『国際的なコンビニって 』
店には時々外国のお客様が来られるのだが、日本語がわからない方が割と多い。
スーパーやコンビニなら、かごに欲しいものを放りこんで、レジに持っていって、表示された数字の通りに金を払えば済んでしまうので、日本語が出来なくてもさほど問題はない。ただしそれは、いわゆる「通常業務」の場合のことであって、単純に商品と金を交換するだけという範囲を越えた「特殊業務」となると、会話をしなければならない。こちらが英語でも喋れるなら双方安心なのだが、あいにく当店、というより私は日本語のみでしか受付をしていない。
いつも3人くらいで一緒にやって来る、アラブ系の人達がいるのだが、中の一人だけは日本語がわかるので、いざというときはその人に説明すればわかるのだが、たまたまその日本語のわかる人がいなかったとき、領収書を出してくれといわれたのに意味がわからず、立ち往生しているうちにレジ前に長い行列行列が出来てしまった。そういう切羽詰ったときは動転してしまい、後でよく考えると中学生レベルの英語力でわかるはずのことだったりするのだが、行列ができたときは考えずに条件反射で会話をするという悪い癖が出てしまう。
始めのうちはおそらく母国語で喋っていたのでわからなかったが、途中で英語に切り替えたらしく「レシート」という単語だけが辛うじて判る。そうか、レシートを出せということだな・・・だったらまず先にお金出してくれないとレシートも渡せないんだが・・・。金出さないと領収書が貰えないのは、文化の違い以前の話だよな、きっと。でもどう言えばいいんだ?「先に金をくれ」って・・・
相手が言っていることが判らないのも困るのだが、それよりも、何を言いたいのかは大体判ったのだが、その答えをどうやって相手に伝えればいいのかわからないことの方がもっと問題である。
結局お客様が手に持っている財布をわかるように指差して見せたら意味がわかったらしいのだが、他に方法が思いつかなかったとはいえ失礼な店員だと思われたかもしれない。
外人さんによく売れるのが言わずと知れた「KDDのワールドカード」なのだが、これをテレホンカードと同じように、公衆電話のカード差込口に突っ込んでは、「電話が故障してる」と文句を言ってくる人が時々いる。店前に公衆電話は確かにあるのだが、「店の前にあるだけ」で店のものではない。だから文句を言ってこられても対応できないのだが、そんな複雑なことを英語で説明できるわけもないので、「一応お話は伺っておきましょう」という態度で聞くだけは聞いておく。
ワールドカードには説明書もついていて、
「これはテレホンカードのように、電話機に差し込んで使うものではありません」
という説明が5ヶ国語くらいで書かれているのだが、みんなあまり読んでないらしい。そういうのをひと通り読んだ上で、問合わせや苦情があるなら言って来て欲しいと思う。
ワールドカード1000円分を買ったお客様が、釣銭もレシートも渡したのに、聞きたいことがあるらしく、何事か話しかけてくる。もう次のお客様のレジ打ちを始めている私としては、それが終わってからにしたかったのだが、余程急いでるのか、それともそういう事には無頓着なのか、お構いなしに喋っているので、どうしようかなあと思ったその時、その場に居合わせた「次のお客様」、スーツ姿の「会社帰りの単身赴任サラリーマン」風のおじさんだったのだが、突然流暢な英語で会話を始めたのである。ひとしきり会話をしておじさん、
「この辺りにグリーンの公衆電話はないかって聞いてるよ」
・・・そうか、そういう事を言ってたのか・・・全然わからなかった。しかし、あの流暢な英語・・・自分もあのくらい話せたらなあ。一見さえないおじさんだったけど、なんかかっこいいなあ・・・島国根性丸出しで感心しきりの私であった。
また別の日、せかせかと店にやって来た外人さん、いきなりものすごく早口の英語でまくしたてるので、とにかく言っていることが早すぎて全然わからない。まあ、ゆっくり喋ってもほとんどわからないと思うんだが・・・
途中から批判的な口調が強くなってきていたので、おそらく何かお求めの物があってきたのに、英語もろくにわからない店員に対して腹を立てていたのではないかと思う。その人の最後の一言だけは辛うじて何を言いたいのかが判った。
どうも「(英語もわからないなんて)この店は国際的じゃないぞ」
と文句を言っていたらしい。
やはり、外国のお客様には店員が流暢な英語でさらっと応対して見せたら、
「日本語のわからない外人のお客様も粗略に扱わないグローバルな店」
ということになるんだろうか。
本当は日本語だって満足に使えない私にも、やっぱり英語できないと困るよなあ、と思わせる程ごもっともなご意見ではある。でもそういうことはできれば日本語で言ってほしかったな。