150号記念原稿 花鳥風月を愛でてみる? 第3回


(初出:第150号 09.10.21)


50号区切りであるから、ほぼ4年に一度のペースでご登場頂いている本シリーズも3回目を数えることになった。幸いなことに幾度かのハプニングには見舞われたものの、SD誌はこうして無事、150号の歴史を重ねることが出来、佳那との付き合いも人生の半分に届こうとしている。そして勿論、「詠(うた)」も詠み続けられている。
近年は生活が落ち着いたというか、変化の無い日常が続いているせいか、暇が出来たら機会があればと直接会うことが増えており、今年も年明け早々に一献。その際「久しぶりに自分の読み返したけど..若かったなわし(苦笑)」と佳那は切り出した。でも続けて「しかし何ぼかは、はあわしええこと書いとるわい」と思ったそうで。これを聞いた瞬間に、私はShowDownを続けていて良かった!と確信した次第。「その時の一番の想い」を言葉にする。そしてそれを記録に(冊子に)残す。現在も、連綿と続いております。(発行人の挨拶から始まったが、相方はあくまで矢島 順)
ところが6月、一応この原稿の下準備の為にと訪れたところ、漠然とした四方山話なぞしたものの、あろうことか9時過ぎに寝入ってしまうというオジイチャンな行動を取ってしまい、その後伺う機会が無いままに、カウント0を迎えてしまった。という訳で、いつもの相方とのしゃべりで綴るスタイルではなく、当時のやり取りを元に構成せざるを得なくなってしまった今回、まあでも長い歴史の中でタマにはこんなこともあるサと呟きつつ、ここまでを書き上げたところ。
前号が出る直前、つまり本号発行まで一月余りとなった某日。佳那から「打ち合わせはいつするんじゃ?」と寝ぼけたメールが届いた。編集後記では引きとして使わせてもらったものの、何を今さら!とは正直な感想である。6月から9月まで、余裕はありながら一向にそんな話も来ぬまま(まあこれは私の方にも言えることだが)、ここへ来て上京せいとか!?シフト表を仕方なく眺めてみると、丁度私事(仕事)が立て込んでいて、当月は連休が存在しない。私の休日は、つまり他人(サラリーマン)の平日であるから、弾丸ツアーを組むことも出来ない。慌てた私はひたすらダメ、ムリを連発し、納得してくれない佳那を何とか承伏すべく、大急ぎで原稿を書き上げ、とにもかくにも「これを読んで万事俺に任せてくれ!」と送った。佳那不在でも内容は問題ない、ズバリ渾身の力作であった。
佳那曰く。「まあ日程的に無理っちゅうんで、一度は冷めとったんじゃ。しかしの、読めばやっぱりあれこれ言いたいわ。メールのやり取りでは伝わらん、話せば分かるこの想い。ほとばしるパトスは誰にも止められんのじゃ!わしも、おどれもな!!」
..結果、くすぶっていた火種をわざわざ焚き付けることに相成り。最終的に出た起死回生の一策が、「わしがそっちに行ったる。それで文句なかろ?」
..はい。

本号発行まで一週間を切っている某日夜。こうして勤め帰り新幹線に飛び乗った佳那と、同じく勤め帰りで車を駅前に走らせた矢島が4年ぶりの狂宴を始める。

  たまさかに 昔のツレと 飲んでみて 思うところは 時の経過か

  益荒男の 夢はどこを 向きよるか 旗の行く方 風のゆく方

  遠方より 既知の訪れ 嬉しきかな 既知はおのずと 知ることもなし

  黄昏に 風を体に 受けてみる 時は移れど 風は変わらず

  人々の 幸せを抜く 国があり 己の足下 そっと眺める

  たらちねの 母はいつでも ありがたき 君にもいる わしにもおる
(付記)君は母か好きか いまいる連れ合いよりも 母が好きか
君にとって母とはなんぞや 今一度 しっかりと考えんさい

