限りなく夜に近い夕方の、つよい西日を逆光にして、男の顔色はこちらからは拝めない。室内だが☆マークの野球帽を被っていた。
(以下、ノイズまじりのテープ録音で)
二十七歳。男子。独身。貯金なし。借金十五万円也。配送業務に従事。普通運転免許、簿記、情報処理にモロモロ、まあ人並みに。最近フォークリフト免許を取得したのが自慢になるか。逃げて一年だけ公務員をめざして専門学校へいったがあれは無駄。まあ高卒(商業高校)ということだが支障はないな。趣味はカントリー・ミュージック(聴くだけ)、ウエイトトレーニング、ランニング、ソフトボールはオフシーズン中、サッカーは引退した。読書と映画が少々。それとベガルタ仙台(サッカーJ2リーグ)の応援には案外と夢中になってる。思い入れが強いのはDFのリカルド選手。かれはエレガントだ。それから地元のお笑い集団「ティーライズ」というのもお気に入りで、トーマス社長がダントツに好き――ただのはだかの王様だが。特技は少数派に属することか。少数派に属するのがすきだっ!(やれやれといった感じで鼻から息をはく)ふう〜む。そうだ車は持っていない。週末はパパの車を失敬しておるですよ。通勤は自転車ね。MTBだけど「オフロードは走らないで下さい」と注意書きのしてあるアレですよ。あとはと、え〜とぉ(天井を見上げながら)そうね、地元のコミュニティFMラジオ局、「ラジオ3」に時折出入りしてるっていうのが、普通の人とちがうかな――まあ人と違うという点で言えばいくらでも、自殺したくなるようなネタをずいぶんと抱えているけどな。
(以上)
肌寒い初秋の広瀬川。午後6時55分。「澱橋〜牛越橋」間の片道一・二キロのジョギングコースを3往復した。所要時間は35分か40分程度だろうか。当初は東北大学川内キャンパス内にある野球場の芝生をふみこむ予定でいたのだが、野球部諸君は黄色いランプの照明塔を設置したらしく、最後のミーティングの最中といったところだった。
わたしはスローペースを心がけた。秋のはやい訪れ――"Chill Of An Early
Fall"――猛スピードで風がはこんでくる速達便は、向かい風にもかかわらず走りのピッチをあげさせた。わたしは再度スローペースを意識する。すれ違うのは学生三名からなるグループ。ウインドブレイカーに身を包んだお父さんが二人。老兵&おばちゃんウォーカーが各一人づつ。あとは犬の散歩が複数。土手下の暗闇では中学生カップルがせっせと勤しんでいるご様子だが。(二人の先輩としては嘆かわしい限りである)いずれも気にはならない。わたしは無理にペースを控えることなく走りつづけた。
この季節、ウェアにはポップ・オレンジ色のPatagonia製品(ベロシティO2)を選んだ。生地が特殊な加工を施されているのだろう、脇を擦る「シュッシュッ」という音がほとんどしない。エア・コンディショニングは体の内外を調節しており、冷風を妨げ、熱い湯気がこもるということもまずない。いたって快適であった。雪が降りだすころにも十分活躍してくれるだろう。パタゴニアを愛する。わたしの選択肢にミズノはない。わたしは形から入るタイプだからだ。
この秋、わたしは走りを楽しんでいる。季節の移り変わりを肌で感じ、アスリートぶって「やらなければ」という義務的なランからの脱却をはかる。ペースはなるべくあげず、地面にせっする片脚にうまく体重がのることに集中し、かつて阿部二郎(仙台出身の文学者)(編注)が嗅いだであろう草の匂いを愉しむ。あるいは身に付けたウェアやシューズというギア類の性能チェックも忘れずに。
チャールズ・ブコウスキーいわく「愉しむことだ!」