本日帰宅につき、黄昏時からの入店となった。場所は同じく駅前の居酒屋。一番乗りで早々に日本酒(熱燗)を頼む。すでに昼間、ビールと酎ハイで下地を作っている(平日の昼間に、なんて贅沢!)。まさに天国にいるような気分で、響宴は続く..。

酒酔いの あくる朝陽の 眩しさよ 胸に残りは 忸怩たる気のみ
矢「またもや酒絡みで、まあいつものと言っていいパターンなんだけど。気になるのは「忸怩たる」ってとこだね。」
佳「柴錬(時代小説家、柴田錬三郎のこと)の眠狂四郎の心境じゃ。」
矢「狂四郎シリーズは私も好きです。円月殺法で悪人を斬る、ヒロイックものなんだけど作者独特のペシミズムにあふれた主人公だったよね。」
佳「あの物悲しさをいつも抱えとるんよ、わしも。」
矢「まあ、宿酔ではねえ..」

朝陽うけ まぶしき顔で 道行く人よ 横目にて見る 羨ましきかな
矢「で、颯爽と出勤する、出来る人が羨ましい、と。」
佳「前の詠とは別物なんよ。ちょっと自分の仕事に疑問を感じちょってな、元気一杯に出勤する人がまぶしく見えたっちゅうことじゃ。わしが眩しいんちゃうど!」
矢「てっきり太陽が黄色く見えたのかと..そりゃ違う話か。失礼しました。」

都会(まち)の空 霞かかりて そら青し 春の気配へ 心浮き立つ
佳「虫と同じ気分じゃのぅ。あったかくなると行動始めよるんよ。」
矢「北国に帰ってその実感は強くなっておりマス..」

北国の 凍えるばかりの あさかぜよ 身を切るばかりか 心も切らるる
矢「まさに出勤時はこんな心境。」
佳「これは仙台での朝帰りの時じゃ。お前とケンカして傷心のわし自身を詠んどるんじゃ。」
矢「旅先でも喧嘩(あくまで口喧嘩)とは..もしかして相性悪い?」
佳「ここ最近はしとらんじゃろ。」
矢「会ってないからというだけかもよ?」
佳「喧嘩したところで、どうせ元どおりになるんじゃけ、ええんじゃ。」

春雨と 煙る闇夜の 物憂げさ 目に映りしは 煙る世の中
矢「久々に厭世の詠。世の中くすんで見える?」
佳「ええのう..」
矢「..反応無し。どうやら厭世というより情景に酔っての詠のようです。」

春雨の 煙る浮世を 眺めやり 煙りの中に 隠れてみたし
矢「今度は陰者の心境か?雑踏の中に紛れる、と、都会の孤独、ってやつ?」
佳「後ろ向きな姿勢じゃの。すぐ逃げ出したくなる。意外とダメダメなんよのぅ、わしは。」

不如帰 雨の中でも 羽ばたきて その詠声を 誰に届ける
矢「佳那の実家は横浜の山手で(高級住宅街の、ではない)、裏山があります。」
佳「情景が浮かぶわい。春の雨はええど。」
矢「前後して自然を詠んでいるけど、今は国道沿いの言ってみれば都会に住んでいる訳で。こういう景色に触れる機会は無くなっているよねえ。」
佳「詠の寂しさとはまた違う、侘しいもんじゃ。」

国を思い死ぬに死なれぬ益良雄が 友々よびつ死してゆくらん(兵隊作)
矢「山口県は徳山市(旧称)、大津島にあった海軍の秘密訓練所跡を訪れた時に見た、辞世の句なんだよねこれは。」
佳「そこは回天搭乗員、いわゆる人間魚雷になった人達が訓練していた所じゃ。これを詠んだ人は訓練中に事故を起こしての。死ぬまで人間魚雷の中に閉じ込められての。酸素がなくなり、死に行く中で詠んだ中の一句じゃ。」

益荒男の 描きし国は いずこにや 現世(うつしよ)を見て 憤りを感ず
佳「お国の為に死のうという志を遂げずして無念の死を迎えた人が、じゃ。今の世の中を見てどう思うか?こういう日本を作りたかった訳じゃないじゃろ。わしはこの詠で世の中変えよう思っとるわい!」
矢「う..。まあ、心意気はいいと思うけど..。ますらおの字にも意気込みを感じるね。」
佳「ますらおとは古の男子のことじゃ。わしは武人のような語感の益荒男を使っとる。それはそれだけの話じゃ。」