オープニングは前回2005年の対談直前に送られてきた詠の数々。
佳那『最近はいっそ詠もないの、思うところが少ないんかの。』と、前回の締めに通じるコメントが付いておりました。佳那『勢いでは、パトスは捻りだせんの。』とも。
矢島「普通の近況メールに付いてくるスタイルが今では懐かしいな。当時は駄作揃いと吐き捨てていたけど、現在詠んでみて、どうよ?」
佳那「えーねぇ。詠んでた当時は直情的じゃけえ、思ったままでいい感じにならんかったのと思うけど。旗、か。ええのう。..向きよるか、じゃなくて向いとるか、の方がええか。」
矢島「あ、益荒男の〜の詠ね。」
佳那「既知は古友と書いてそう読まんかの?」
矢島「それを言うなら知己、じゃないの?」
佳那「まあ細かいところはいくつかあるが、時が経って読み返してみると、深いねえ..。風は変わらず、その通りじゃ。昔と風は変わらんよね..鎌倉だろうが、室町だろうが..な!」
矢島「例えの時代が間隔狭いけどな..。まあ、さておき。最後の詠は付記としたけど、詩のようなセンテンス区切りの一文が添えられています。」
佳那「これもいいな!わしの母親が足悪くしての、祖母ちゃんが亡くなった今となっては深いの。深すぎじゃの!」
矢島「今年は私も一応親孝行が出来まして。まあ普通の人より遅すぎるペースではありますが。」
佳那「まあ喜んどったけえ、良かったの。」

  秋の日の まだ蒸し暑き 午後の日に 新しき目が そっと産まれる

  旧友に 我が子産まれし 報告す 嬉しくもあり 恥ずかしくもあり

  人の目を 気にし生きいく 年月を 威張ってやりたき 息産まれし日

100号発刊直後、佳那に第一子が誕生した。これより大分前に、佳那の言った話を覚えている。
佳那「子供はいらん。」
矢島「何でよ?」
佳那「わしが子供なんよ。ほいじゃけ、よう育てやらんわ。子供は考えとらん。」
矢島「そっか..」
昔の話を揶揄するつもりは毛頭無い。つまり、こんな事を言っていた男が、誕生に前後してこれほどの詠を送ってきた。気持ちが動いて詠になる。まさにその証左がここにある。
佳那「ほいなこと言うとったかの。ちーと、強がりも入っとったな。あきらめも半分あったんじゃ。」
矢島「その辺り、気恥ずかしいながらも誇らしいという気持ちだったんだな。」

  旧友との 約束を破りし 秋の宵 分かりくれると 一人合点し

ちなみにこれは、誕生直前に送られた詠。この年も秋には訪れようと思っていたが、出産時期と重なってしまい、遠慮することに。
矢島「親友といえど、さすがにこれは一家の一大事だしな。」
佳那「いやこれは元々休みが合っとったんじゃよ。出産が早まったけえ、急遽実家に向かわなならんなって..」
矢島「あ、そうだったそうだった。奥さん帰ってるから、その間に行くって話だったんだ。」
佳那「さすがに産まれそうだと言われたら、旧友よりもそっちに行くわな。」
矢島「そりゃそうだ。今回だってちゃんと家庭行事優先で日程組んで、なあ?」
佳那「色々入ってくるんじゃ週末は..」
こちらとしては原稿作成の都合上、2週ほど前にしてもらいたかったのだが、予定アリと断られていた。ちょっと嫌みが過ぎたね。早くも熱燗に入っており、ついつい気持ちが入ってしまってマス。
この後秋の連休時、息子と海に行ったエピソードをひとしきり。こちらも甥っ子と海に寄った話で対抗。

