『鬼退治師』 決定稿         萩原晃一・おびひろし

(登場人物)
哲也・・・・・・28歳。先祖代々の鬼退治師。職務に真摯すぎて、一般人を軽視しがちなプロ。
ケイ・・・・・・23歳。新人モデル。元哲也の相棒。鬼退治師。軽い性格から、本業をおろそかにし兼業に走る。

冴子・・・・・・30歳代。雑誌の編集長。才気あふれるやり手?
彩香・・・・・・10代。売り出し中のグラビアアイドル。ノリの良い性格。
ナツキ・・・・・・20歳代。ファッションモデル。ツンツン系。

秋元・・・・・・カメラマン。なんかちょっとインチキくさい風貌。
助手・・・・・・タオル鉢巻に軍手の、いかにもパシリって感じ。

鬼 ・・・・・・
          ほか

1 郊外の自然公園

     緑の多い、自然のある公園。
      ナツキをモデルに撮影をしている。
      カメラを巧みに操る秋元

秋元「良いねぇ。今度はちょっと視線外してみて。・・・・・・いい良いよ。・・・・・・はいOK!」

       と、撮影が一段落する。

秋元「これでナツキちゃんの分は終わりかな、編集長。」

       脇から撮影の様子を見ていた冴子。
       日傘を差して立っている冴子はバッチリ日焼け対策仕様。

冴子「そうね・・・(資料を見ながら)うん、オッケーです。それじゃ一休みしてから、次、綾香ちゃんの方、お願いしますね。」
秋元「了解!」

       と、片づけを始める秋元と助手。

冴子「ナツキちゃん、ご苦労さま。」
ナツキ「・・・はぁい。」

         先程まではじける笑顔だったのがたちまちふくれっ面に。無愛想な返事。

ナツキ「もう、何だってこんな辺ぴな所でロケしなくちゃならないのよ・・・!」

         と、脇で荷物番をしている彩香とケイの元へ行くナツキ。

彩香「ナツキさんお疲れ様でしたあ。」

       答えずにツンとしながらベンチに腰掛けるナツキ。
       と、ケイがナツキにドリンクを渡す。

ケイ「お疲れ様でした。」

       ナツキ、またも返事はしないものの、ドリンクを受け取り、飲む。

彩香「あ、ケイくぅん。私にもドリンクちょーだーい。」
ケイ「え、持ってるじゃないですか」
彩香「だってもう飲んじゃったもん。買ってきてくれるう?」
ケイ「まぁ、いいですけど・・・」

       と、冴子がやってくる。

冴子「あ、ケイちゃん、ついでで悪いんだけど、皆の分買ってきてくれるかなあ?休憩入りまーす。休憩明けたら彩香ちゃんの番よ。」
彩香「あーい。」
冴子「レシート、後で回してくれれば良いから。じゃ、よろしくね」
ケイ「わっかりました。」

       ケイ、軽く手を振ると歩道を駆け出していく。
       と、秋元が冴子のところへ。

秋元「編集長、ちょっとこの先の雰囲気見てきますわ。」
冴子「はい、どうぞ。」
秋元「じゃぁ、すぐ戻りますんで。(助手を呼ぶ)おい、行くぞ。」

       と、秋元と助手が公園の奥の方へ歩いていく。


2 奥地
    
     周囲に木々の茂る小さい広場。
     カメラマン秋元がウロウロと動き回り、アングルを計っている。
     後ろに付いて回る助手。
     秋元が足でゴミを払う。
      と、そのごみを拾う秋元。

秋元「何だこりゃ?さっきのとこにもこんなのあったよな?」
助手「ああ、はい。」
秋元「この辺昔は神社でもあったのかねえ・・・」

     と、それを放り投げる。

秋元「しっかしスタジオ代ケチってこんな所でロケだなんて、どんだけ予算がないんかなあ、今回の雑誌は!」
助手「本とですね。」
秋元「可愛けりゃ、背景なんか関係無いってか。」
助手「そんなとこでしょうね。 でもでも、今回の子たちは冴子さんのイチオシぞろいですから、どうしたって売れますよ!」
秋元「・・・まぁ、雑誌が売れてもこっちに入ってくるのは変わらないけどさあ・・・」

