『毎度、荻原です。前回は少々興に乗りすぎて長くなってしまいまして。 今回からは予定通りのシナリオですすめていきたいと。そういうことでさっそく本題に入りましょう。今回で第12話〜第31話までをまとめます。 まずは〜第21話までを。
涼と美也の同せい生活と、夜梨子の高校生活の2つの話題が軸になって、ここからしばらくの間展開していきます。当然涼の出番が増える訳でして、相変わらずの立ち回りの上手さに関心してしまいます。とはいえ初めの頃のような出来すぎた人物像ではなく、 肩の力が抜けたというか、特有の物分りの良さ=優しさに自覚症状がみられると (注1)。 作られたセリフから遠ざかり、感情に則した会話が随所に表れます。逆にかわいくさえ見えるのもこの辺りです。(注2)
(注1)…第20話「近頃の涼はジジムサイ」という投書有とのこと。 見え方としては、その通りかも。
(注2)…上の印象とは正反対の見方ですけど、第13話等でみられる突っ込まれた
時のリアクションはむしろ子供っぽさが残っています。その差にまだ違和感が残り、
涼のキャラクターの完成はもう少し先であると私は考えています。
対して美也ですが、少女と大人の女との境界線上に立っている感じで、涼との会話にも 漫才のようなやりとりと、ある種哲学的な指導の2通りが見られます。 この2通りとは、前者がまりをとの会話、後者が夜梨子との会話とリンクしております。つまり、美也が涼を、「美也」という全存在を受け入れてくれる「存在」として 認めていることがわかります。 ただ、だからといって「この人」と盲目的にならないところが「らしい」ところでして、マイペースは崩してません。 (注3)
(注3)…画風のことになるのですが、この辺りが「第二期」と呼べる特徴 を持つ絵で描かれております(個人的主観に基づく。詳細は後日)。私はこの頃の 美也さんが一番すきです。
続いて夜梨子です。高校生になったとはいえ、まだまだ元気一杯であります。理性より 本能が優先している様子。 BFとしての涼の態度に一喜一憂する様は、そのまま夜梨子の成長につながっていると見ることが出来ます(注4) 。
(注4)…第16話図書館での会話シーンにてうかがえると。ちなみに以降の図書館 のシーンでは大沢とのエピソードが多い。頭の差が出たか?
さてここまでで特筆すべきは涼と美也の展開です。先生の全作品に対する一貫した
姿勢が窺える第12話をみていきましょう。(注5)
この話で美也、涼、まりをの3者の心中は、まさに他の作品にも共通した恋愛観
、恋人を見つめるまなざしであります。特に涼の「燃えるような恋をするタイプじゃない」
というセリフは、象徴的ですね。 それは決して冷めている恋愛観という訳ではなく、個人としてはすでに完成の域に達しているということ。
その上でパートナーとしての異性を求めている状態。従って盲目的ではなく、
余裕をもってその候補と接することが出来る訳です。先生の作品にまず「かっこいい、
憧れる」といった印象を持つことが多いのは、キャラクターが現実の年齢より高い
ステイタスに設定されているから。そして各作品の根底にこのようなスマートな
恋愛観があるからと考えられます。かといって相手に何の期待も抱かないという訳ではなく、
結婚には近づかないとはいえ、確実に涼と美也の共同生活には変化がみられます(注6)。
ここから先しばらくの間は涼と美也の話が主体となっているとまとめることが出来ると思います。
(注5)…先生の描く作品が、今のところ全て恋愛物語であることは前に話した通り。
(注6)…よそよそしい訳でもなく、といって劇的な出来事もおこらないある種理想的な
同せい生活のエピソードは、これからしばらくの間各話で語られていきます。
時として美也が客観的に眺められているところが特徴的です。
さてさて次に〜第31話までをまとめます。