  たらちねの 母の面影 思うにも 胸に残りし 君のその声

  益良雄の 強き心を 止めいくらん 現世の力と 未知の力と

  千早ぶる 神のおもいは 気まぐれにも 公の思いは誰に届かん

彼女が出来た年上の仲間に送ったんだそうで、ついでにこちらにも転送された模様。
矢島『面思は韻だね。母親以外の女性が気になり始めたと。
益良雄は益荒男でなくて?現世ときたら来世、イマと読ませても未来だけど、未知(可能性?)とした辺りがヒネりかな。
たらちねの、益良雄、千早ぶると、お気に入りフレーズ揃い踏み。公とかいてキミと読めばいいのかな。何だ、押してやったんか?
気になる女性が出来て、勇気を振り絞ってイチかバチか勝負しろ、と。気まぐれがいい方に出たようで。どうもおめでとうございマス。』
佳那「あー、こんな事あったか。行かんで後悔するなら行って後悔せい!って言ったんじゃった。こりゃわしの座右の銘じゃな。」
矢島「しかし色恋沙汰では祝辞を述べてばっかりだね私わ。」
佳那「最近浮いた話は無いんか?」
矢島「ナイ。」(即答)
佳那「しょうがないの。」
矢島「気を取り直して。益良雄はこれでいいの?」
佳那「益荒男じゃなやっぱり。」
矢島「4年経ってようやく訂正したよ。じゃここ(公)はキミでいいんだな?」
佳那「そうじゃ。ついでにここでは「げんせ」でええが、こう(現世)書いて何と読むか分かるか?」
矢島「うつしよ、だろ。」
佳那「その通り!さすが、分かっとるの。」

  天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも (阿部仲麻呂)

これは珍しく本物の?有名な作品。大阪の出張先からメールが来たので、旅の空で一つヒネってみてよと振ったらこれが送られてきた。
で、(残ってはいないが)おそらく適当な感想を返したんだろう、丁寧な解説付きでこの詠を送った意味を教えてくれた。まあ、独り大阪のホテルで、ヒマだったんだね。
佳那『仲麻呂は遣唐使やった。当時の状況で、なんとか唐には渡ったが、帰れんようになっての。何度か帰ろうと試みたが結局ダメでの。仲麻呂は時の唐の天主から役職をもらったほどじゃったん。
でも結局帰れんで、ある晩の秋の日、すすき原に昇る月を見て、詠った詠。
どこにいても、空に昇る月は一緒やのと。同じように、唐で見ている月と、故郷で見る(仲麻呂は奈良の人じゃった)月も同じなんじゃと。
これは今も一緒じゃと思わんかえ?
わしが今、大阪で眺めとる月、それはお前が仙台で眺めている月と同じ..距離は離れど、見ている物は同じじゃ。距離も時間も越えて、同じ月を見ているだけで、互いを身近に感じられんかえ?』
矢島「実に浪漫ちっくな..」
佳那「当時のメールでは説明が足らんかったの。これは実は望郷の詠なんじゃ。そいでわしの、初恋の、遠距離恋愛の思い出でもあるんじゃ。」
矢島「離れていても、見る月は同じだと。共感できたんだろうねえ。」
佳那「わしの関わりおうた全ての人が同じ月を見とる。月も変わらんの。花鳥風月は時代を越える存在じゃな。」
矢島「残念ながらこのメールが来たとき、俺は月なんぞ見てなかったけどね。」
佳那「何しとったんじゃ?」
矢島「おそらくすでにグースカと..」
佳那「まあええんじゃ、別に一緒じゃなくても、何かあったら月を見よとわしは言いたい。太陽じゃなくてな。月を見れば距離も時間も関係ないわい。」
矢島「太陽はダメなの?」
佳那「月はの、欠けるからよ。必ず同じ形じゃない、完璧じゃないから人間につながるんじゃ。」
矢島「ほう。..何か深いようだけど、恒久、永遠という意味では太陽の方がいいんじゃない?」
佳那「太陽はの..眺めたら眩しいじゃろが!ジーと見とれんじゃろ!」
矢島「あ、そうですカ。」

  血は征ほうを染めて、甲(よろい)を透して紅なり。
  当陽誰か敢(あ)えて与(とも)に鋒を争わん。
  古来陣を衝(つ)いて危主を扶く。
  只有り常山(じょうざん)の超子龍。