     と、雰囲気の良い場所にたどり着く。

秋元「お!おい、この辺、いい感じじゃないか。」 
助手「いい・・・ですねえ!」
秋元「よし、じゃぁここにするか。ちょっとみんな呼んできてくれ。」
助手「はい。」

     と、急に足元が揺れ出す。
     あっという間に激しい地震のように。

助手「うわっ!地震!?」
秋元「うわッ!うわー!!」
 
     と、秋元が何かに気付いた瞬間、画面がブラックアウトに。

3 公園のベンチ 
 
     ベンチで、冴子、彩香、ナツキがおしゃべりをしている。

彩香「それにしてもケイくんおっそいなー。ジュース買うのにどんだけかかってんの?」

      と、秋元と助手が血相を変えて戻ってくる。

冴子「あら、秋元さんの方が先に帰ってきちゃったわ。」

      と、何やら人影が現れる。

彩香「やっ!あ、あの人なに?」

      木陰から、現れた人影の姿が見えてくる。 
      それはなんと鬼だ。
      秋元が、鬼に襲われる。

秋元「た、助けてくれえ!!」

      と、別の鬼が現れ、秋元の助手を襲う。

助手「みんな、早く逃げて! うわーッ!」

       鬼に掴まれ、逃げようともがく。

彩香「ちょ、ちょっと何なの?かなりヤバイんじゃない?」
ナツキ「冴子さん! 警察呼んだほうがいいですよ!」
冴子「そ、そうね・・・」

       と、携帯電話を出そうとモゾモゾする。
      だが、また別の鬼が現れ、徐々に近づいてくる。

彩香「まだいた!こっち来るって!」
冴子「ひとまず逃げましょう! 誰か呼んで来ないと!」
彩香「は、はい!」
ナツキ「(舌打ち)」

      慌てて逃げ出す3人。
      ゆっくり、やがて走って追いかけ出す鬼。

4 公園の入口あたり

       買物を終え、袋を提げながら公園の前までくるケイ。

ケイ「ったく、人使い荒いよなあ。単なる見学だってのにパシらされんだもんなあ・・・」

      ぐちをこぼしながら入り口を通る。
      その瞬間、ケイの血が何かを伝える。
      公園にはすでに、遁甲陣が敷かれている(迷宮化されている)。
      このままでは目的地に(出入り口にも)たどり着けない。

ケイ「これは・・・!」

      ケイは咄嗟に両手を忍者のように組むと、呪文を唱える。

ケイ「謹んで玉女香官使者に請う。我これより奇門遁甲の内に入る。公の導きにより災厄悉く逃れん。開通道路章!」
ケイ(音読)「つつしんでぎょくじょこうかんししゃにこう。われこれよりきもんとんこうのうちにいる。きみのみちびきによりさいやくことごとくのがれん。かいつうどうろしょう!」

      そして足は、千鳥を踏むような足取りに変える。(兎歩)
      これで遁甲陣のワナからケイは抜け出している。

ケイ「なんでこんなところに? 何かあった?」

      入り口を抜けたところで一言つぶやくと、走り出す。

5 公園の中

     歩道を走るケイの前に一人の男が立ち塞がる。
      シュッとした服装のケイに対し、黒づくめで異様な格好の男。

哲也「まさかお前がいるとはな、ケイ。」
ケイ「てっちゃん、やっぱり来てたんだ! 遁甲陣敷いてたろ? もしかしたらと思ってたんだけど・・・」
哲也「この奥の結界が破れた知らせが入った。封印も解かれたようだ・・・」
ケイ「やばい! それじゃ鬼が・・・。てっちゃん、話は後だ、僕はみんなを・・・」

      通り過ぎようとするケイを、物凄い力で引っ張る哲也。

哲也「人など放っておけ! お前には他にやる仕事があるはずだ。やらねばならない仕事がな。」
ケイ「それは後でやるさ! みんなを巻き込む訳には行かないだろ! そうだ! 遁甲陣を解いてくれよ!そうすれば僕がいかなくても・・・」
哲也「出来るわけないだろ。多少の犠牲はこの際、仕方ないと思え。」
ケイ「見殺しにしろっての!? そういう考え方だよ、僕が嫌になってモデルやってんのは! 人間ってのは助け合いだろう!」
哲也「我ら鬼退治師の使命は人類を鬼の手から守ることにある! 一人を守って大勢を巻き込むことこそ愚の骨頂!」
ケイ「だからそこは上手いことやるんじゃないか。 仲間を助けつつ、鬼も退治するって。」
哲也「そんなことは真剣に務めてから言えることだ!」
ケイ「年に一度もないような仕事は仕事って言わないんだよ! 僕みたいにこうやって買い出しさせられたりってのが・・・」

