らじおの日々 第6回 〜特効薬。その名はジョージ・ストレイト〜

(初出:第56号 01.11.21)

こどもたちは泣いていた。 連結器をきしませて。
それでもあとをついてゆく。 紅いボディの背をおって。
黄昏空をかたにのせ、 つよい母が動きだす。
その名は”ED75”。 寡黙で勤勉な労働婦。 
ゆっくりゆっくり。ただ北へと歩みゆく。
こどもたちよ、まっすぐゆけ。 決してレールを外れるな。
カウボーイは荒くれ者。 おまえの英雄なんかじゃないさ。

オレンジの灯りに照らされた整備員が小旗をかかげていた。死者を弔う牧師のように慈悲深気だった。カントリーミュージックは夕闇が似合う。電車の汽笛が忘れかけた過去の痛みを呼び戻す。きまって薄ぼんやりした月の灯りだ。瞬時に現実のなかに埋もれていくしかない。嘆きもため息もない、ちょっとした希望のひかり。けれどもそれは夜のベッドの空虚までを癒してくれるわけではないのだ。だからわたしたちはカントリーミュージックを聴くのではないか?
薄汚れた世界の清涼剤も、もはや効き目は薄い。ことごとく薄っぺらな、時代の合わせ鏡。歌は時代を写す。ありきたりな感情の投げ売りでは、もはやわたしの病気を回復させてはくれない。たんなる麻酔にすぎない懐メロもしかりだ。積み重なったプラスチックケースはまるで週ごとの求人誌である。
戯言(ざれごと)と装飾語。つかいまわしの決めぜりふ。仕事で演るミュージシャン。他人の曲をうたう、歌うたい。イメージを創るレコード会社。コマーシャル盤をかけたがるラジオ局。群がるはしゃぎたがりの若者達。スモークにレーザー光線。余計でおせっかいなバンド。頭痛の種でしかない大音響で歌詞が聞きとれない。
ジョージ・ストレイト。カントリー界の貴公子。本物の男。なんたるかを知っている男。女が惚れる男。男も惚れる男。自分とファンに対して誠実、忠誠な歌うたい。頑なだが意味のある、知識と経験をいかせるほんもののカウボーイ。ジョージ・ストレイト。かれの優しい眼差しが、苦悶に満ちたあなたの表情をやわらかく解きほぐしてくれるであろう。



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