矢島「歴史シリーズ?第2弾。ただこれは、詠ではないよね?」
佳那「いやいや、確か李白か杜甫の書いた詩じゃ。ちなみにこれは何か分かるか?」
矢島「三国志だろ?」
佳那「そうじゃ!そいでな、李白といえば〜〜」
この後、いくつかの中国史エピソードがやり取りされたが、残念ながら何しろ締切間近で資料を当たれず、漢字とか分からないので割愛(悪しからず)。超子龍の超も誤字なのだが正しい字がパソコンで出て来ず(再度悪しからず)。

  古友の 誘いはいつも 喜ばし 良い知らせか 楽しき知らせか

  ムリをして ムリをムリして ムリをして 会えるその日は すましがお

  人はいさ 心もしらず 故郷よ 気持ち反面 友反面

  益荒男の 気持ち一つ 伝えたし 友の代にも 子の代にも

  ちはやぶる 上から落ちる この思い たれに伝える たれに伝える

お盆時期に連休が入り、田舎に帰っているかと伺ってみたところ行く日程をずらして(飛行機→夜行)くれ、遊びに行くことに。その打ち合わせの最中に送られてきた詠。
矢島『一気に詠んだなまた。メールの中身からはおっ、いいぞ。くらいの軽いノリに見えたんだが..万難排して迎えてくれるようだな。まあこちらも当日は感謝せずにすましがおで行くゾ。「すましがお」いいなあ。この詠は漢字が全く無くてもいいと思う。第一席だ。』
矢島「これはいま読んでも本当にいい作品。」
佳那「切符をキャンセルしたり、向こうでの予定を繰り延べしてもらったり、まあ色々都合つけたけえね。」
矢島「いま読んでも当時の状況を思い出す詠はいくつかあるけど、これは恐らくいつまでも覚えてるだろうねえ。」
佳那「カッカッカ..(満面の笑みで酒を酌む)」
矢島「まあその思いに今回は報いた訳だな。こちらも今日はすましがおで迎えたぞ?」
佳那「わしが押さんかったら実現せんかったじゃろが!」
矢島「まあ、そうなんだけどネ。」

  愛想ない 息子がたまに する孝行 等価以上に 親は評価し (矢島順)

  愛想ない 男がたまに 出す便り 思う以上に 朋友は喜び (矢島順)

で、(これもおそらく)メールの本文にリンクさせて私が送った駄作。私客商売が長く、サラリーマンの休日が稼ぎ時ゆえ、なかなかこちらから「休み取れたけどヒマ?」という話を持ち出せないのだ。大抵は「もう半年も来とらんけえ、都合付けろ!」という催促があってようやく腰を上げる。
矢島「この時はほんとに珍しく佳那と休みが合ったんだ。」
佳那「まあ最近はちょくちょく会えるようになっとるが。」
矢島「けどねえ、実はこの時、珍しい会合だったんだ。奥さんと息子が一足先に里帰りしてただろ?つまり独身男二人の飲み会だったわけだ。しかも!結婚前はお前実家だったろ?家に帰れば父ちゃん母ちゃんがいた。この時は家帰っても二人でさらに飲んだ。そうすると、俺が独り暮らししてた頃以来だから..おそらく10年近く..ぶりの状況だったんだよ。」
佳那「そうか..そうだったか!」
矢島「(酒を酌まれ)はいはい。」
佳那「入れたんだから一口付けろ。」
矢島「おう。..で、その後はやっぱり奥さん息子がいるだろ?俺んところも親父おふくろいるし。あん時が最後の、だったんだなあ。」
佳那「そうかあ..」
矢島「だから思う以上に覚えてるんだろうな。」

  いにしえの 君はどこに ある人よ 月は優しく なぐさめるなり

  思い出を 月は優しく 照らしたり 一人のオレと 記憶の君と
(メールタイトル「傑作」。「わしの久々の傑作やど。明日になったらわからんが」と追伸がきた)

