『宅急便』
宅急便といえばコンビニで受付け、というのはもうすっかり定着していて、既に「便利」を通り越して生活に浸透している感がある。仕送りもスキーもゴルフもスーツケースもあれもこれも送れて、早ければ明日、遅くとも2、3日で届いてしまう。しかも24時間開いてるコンビニでいつでも出せるから、まったく至れりつくせりであろう。
そう考えると宅急便って「いつでも」「なんでも」「どこにでも」 「すぐに」送れてしまえるように思えるが、そうとも限らない。近所のコンビニでちょっとした手続きで送れる手軽さも利点だが、手軽に送れる物を対象としている訳だから、おのずと上限がある。高額商品、精密機械、生物、危険物、等々送れない物はいくつもある。
まあ、生き物を箱詰めして宅急便で送ろうなんて思う人はそうそういないので問題はないが、高額商品、精密機械は送れる・送れないの境界を明確にしておかないと、お客様と受付けるコンビニ側の双方に不幸なことになりかねない。
近所に住んでいるらしく、私の働く時間帯によく来店する、 40半ばの会社ではちょっとはいいポストにいるんだろうなという物腰
(平たくいえば横柄ってことだが)の男性のお客様が いるのだが、この方は私が「特殊業務」と勝手に呼んでいる仕事、
宅急便やチケット予約やお中元・お歳暮お届けなどに関して、ややこしい案件をよく持ち込むので、こっちも顔を合わせるとつい
身構えてしまうという、あまり相性がいいとはいえない人なのである。先日その方が宅急便で運んでほしいとのことで、ダンボール箱と
重そうなかばんを持って来た。中身を尋ねると、箱の中はカメラのレンズでかばんの中はノートパソコン
だという。カメラのレンズとパソコン、どっちも高くて精密な物だ。 受けていいものだろうか・・・
「お客様、当方では30万円以上のものは取り扱いできないんですが」
「あーそう。でもだいじょぶだいじょぶ、それどっちも28万くらいだから」
「・・・そうでしたか。わかりました、お預かりします」
自分で「30万」という境界線を提示してしまった以上、その範囲内のもの
なので受付けなければならないのだが、受付けてほしいが為に金額を 加減してるんじゃないだろうか。本当は「本体価格28万、付属品別」とか。
税込み価格を聞いておけばよかった。でも税込みでも30万切るから同じか。なんだか駆け引きに負けて貧乏くじを引かされたような気分である。どんなものであれ、一旦引き受けた以上は迅速かつ丁寧に扱う気構えなのだが、こういう面倒な物を持ち込む人に限ってこんな事を言う。
「それ大事な物なんだから丁寧に運んでよ。保険とか大丈夫なんだろうね」
そりゃあ、あなたの主張はもっともだとは思うが、なんか他に言い方はないのか。
運搬中の扱いについては、確かに慎重にすべきだとは思うが、どれだけ留意しても不慮の事故は起きるし、その為に保険等も設定されている。だが、それだけ配慮していても良いことよりも悪いことの方が伝播しやすい
というのは世の常で、無責任な噂はいろいろと流される。
例えばA社は箱の全面に「こわれもの」シールを隙間なく貼っておかないと、運搬時に放り投げられるとか、B社はそれすら効果がないとか、
C社はその種の荷物の分別システムが創業当時からないとか、他にもいろんなパターンがあるが、真意の程は定かではない。
後日配達で購入したパソコン(特にノート)に発生する動作不良の 原因の大半は運搬時に起こっているという、業者にとっては
不名誉極まりない噂まであるのだが、実際のところはどうなんだろう。もし今回運んだパソコンが後に動作不良を起こしたら、
あのお客様はやっぱり運送業者にねじ込むんだろうか。でももしかしたらお客様が店に持ち込む途中でそれは起きたのかも
知れない。こちらで預かっている間に起きたとも考えられる。
結局どこの過程で不良の原因が発生したのかなんて、特定するのは ほぼ不可能である。ということは、「お客様は神様」の法則で考えるとこっちに非があるということになるのだろうか。店員としてではなく、一介のパソコンユーザーとしては、
ノートパソコンなんか宅急便で運ぶのは自殺行為とも思えるのだが。