自分を貫いたがためにヒットチャートから消えていった歌手、デイヴィッド・ボールの新譜を聴いていたときのことだ。
「いしがき、服買いに来て!」金融公庫から350万円を借入れ、古着屋を開業した友人からの電話だった。こういう人物が身近にいると非常に嬉しくなる。こちらも20万弱の借金を抱える身なので、自分以外にもまだ捨て身の人生を歩んでいる奴がいたのか、と浮かれてしまうのである。ジャイアント馬場さんが逝去されたときの追悼セレモニーで、二千人のプロレスファンが涙を浮かべている最中、満面の笑みで「元気ですかーぁっ?!」と雄叫んだアントニオ猪木先生の明るさにはかなわぬまでも、リスクを背負って生活している友達がいると正直「ああ、オレもまだまだ大丈夫だな」とうなずいてしまう。
なにせわたしが「サラ金からの借金は返したのか?」と友人に訪ねると彼はこうのたまってくれた。
「一時期100万もあったのに、昼も夜も稼いで、全部返したよ。頑張ったわオレ――」ご機嫌な声だ。
「うおーっ、じゃあ借金あんのオレだけかや?」焦るわたし。
「いしがき幾ら残っての?」おもしろがる友人。
「じゅうきゅうぐらい・・・・・・」正直に答えるわたし。
「はあ?そんなの借金じゃねえって、おれもまだ15万のこってるって――」天才児爆発。
「がはははははっ。馬鹿かおめえ。じゃあ借金まだのこってんだべや!」とグレート・サスケなわたし。
「すぐ返せるよ15万なら、関係ねって!」居直る彼。
「頑張ってくれよ」励ます。
「おお、頑張るよ」応える。
三浦シ◯ジ君、あなたにはかないません。空地で自分達でボヤをおこしておきながら、それを消したら消防署から表彰状が届いた彼。中国式マッサージ店(風俗)で財布をパクられた彼。危ないから気をつけろと言った目の前で、チャリンコから滑り落ち、雪道を背中で数メートル走っていった彼。泥酔の女の子とヤッていたら、その娘の彼氏が訪ねてきて、あせってビルの谷間を死に物狂いでスパイダーマンした彼。怖い話に怯えていた深夜、突然の電話ベルに大声で「ダレヤーッ?、イマゴローッ!」と反応し、「お前の声が一番怖い」と怒られてた彼。逸話は尽きることがない。
アトミック海口のレポートによると、人気のない店内のレジで黙々とポテトチップを頬張っていた彼が、感情のない顔で「滅茶苦茶忙しいわ〜」と言っていたのが印象的だったとか。
「ぶっちゃけたはなしどうなの?」わたしがエサを撒くと、シンジ虫はすぐに食いついてきた。(それが我々のルールだからだ)
「賃貸料とか生活費とか諸々ぜーんぶ差っ引いて、七〇〇円!」
「七〇〇円?」わたしは聞いた。「クロ(黒字)?」
「うん、クロ(儲け)」電話の向こうで彼がちょっこっとはにかんで見せたのがわかった。
頑張りたまえシ◯ジ青年。大志を抱け。そのうちマックポテトかケンチキかミスドの手土産持ってお邪魔するよ。踏ん張ってくれたまえ。そしてオルタナティヴな道を進もうじゃないか!おれ達のやり方でもう一度歴史をつくろうじゃないか!