  紅の 空に一人 いきんでみる 夜も忘れ 昼も忘れ

  人の 人の 成長は大きいものよ 人から出でても 人知外なり

  現世の 詠はすべて それっきり 誰の心に 残るものある

深夜矢継ぎ早に送られて来た。一詠ずつ、断続的に。
矢島「最近の詠の典型です。」
佳那「何がよ?」
矢島「要するにだな、週末の夜中にこうやって詠だけドカドカ送られてくるわけだよ。」
佳那「あーまあ電車の中で直情的に詠んでしまうんじゃな。」
矢島「いやいや、電車の中で、はこの後でさ、この時のは俺はこう読んだんだ。月、月、空ときてるだろ?まあ間に電車移動があったのかも知らんけど、ともかく帰り道、月を眺めながら壮大な思いを詠っているわけだよ。」
佳那「はあ。」
矢島「そいで家に帰れば子供を見て詠むわけだ。さらに布団に入ってさ、携帯いじって送った詠見てたんだろね、最後は何だか無常観に捉われたんだろ、虚しくなって一詠と。」
佳那「そうじゃったんかの。」
矢島「間違い無いって!最初は1分おきくらいだったのが、30分後に来たりして、本文付いてないし何があって送ってきたんだ?って考えてたらさ、行動が読めるんだもの!」
佳那「最初の詠のある人ってのは、確か昔の女のことじゃったと思うんじゃがの。」
矢島「そうやってあれこれ思いを飛ばしていても、家に帰れば息子に釘付けってことだ。」
佳那「ふん、筒抜けかの。直情的じゃからバレバレじゃの。」
矢島「そういうことだ。詠は恐ろしいぞ?」
佳那「まあ、いろいろ出てきて..この会は言ってみれば禊みたいなもんじゃな。」
矢島「その通り。色々話して、スッキリしてってくれ。」

  ちはやぶる 上の流れは 早かれども 下(しも)の流れは ゆるりと流るる

程なくして、再び金曜の夜中に送られてきた一詠。やっぱり、飲み帰りの終電内から帰宅、就寝まで趣くままに即興で詠んでいたようだ。本作はまさに象徴とも言える好きなフレーズ「ちはやぶる」から始まるお馴染みの内容。ただちょっと、私読み返していてどうも推敲が足らぬ、間延びしている、と不遜にも感じてしまったので翌日こう返信。

  ちはやぶる 上の流れは 早けども 下の流れは ゆるりと流る (矢島順)

矢島「ま、お師匠でもあるまいし、添削変更など失礼な話ではあるがね。こっちの方が宜しくないかね?」
佳那「ふーん..まあ詠んでる当時は直情的じゃからの。後になって冷静な目で見れば直したいところもボチボチ出てくるが。」
矢島「..どうも、自分の方が気に入ってるらしいな。じゃ、同じちはやぶる〜からのこちらの詠に。」

  ちはやぶる 上よりの流れ 早かれど 刻の逢瀬を

ちなみにこれは、送られた時期不明の一詠。携帯に送られた詠を、マメにこの4年に一度の原稿のためにパソコンに移し取っているのだが、パソコンの故障→買い替えなどあって実はいくつか紛失してしまっていた。そこで佳那には携帯に残っている詠を再度送ってくれと依頼していたのだが。
読んでみれば瞭然のように、この詠は一句(7字)分足りていない。
矢島「おそらく送られなかった、作成途中の作品だと思うんだけど。せっかくなので今回、完成させてくれ。」
佳那「うーん..よし、帰るまでに仕上げるわい。」
結局、すっかり忘却の彼方へ飛ばし、帰ってしまったのだった。