第21話で美百合が登場します。前半の主要キャラクターがほぼ全員登場したことになります。ちょっとですが、まとめてみましょう。 夜梨子のクラスメート初登場は、第0話の優です。以降マコ 、たのこ、安西の順に出てきます。夜梨子の親友役としては移り変わりがあって、 優、マコ、美百合、たのこの順です。それぞれが違った性格で夜梨子の良き相方になっております。 BFとしてはやはり大沢。友人であり、たのこの恋人でもある松井は第29話の登場 。この3人はこれから重要なキャラクターです。 美也に関する人物はまりをの恋人、千尋。なれそめはディスコでの逆ナンパだとか。波乱の人生を送るまりを共々、未だ謎多き存在です。涼の関係では、大学時代の友人が徐々に出てこなくなる代わりに、上司の佐々木、そして桜沢由実が登場します。 桜沢さんが思った程活躍しないのは残念。
閑話休題。涼と美也ですが、今度は逆に第31話まで、特に変わった展開はありません。 いい意味で安定期を迎えています。(注7)
(注7)…しかしながら第27話における美也の心中には未だ結婚に対する拒絶が みられます。完全に美也の主観で語られる、この頃の他のエピソードをみる限りでは 、かなりいい雰囲気になっているのですが。
対して夜梨子の方には大きな変化が2つ、涼との3度目の大ゲンカ(?)と大沢との 展開であります。 第22話ホテルの一件、第23話図書館での一件と、対象人物の異なる2つの話は、 夜梨子の微妙な女心を示す好例です。BFとしての大沢が、ここにきて急にクローズ・アップされました。以前にあった伏線を踏まえて、改めて舞台に上がってきます(注8)。 とはいえ夜梨子の見た目は相変わらずの涼一辺倒で変わりません。涼を超える存在 になるのは、まだまだ先のようです。 それでも大沢の登場により、涼に対して夜梨子が求めるものに変化があらわれた事は 窺えます。分かり易いのが第26、27話。周期的な大ゲンカですが、今までと 違う理由、涼の行動に対しての怒り(注9)。つまりは初めて涼に自分を「愛している」のかを積極的に求めた行動に出たと。 で、その解決も、涼が直接出て来ない、たった一本の電話によるものでした。その 時の夜梨子の涙は、自分が涼に「愛されること」を望み、そして確かに「愛されている」ことを改めて悟った、少々複雑な心境を象徴しているのではないでしょうか。(注10)。 何故複雑なのかと言いますと、夜梨子が涼に「愛されること」を求め続けていくと、 そこに美也という大きな壁が立ちふさがるのは必至であると。 涼としても最後には二者択一を迫られるのは容易に予測出来ることです。 ここが物語の大きな転換点であると考えられまして、大沢の方へと夜梨子が移り変わる 可能性が示された訳です。
(注8)…再び第16話、図書館での会話シーン。夜梨子の方から好きなのは涼だけであると。大沢を始め他のBFたちは、涼と付き合う為の踏み台でしかない。
何なかきついたとえであります。 ところが第21話で、大沢によって夜梨子は「愛されること」の存在を確認することに
なります。当然大沢を、そして涼を見つめる目に変化があらわれる訳でして、重要な
シーンと考えられます。
(注9)…過去2度の理由は、いずれも夜梨子が自分の行動を否定されること。
マニキュアの件(第6話)、パーティーの件(第17話)。
(注10)…根拠としては次の第28話に「愛しているよ」「知ってるよぉそんなこと」
という会話が交わされていることが挙げられます。
ここまでをまとめてみると、第25話まで、主人公としての夜梨子は恋愛物語の主役 としての役割を持たされておりません。夜梨子の目はすなわち読者の目であり、 理想の恋人像に憧れ、それに導かれているのみでありました。 そして第26話、第27話によって初めて夜梨子はその資格を持つことが出来ました。 しかしながら、物語はここへ来て一旦スローダウンします。涼と美也、涼と夜梨子 、そして夜梨子と大沢との恋愛物語は、第31話まで、この後何の進展も見せません。 ただ、この辺りは広義の伏線がしかれていると (注11)。 いう訳で、夜梨子が改めて主人公になあるまでの序章と捉えることが出来ます。
(注11)…例:「こーやって巣離れしてゆくのだろーか、、、」(第30話)
私はこのように考えております。
さて、第32話、涼と美也の過去のエピソードを経て、 先生の目は(すなわち読者の目も)この後改めて夜梨子に注がれていきます。 そして前半のクライマックスである「サードガール」の意味が、次第に明らかに されていくのです。それでは次回、第32話から第48話までを見ていくことにしましょう。 本日はこの辺で。』 (`97.2.20記)