益荒男の 強気心を 切に欲す 世の理不尽を 打ち砕いてみたし
矢「勝ち気な詠が続きます。」
佳「よっぽど義憤を覚えちょったんじゃろ。ただ、その時はそう思っとったんやな。わしはいま、力でどうこうしようとは思うちょらんわい。だからこの辺の強気は今ではコメントの仕様がないのう..」
矢「年相応に、思慮分別とやらがついてきたってことかね..」
佳「弱気とは違うぞ。わしはまだまだやる時はやっとるわい。こないだな..」(最近の武勇伝が始まる)
矢「詳しくは語れませんが、上司相手でも言うべき時は言う。この辺の侠気は相変わらずのようデス。」

霜焼けの 己の手を見て 思いしは 苦労なき世を この手に欲し
佳「どうかせめて、世界中の人に幸せを運んでおくれ..いう心境じゃな。」
矢「上の台詞は浜ショー(シンガーソングライター、浜田省吾)の歌より。この頃は横浜の営業所勤務で、外回りしていたそうです。」
佳「直売から配管、器具交換に検針、集金と。まあ一般に言うガス屋じゃわい。朝から晩まで飛び回っとったわ。」

益荒男の 霙に負けず 働くは 己の意思を 尊ぶ心
佳「雪の日に働きに行くんはエラいぞ。我ながらようやったわい。」
矢「ほんとに、あのサボリ魔がねえ..」
佳「仕事は真面目じゃ!」
矢「や、仕事じゃなくて、講義のね。よく屋上で昼間っから酔っ払ってたじゃない。」
佳「それは、あれじゃ..お前もそうだったやないか!」
矢「ハイ。お互い、触れないようにしましょう..」

元日の 街行く人の 姿見る 人の晴れやか 服の晴れやか
矢「これはいつのかはっきりしています。2004年、年頭の詠。」
佳「年始メールじゃな。おめでたい感じ、でとるのう..」

初詣 数多の人に 願いあり すべての人に 幸多かれ
佳「キリストの気持ちやね。」
矢「年始は基本的に、神道の世界かと..初詣、でしょ?」
佳「何でもええんじゃ!」

新年に 時計を新に 変えてみる 新しき年に 新しい時間を
佳「一月一日、オリンピックの初売じゃ!これよ、これ(今つけている)。39800円の電波時計、いくらだったと思う?」
矢「..半額で2万くらいか?」
佳「1万じゃ!ええ買い物したで。」
矢「そういえば、私もこれは正月に買ったな。」
佳「お前が時計持つん見るの、初めてじゃの。」
矢「そうなんです。学生、フリーターと、時間に制約を受けない生活をモットーに時計はしない主義だったのですけど..。この頃、ついに..」
佳「考え過ぎじゃ。時間を見るだけじゃったら携帯で済むんよ。時計はファッションみたいなもんじゃ。ほいでもわしはいっつも付けとるけぇ、ないとないで不安になるんよ。何か左手首が頼りないっちゅうか。なくてはならんもんじゃけ。」

旧友の 便りはいつも 有難し 元気な報せと 友情の報せ
矢「何を書いて送ったんだろ?勿論メールなんだけど。」
佳「上の3詠(繰り返すが本人推奨単位)と一緒に送ったんじゃろ?なら年始メールの返事じゃけ、大した話じゃないじゃろ。たまにしかメール寄越さんから必要以上に感動したんじゃ。」
矢「まあ、そんなとこだろうね..」

念頭に 奮起を促す 便りあり 送りし者も 記憶はいつまで
矢「これも一緒に来た一つなんだけど、冒頭の「念頭」は年頭なんじゃない?」
佳「分からん奴じゃのぅ、韻を踏んどるんよ。..良く分からんけどな。」
矢「送信履歴も取っておくべきだったかな。何か熱いことでも書いたんだろうね。」
佳「送った方も送られた方も忘れとる。詠の通りじゃ。あ、今気付いたんだがの。その時の感情をそのまま書いたんが詠じゃってわし前に言ったわいね。」
矢「ああ、確か前回にね。」
佳「じゃけ内容は単なるメールの返信なんよ。これだけ見とっても分かるわけないわい。単なる字面じゃ面白くないけぇ、三十一文字にまとめる。要はそれだけのもんじゃ。」
矢「なるほど、だから前後の話が見えないと今では分かりづらいものもある訳だ。」