<夜に想う・・・>

  徒然に 杯を挙げるは 稀にこそ 楽しみあり 淋しさあり

  たらちねの ハハハと笑う 君をみて 確信したり 仲の飲み会

  天の原 あるまじき夜を 顧みて 故人が見た 月を観たし

主題付きで送られた3詠。実はこのメールはパソコンに送られたもの。
佳那『矢島へ
こんにちわ。
気分はどうだい?
ずいぶん無沙汰しとるが、変わりはないか?
地震は最近どんなよ?一時の勢いは治まって、だいぶん落ち着いたようじゃの。天災は忘れたころにやってくるもんじゃけ、気つけえよ。
いっそ来やせんが、どうなっとるんか?
わしともはや半年以上会うてないの。わしも仙台に行く用事がないもんでお互い様じゃが。
さてさて。
久々に作って、温めとったんがいくらかあるんじゃ。
ま、徒然の作じゃけ、昔のような輝きはないが、その分深みが増したど。
男は黙って、詠を詠う。
ご覧あれ。』(一部改変、省略あり)
とまあ、言ってしまえばいつもの内容だったわけだが..問題はこのメールがパソコンのみに届いていたこと。近年めっきりパソコンメールはチェック頻度が落ちていて、しかもこの頃は送信が出来なくなっていて..どうにも間の悪い時に送られてきた。何と2週間後に『こりゃ!かれこれ2週間以上経つが、いっそ返事きやせんじゃないか。どうなっとるんじゃ!』と再びパソメへ。それにもまた無反応だったのでついにようやく携帯メールにお尋ねが入り、こちらとしては寝耳に水で、慌ててチェックした次第。何とやり取りで1ヶ月である!電話一本で済む話だが..これぞまさに腐れ縁哉。
ちなみに最後の詠がちょっと真意が計りかね、『過去の何かを暗示しているのか、実際の故人を偲ぶ敬虔な気持ちが入っているものなのか..?』教えてくれと頼んだが無回答。このダラダラ感が腐れ縁の秘訣..なのかも、知れない。
矢島「まあ丁度これが一年前の話。どうやら何時でも何時までも、こんなやり取りを続けるんだな。」
佳那「これは確か大学の同期とたまたま飲んだ時のじゃな。徒然に..で淋しさと掛けとるが、会うて飲んでしまえば淋しいことは無いの。」
矢島「ちなみにこの時私は電話出演のみ..」
佳那「最後の詠は厭世の詠じゃ。何ぞ感じとったんかの。」
矢島「お、ようやく回答が来たな。俺が来なかったから淋しかったんじゃないの?」
佳那「おどれが来んでも盛り上がったわい。」
矢島「メールを読むと何だか怪しいんだが..その後1ヶ月も音沙汰無しで済んでるようじゃ、そういうことだったんだろうね..淋しいのは俺だわ。お前以外は久しく会ってないもんなあ。」

  宵闇の 汽車はいずこへ 進む哉 オレの夢と 君の夢の狭間へ(字余り)

年初に会ったら奇特にも、mixiをやりたいというのでお誘いを。何しろ佳那は全くの初心者なのでこちらもド素人ながらあれこれ問われるままに答えていたら、やがて来たのがこの一詠。お礼だそうで、『お釣りがくるの』だと。
これもまた、終電の中で送っていたようで、この後立続けにメール。

  徒然に 人の思いを たぐりつつ 明日の時代を 夢にこそ見ん

  親ならば 子を思うことこそ こころがけ 去りゆく冬も 心に置かぬ

矢島「さっきと同じように、帰り道には景色を見ながら徒然の思いに身を飛ばせつつも、家に帰れば目に入るは我が子ばかりと。」
佳那「仕方ないの。」
矢島「純粋な想いが表れてるわ。呵呵。」

  啓蟄に 心浮かすは いわでかも 虫の明日と 今日の君とを

矢島「後輩と飲って一つ、だと。」
佳那「昔は週に一遍だったんが、最近は2月に一遍くらいでの。ほいでも飲めば変わらぬやり取りじゃ、うれしかったんじゃろうの。」
矢島「啓蟄なんぞと言われてもピンと来ない、時代になっているが、まあご陽気な感じは伝わってきますな。」