      女性の悲鳴。

哲也「掛かったようだ。」
ケイ「掛かった?」
哲也「遁甲陣に改良を加えたんだ。一箇所に導かれるようになっている。鬼が誘い込まれたらしい。」
ケイ「ちょっと待ってよ! それじゃみんなも・・・人間も同じところに集まるって事じゃないか!」
哲也「今の悲鳴だと、そうなるな。」
ケイ「大変だ!」

      慌てて走り出すケイ。
      ゆっくりと追いかける哲也。

6 林道

     ヒールで速度の上がらない冴子、ヨロヨロと半分歩いている。

冴子「ちょっと、みんな早すぎよ・・・置いてかないでよ・・・」

     後ろを恐る恐る振り返ると、人影は見当たらない。
      木陰に入ってようやく一息付く。

冴子「何だったのかしらさっきの? お面被った変質者? それにしても、全身まで真っ黒なんて・・・」

7 公園の奥

      秋元と助手が、気を失って倒れている。
       哲也とケイがやってくる。
       ケイ、二人の様子を見る。

ケイ「気を失ってるだけか。良かった!」
哲也「悲鳴は女の声だったからな。ふん、奴ら女好きか、見た目で言えばエロ親父ってとこだな。」
ケイ「ふざけている場合じゃないよ! てっちゃん、急いで!」
哲也「焦るな!この近くにきっと居る!」

       と、ケイと哲也、駆け出す。
  
8 林の中

      立ち止まる、ナツキと彩香。
       鬼たちに囲まれている。
      すでに怯えきった彩香は天を仰いで祈り始める。

彩香「これは夢です!これは夢です!お願い、早く目が覚めて私ー!!」
ナツキ「どうせ変態でしょ!ふざけた格好して!分かってんだからね!警察呼ぶわよ!」

       と、鬼に喧嘩を売るナツキ。
       鬼、ナツキめがけて突進。
       さすがに怯むナツキ。
       と、疾風のように現れた哲也、鬼の腕をつかみ、ナツキから遠のける。

哲也「お前たちの相手はこの俺だ!女を相手にすんのは千年早えんだよ!」

       と、鬼を相手に戦う。

彩香「わっ誰!」

       いつの間にか彩香の隣にケイがいる。

ケイ「大丈夫ですか!」
彩香「ケイくん!?もうドッキリとかやなんだから!なんか戦ってるし、誰なのあれ?」
ケイ「その辺は後にして、とにかくここから離れないと!・・・二人とも、僕に付いてきてください!」
彩香「(頷く)」
ナツキ「(舌打ち)」

       ケイを先頭に走り出す3人。

哲也「おい!俺だけでやれってか!?くそっ!」

      哲也は懐から「口可(あうんの「あ」)」字の書かれた紙を取り出し、地面に叩きつける。するとムクムクと人が現れる(式神)。

哲也「取り押さえろ!やれるだけやれ!」

      式神はコックリ頷くと、素手で鬼の一体に向かっていく。


9 木陰

      鬼の視界から消えた場所。
       ふと立ち止まるケイ。

ケイ「(独白)ここまでくれば安心かな?」
彩香「どうしたの、急に止まって。」
ケイ「うん。・・・二人とも、ちょっと僕の方を見てくれる?」

      と、ケイが腕を下げたまま密かに手を組み、おもむろに術をかける。

ケイ「掩利牛掩利牛 利牛掩牛利 掩掩利牛牛」(本来は全て口偏)
ケイ(音読)「オンリウンオンリウン リウンオンウンリ オンオンリウンウン」
ケイ「シュッ・・・」(相手に向かって優しく息を吹きかける感じで良い)

      ナツキ、彩香、気を失いその場に倒れる。
     その後で、それぞれの頭に護符をかざし、記憶を消し去る。
     *護符をおさめる何か(袋?ケース?)から取り出して下さい。

ケイ「元始符命救苦真符」
ケイ(音読)「げんしふめいきゅうくしんぷ」
ケイ「ごめんね。でもこれで、怖い記憶は消えたから・・・」

      とケイ、鬼達の居る方向に振り向く。

ケイ「さてと、んじゃ改めて行きますか!」

      と、ケイ駆け出す。

10 広場

     哲也と式神が鬼達と戦っている。
      式神は善戦するも逆に相手に押さえ込まれ、噛み付かれると再び「口可」の紙に戻ってしまう。
      再び3匹相手に立ち回る哲也、苦戦している。
       哲也は仕込み剣を伸ばすと、鬼に向かっていく。
      と、ピンチになる哲也。
       そこへ、ケイが駆け付ける!
      哲也が押しつぶされそうなところを、ケイが振り払う。

