コンビニ側の証人 第9回

(初出:第27号 99.6.22)

『お金の話二題

最近もまたよく出来た偽札、偽500円玉が出回っているらしく、店にも「気を付けるように」
との連絡が来ているのだが、正直言って何をどう気を付ければいいのかよくわからない。
まさかお客様が出してきた金をいちいちすかしを確認したり、重さを量ったりするわけにもいかない。
まあ本部も「そんなことしろなどとは言ってない」と言うだろうが、ただ漠然と「気を付けろ」ということは通常業務は滞らせずに、やって来る偽札には気を付けてつかまされないようにしよう、と言ってることになる。
でもそっちの方がずうっと難しい、どころかほとんど人間技じゃないと思う。そういうことがわかっていないのか、わかってて敢えて言ってるのかは不明だが、どっちにしても「まあ気を付けはするけど、偽札が来たって素人に判るわけないじゃん」というのが私の考えである。
これは、バイト風情にそんな責任のある高度な仕事をさせるなとかそういうレベルの問題ではない。
精巧に出来ていてみんなが知らずに使ってしまうから偽金は出回ってしまうのであって、そんなものが来てしまった日にはレジに入ってるのがバイトだろうが店長だろうがその上の幹部であろうが同じことであろう。上に行く程、売場周辺の世事には疎くなるとも考えられるので、そういう意味では「気を付けろ」と言って来る本部の方が「ひとのこといえない」かも知れない。
ところで偽金をつかまされてしまったら、どうすればいいんだろうか。
以前、韓国の硬貨を削って重量を調節した変造500円玉を持ち込んだお客様がいて、丁重にお断りしたら「これおたくの自販機から出てきたんだけど引き取ってくれないの?」
と言われてしまった。うちの自販機から?そんな筈はないのだが・・・
そう言われるとこっちに責任があるような気がして一瞬交換しそうになったが、一概にこちらに責任があるとも考えにくかったし、偽金と判ってて交換するのもばかみたいなので、お客様には申し訳なかったのだが断った。こういう場合はどちらも被害者みたいなものなので、日銀あたりがなんとかしてくれないものだろうか。

デパートやスーパーなどの大きな店はともかく、街角のコンビニのような小さい店舗には通常、釣銭の用意はそれ程ない。特に銀行が閉まって両替ができない夕方から夜にかけては推して知るべしである。
接客のタテマエでは、「夜間の万札は断ってもよい」となっている。
夜間は防犯上のことも考え、釣銭は最低限しか用意してないからである。でもそんなことでみすみす売上を逃がす訳にもいかないし、お客様が本当に万札しか持っていなかったら、両替できないのはどちらも同じなので、多少の用意はしている。だから深夜に万札しか持ってないお客様がいらしても笑顔で釣銭を渡せるようにしているのだが、そういう時に「すみませんねえ、一万円札しかなくて」と言ってくれるお客様はたいへん嬉しい。
そういう場面に出合うと、「譲り合ってその場を和やかに済ます謙虚な日本人」らしくて、日本のそういう文化っていいよなあとこっちも和やかな気持ちになってしまう偽善者な私である。
逆に「私これしか持ってないんだからね。お釣くれて当然でしょ」という意識が満面に出ているお客様だったりすると、一番よれよれの千円札だけ選り分けて釣銭だしてやろうかという気持ちになってしまうが、選別する時間が惜しいのでやめておく。
万札のことに限らず、金を投げてよこす人とか、1円玉や5円玉を何十枚も持ってきて躊躇もなく、涼しい顔をしている人とか、そんな通りがかりのコンビニのバイト店員に威張ってみても人間の格が上がる訳じゃないのに、と言いたくなる人も時々いて、金の扱いひとつにしても人柄が出てしまうんだろうかと思ってしまう。ということは、買い物するときに
「すみません、一万円しか無いんですけど」と二回も三回も低姿勢で言ってしまう私は、見ようによっては「卑屈っぽい人」ということか?
それもどうかと思うが・・・



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