メディアミックスと言えばご存知の通り、一つの作品を映像、小説、漫画、グッズetc...と多ジャンルで展開して相乗効果を狙う、ビジネススタイルでありますが。先日原作者側からの意見を読みまして。なるほどと思ったり、んん?と感じてしまったり。
曰く昨今のメディアミックス、特にアニメ化に関して言えば、サイクルが極めて早くなり過ぎて一つの作品を大事に育てる展開では無くなっている。ほとんど1クール(3ヶ月)で終了となっており、そうなると雰囲気的に、原作の方もピークは過ぎた、もういいんじゃない?となってしまい、結果作品の寿命を縮めてしまう逆効果を産んでいる、と。
またどうしても作り手が違う(原作に対して別の人間が関わる)ので、アニメ作品と原作の比較をされてしまう。前者が秀逸となればやっぱり、アニメ放映終了と同時に人気は尻すぼみ。後者が良いと言われても結局アニメ化されない方が良かったとなって、新たな読者の獲得に至らず、あまり効果が期待出来ない、と。
この論調にはかなり当事者の経験が絡んでおるようで、そうなると失礼ながら全ての作品には当てはまらない、一般論とは言えないと思わざるを得ません。そもそも現在のマーケットは細分化が進んでおり、各ジャンル共通してなかなか幅広い、息の長い人気を獲得することが難しい状況にあります。
単純にテレビを見ても、BSが増えてチャンネル数が倍。深夜枠は長引く不況でバラエティ不振。片やアニメはCGの進化で量産可能な体制とあれば、コンテンツ不足から完全なる売り手市場であります。しかし視聴者が増えているわけでは無いので、選択肢が増えてしまうだけですからほとんどの場合、結果的には「はい、次」となるのは必然かと。
個人的に原作とアニメ化の両方を把握している4コマ作品に関しても、テレビシリーズが好評で何期も放映されつつ、原作も絶好調な作品があり、アニメはあっさり終了したものの、原作は未だ第一線の看板作というのもあり、アニメは大きな展開を見せているのに、原作は円満に(?)終了してしまった作品もあり..。つまりは作品そのものの実力がその後にも現れているようでして、これは今も昔も変わりありません。
ただメディアミックスが社運を賭けた一大プロジェクトから脱却した辺りから、確かに原作者がその作品に掛けた意気込みというのが見えづらくなっているきらいはあると思われます。多ジャンルに展開するというのはイコール、一作品に多くの人々の手が加わるということになりますから、今のように乱発傾向になれば必然、丁寧なすり合わせや作り込みが出来なくなってしまう。
原作の台詞や展開をそのままトレースするだけであっても、何故全く別物のような出来に仕上がってしまうのか。そこには演出の問題が関わってくるのです。
演出とは一体何なのか。いまいちピンと来ない方が多いかと思われます。私も、書く側になるまではその作業がどういうことを言うのか正直理解出来ていませんでした。
そこで、今回丁度良く私の書いた作品が映像化されましたのでそれを例に挙げて実感してもらおうと思います。皆さまには、原作から読んでもらってシナリオを読んでもらい、映像を見るという流れを追っていただきます。つまり一律、原作から入った立場となります。
私はまず、用意された原案(プロット)を元に、それを自分なりの展開、キャラクター、設定で原作「鬼退治師 仮稿」を作りました。これはすでにシナリオの形をしておりますが、映像化される前の、言わばオリジナル作品であります。(今回の場合は実は原案ではなく原作が元々あり、オリジナルと本当は言えませんが。)
「鬼退治師 仮稿」を読む
次にそれを読んだ制作者側から、スケジュール的なNGや実際に映像化するにあたって困難な部分などの修正を依頼され、撮影の際に使われるシナリオ「鬼退治師 決定稿」が完成します。この台本を手に、撮影されるわけです。
「鬼退治師 決定稿」を読む
この時点ですでに、原作を読まれて感じたものと別の印象を、抱かれると思います。原作者の意図とは少々食い違う、制作者の思惑が混ざっているからです。しかしまだ、これは私の手で監修されたものですので、全体の雰囲気は変わっていないはずです。(リライトを重ねて決定稿は第6稿です。前述通り制作者の方の手も加わっておりますので共作となっております。)
そしてそれが映像化され、年明けて公開となりました。
http://www.watchme.tv/v2/?mid=0f52d1e5d4f584b75ee7d27095613256
ここへきて、おそらく皆さまは様々な思いを抱かれるでしょう。文字で見て、想像していた画と、全く違っていますね。そして台詞の間やアクセントも違うでしょう。文章と映像は、情報量が全く違います。その差を埋める部分を決定するのが、演出の仕事なのです。
台詞の言い方一つ、演者の動き一つetc...で、まるで違う作品が出来上がってしまう。これが、言ってしまえば現状のメディアミックスの実例です。勿論演出まで原作者が担当すれば、テイストが変わることはないでしょうが、残念ながらそれはいつの時代でも難しい話です。やっているマルチなクリエイターも存在しますけど。近いことをやろうとするなら、やはりじっくりと打ち合わせを重ね、お互いの思惑を共通のものにしていくしかありません。しかし時が、それを許してくれない。
アニメを観て原作を、原作を読んで漫画を、比較する際にはまず、演出の違いは必ず存在するということを前提にして言及してもらいたいと、クリエイターの端くれから申しておきます。また原作者としても、他メディアへの進出はオリジナルとは別物になるという覚悟を最初からして欲しいと思います。そうすれば少なくとも、メディアミックスが原作の進行に悪影響を及ぼすという嘆きは出て来ないはずです。
決して現在のメディアミックス全盛の状態は悪しき方向へ進んでいるわけではありません。不変的に「優秀な」クリエイターの生み出した作品はやっぱり良い、のでありマス。「面白い」と言われる作品を、作りたいものです..。