ケイ「はいお待たせー、やれやれ、やーっぱり僕がいないとダメなんだよね!」
哲也「けっきょく人助けが先か!さすがに遊び疲れたぞ!早く支度しろ!」
ケイ「分かってるって!」

       すぐにまた、鬼に囲まれる。
       ケイは丁寧に手順を踏んで、縛の呪を唱え出す。必殺技の如く、ケイを大写しで。ケースから護符を取り出す。

ケイ「謹んで産土神(うぶすながみ)に請う。万物は土より生じ土に帰る。五行の式に従いて彼の者らを土に留め置く。急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!」

       同時に奇妙な動作をして護符に念を込めると、「臨兵闘者皆陣列在前」と気合を入れる。一語ずつ縦4本、横5本に指を切っていく(九字)。
       「縛!(ばく)」と叫び護符を鬼たちに向けると、一斉に身動きが取れなくなる。
       哲也はようやく、囲みを抜け出す。

哲也「さあて、仕上げだ!」

       哲也は剣を前にかざすと、「臨!」「闘!」「者!」と叫びつつ、構えを作る。すると剣が青白い光を放ち出す。

哲也「雷公雷母(らいこう・らいぼ)よ刀身(とうみ)に集え!我をして百邪(ひゃくじゃ)を斬断(ざんだん)せん!」

       気合を入れる哲也。

哲也「ハアーッ!!」

       哲也、剣を一閃。
       晴天なのに鬼たちに雷が落ちた・・・と思うと、鬼たちの姿は消え、3体の木の人形に。
       戦いが終わる。

哲也「よし!」
ケイ「終わった。」

11 大団円

      人形を拾い上げる哲也。

ケイ「あーやれやれ、久々で疲れたあ。」
哲也「日頃の精進が無いから疲れるんだ・・・と、言いたいところだが・・・。今日のところは正直助かった。まさか3体も封じられていたとは・・・」
ケイ「へへ、やっぱり、僕がいないと駄目って事だね。こういうのがあると、どうしてもモデルを本業には出来ないなあ。」
哲也「俺たちはコンビで最強なんだ、今後も頼むぜ相棒。」

       と、その場を去ろうと歩き出す。

ケイ「あれ、もう行っちゃうの?」
哲也「後は任せた。」

      と、行こうとする哲也。
      そこへ、木陰からトボトボと歩いてくる冴子。

ケイ「編集長!・・・もしかして、見てました?」
冴子「・・・ええ、全部・・・」
ケイ「あちゃー・・・てっちゃん!」
哲也「(小声で)さっさと記憶を消せ!」
ケイ「それが・・・さっきので護符全部使っちゃった・・・」
冴子「ねぇ、ケイちゃん。この方、どなた?」
ケイ「ああいや、知り合いで・・・」
冴子「それで、あの変なのって・・・」
ケイ「(諦めて)はい…、鬼です。」
冴子「鬼ってまさか・・・」
哲也「…鬼という存在は一般人にとっては居るはずの無い物ですが…、平安時代より代々伝わる、我々は鬼退治師。政府公認ですので、決して怪しい者ではありません。どうか怖がらず。」
冴子「え! じゃあそれをウリにしてもいいって事!?」
ケイ「え?」
哲也「はあ?」
冴子「だってスゴイじゃない! 二人とも格好いいし、鬼まで退治出来ちゃうんでしょ!?これは絶対ウケるわ!あなたたち、ユニットでデビューしない?」
ケイ「いや、それは・・・」
哲也「冗談じゃない! あくまで極秘事項・・・、国家機密に関係してますから守秘義務もありますよ!」
冴子「でもでも、それは抜きにしてもあなたたち息ピッタリじゃない! そうだ、モデルより歌でも歌った方がイケるわよ!プロダクション紹介しよっか?」
ケイ「そりゃ俺はいいですけど・・・」
哲也「断る! う、歌を人前で歌うなんて・・・断固お断りだ!」

      と、哲也、逃げるように立ち去る。

ケイ「あ、おい!護符持ってきてくれよー!」

    哲也は振り返らず手だけ振って了解の合図。
    (遁甲陣が効いているので、いずれこの公園で鬼と関わった全員がここに集まるので、哲也は帰ったのではなく護符を取りに戻っているのである)

冴子「せっかくのイケ面が勿体無いわぁ。」
ケイ「結構年いってますよ。それより、編集長。みんなの事、忘れてません?」 
冴子「あら!」

      と、ケイと冴子が、ナツキと彩香の元へ行く。
  
おしまい

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