益荒男が 雨に向かいし 男気も 自然の力に 敵うはずもなし
矢「昨年は台風、当たり年でした。上陸の度にどうだった?ってメールのやり取りしてたね。」
佳「この時は最悪だったんじゃ..。ガケ崩れで警察から出動要請があっての。」
矢「ガス屋に?」
佳「電気、ガス、水道はライフラインじゃで、寸断されとったら復旧作業せにゃならんわい。テレビで災害現場の中継しとるやろ?ああいう場面で作業服着とるんはわしらよ。」
矢「はあ..なるほどね。」
佳「ほいでその時は立ち入り禁止のテープを乗り越えて、ボンベの引き上げやったんじゃ。終わったら終わったで、帰り道は冠水の影響じゃ。30分で行く所を1時間半も掛かって帰った..。あれはエラかったで。自然の脅威じゃの。」

台風の 一過の晴れを 期待しも 雲に覆われし 我が心も覆う
矢「こちらも近年になく暴風雨で、わずか10分の通勤でズボンがビショ濡れになりました。まあ、そんな程度の被害でしたが。」
佳「ほいで、台風一過を期待しとったら、次の日も晴れずに曇天じゃ。わしの心境も晴れんわいね。」

三十路なる ついに踏み出し 大台へ 未来を開くも 我が心次第
(返歌)あと纔ついに踏み込む三十代バラの未来を我が手にて(掴まん乎)
矢「さあラストです。いよいよ30になりました。」
佳「ついに大人以上になったんじゃな。そういう気がしたで、詠にも現われとるわい。」
矢「私は目前に控えていた頃。お互い、一応前向きな詠で迎えました。」

付記・矢島順より
...こうしてここ数年の「詠」の全てを回想し終わったのだが、私には最後に一つだけ引っかかるものが残っている。20代半ばのメール開通から始まって連綿と綴られてきた彼の詠が、この半年ほど全く送られてこなくなっているのだ(メール自体は続いている)。
この31字にまとめられたその時々の心情を現わす「詠」は、再三言うように、単なる文面に一ひねりを加えたというだけのもので、従って俳句のように季語を踏まえる必要は無く、川柳のように諷刺を効かせる必然性も無い。勿論作者独自の美学というか、言葉の選択に凝る作業は欠かせないものではあるが、佳那の言うには「出そうと思えばいつでも出せる」ものである。だがそれとなく催促をしても、メールに「詠」が載らないやり取りが続く。
佳那の言い分によれば「詠んでいないだけ」という事になるが、私は「(物事に)感じる事が少なくなってきたのではないか?」という危惧を覚えるのである。佳那は言う。「最近、若い頃の自分の行動を思い返すと、我ながらよう無茶しとった思うで。泥酔して大暴れなんて、今はようせんわい。」彼の人間的成長を現わす台詞と手放しで喜ぶべきなのだろうか..。論語に曰く「三十にして立つ」とあり、自立を見る世代ではある。孔子の生きた時代は平均寿命が50にも満たない。それでも物事に動じなくなるのは40代からと言っている(四十にして惑わず)のだから、何ぞ我々30にして賢しらに「もう大人だから」と言えようか?
正直、自分が偉そうに言える現状では無い。だが、仕事、生活に追われ余裕の無くなっている事が成熟と同義では無いと、私は常に書くことを止めないのである。日常を非日常的な行動で補う。金魚鉢の常にポンプで酸素を供給するが如く。
同じように私は、佳那にとっての「詠」は彼自身の成長記録ではないかと思っているのである。だから佳那よ、「詠」を止めないで欲しい。今詠んでいないのは、次のステップを迎える為の準備期間だと私は思いたい。例えば次回(150号か?)、またこうしてお前の「詠」を肴に、旨い酒を飲み交そうではないか!

付記にあたり・・・佳那克己から
友達の、友を思う気持ちというんは、文章にすると上のような形になるんかな?と思ったわい。徒然に始めた詠じゃったが、気付いてみればこうぃな風に人間関係を結ぶ物になるんじゃな、と改めて感じたし。50回毎の区切りのみの出品となってはいるが、正直楽しいんよ。矢島とツラを突っつき合わせ、酒飲みながら原稿を前にぐずぐず言うんが楽しいしのう。
厄介なんがわしの性格か?熱しやすく冷めやすい。自分でもわかっとるがの。ほいでも詠は別物にしたいけぇ。せっかく続いとるし。しかも孔子先生まで引き合いに出されたら、辞める訳にもいかんじゃろうが。これからも細々と続けていこか。
150号ではもちぃと美味くやりたいのぅ。わしらも昔に比べれば舌は肥えたじゃろうが。詠の方も肥えんなダメじゃろ?今のわしらを越える意味も含めてな。
次は150号じゃ。ほいでも誰ぞ期待して待っててくれる人なんぞおるんかの・・・?



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4年後の饗宴、読まれます?