  約束を 違えたんは 何ごとぞ 棺の中から 返事は聞こえず

  徒然の 日々は徒然に 過ぎるかも 変わらぬんは 残りし我らか

  徒然に ただ徒然に 日々は過ぎぬ 変わらんは 残る我らか

  桜の頃 君は望みて 風呂に行く 迎えに来るは 初恋の人

  君がいない 部屋は何も 変わらずとも 過ぎゆくは ただ寂寥のみ

  益荒男は 涙一つも 見せるまじ 心で泣くも 人には見せず

いつものように、日付の変わる頃合に、続々と送られてきたメール(詠)の数々。だがいつもと内容が違う。どうもご不幸が起こったな、と。翌日に送り越して事情を尋ねたところ、やはり..であった。
佳那『先週の金曜の夜に婆さんが亡くなってな。
それも心臓発作やったけ、いきなりやった。入院したり、とかって訳でもなく、全く突然。
で、土日月と広島に行ってたんじゃ。
毎年夏休みには帰ってて、去年の夏に会うた時も「来年必ずくるけ、元気でおってな」って約束しとったんじゃ。それがいきなりやったけの。慌ただしく過ぎてしもうたが、一杯飲ったら激情が溢れ出してきての。で、昨日のメールじゃ。
心配かけてすまなかったの。
婆さんは91歳やった。人から大往生じゃけ、ええじゃん。と何度も言われたわ。わしも他人の親族が亡くなっちゃって、90過ぎてたら、まあまあ大往生じゃん。なんて言いよったが、身内にしてみれば90過ぎていようがいまいが一緒じゃ。亡くなっちゃって、大往生も何もないわ。寂寞の念ばかりじゃ。』

想いは察するに余りあり、当方の知ったようなコメントは差し控える。ただ、後日談としてこの後会った時(6月)に聞いたエピソードを紹介する。
佳那「実はこの時、親と大喧嘩しとってな。はっきり言って絶縁寸前じゃったんじゃ。そがいな時にこの知らせが来てや、とにかく行くと。姉ちゃんと両親と、一緒に飛行機乗って、そっからはあれやこれや言っとれん、必死やったわいね。していく内に、何となく和解しとってな。婆さんには最後までお世話になりっ放しじゃったんやな..」

  気は迅る ただ気は迅る この想い たどり着くには 恥も忍ばず

  時は過ぎ お足は先に 進めぬが 進まぬものが 我の体も

  伝えたい 想いを君に 伝えたい 達磨のわしは 君に会えずか

矢島「さあ、最後だ。深夜久しぶりに送られてきた詠3つ。半年以上ぶりの、何と今月の作。」
佳那「熱意が表れとるの。何で達磨か分かるか?」
矢島「手も足も、で前の詠に掛かってるんだろ?」
佳那「そうじゃが要するにもどかしさよ。今さら無理じゃ、言われてこっちも放っといたのは事実じゃけ、仕方ないと割り切りたいんじゃが、せっかく上げるんに中途半端で済ませたくなかったんよ。」
矢島「ちなみに当夜は送別会だったそうで..相当、感傷的になっておりましたな。」
佳那「ほとばしるパトスがついに溢れ出たんじゃ!誰にも止められない、の!」
矢島「お、冒頭の文句が出てきました。ということで、すったもんだの挙句佳那がこうしてやって来てくれて、150号記念記事、何とかいつもの対談形式でまとめられそうです。」
佳那「まだまだ、夜は終わりゃせんぞ!」


気持ちが動く時、詠は生まれる。100号からの4年間も、お子誕生、仲間との日々、遠方自来友、そして別れ..と、詠み続けられてきた。「それっきり 誰の心に 残るものある」と佳那は達観しているが、Show Downがそれを許さない。こうしてまた、歴史は残され、何時でも読める状況に置かせてもらう。
「実はの..」と切り出して、佳那は宴の中盤にこんなエピソードを披露してくれた。
佳那「元々おどれはこの企画を認めとらんかったんじゃ。記念じゃけ、わしにも書かせい言うたら、他の人たちはちゃんと連載という形で原稿を書いとる。遊び半分じゃったら載せられんぞ、とな。」
矢島「え〜っ?そんなんだったっけ?」
人は変われば変わるもんである。当時の心境を現在ではまるで覚えていない自分がいる。事実なのは、そんな難色を示していたこの企画が、今では節目を飾る唯一のものと、なっていることだ。
佳那と矢島にしか分からないかも知れぬ、小さな楽しみ。結構。
またいつものように日々は流れ、折に触れ酌み交わし、思い出に破顔(わら)う。4年に一度は熟成された、詠という肴をテーブルに並べて。
皆さんとは、また次の機会に。



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