『子供と動物にはかなわない』
私がバイトで働いている時間帯は午後9時から午前0時まで。
客層は仕事帰りのサラリーマンが多いのだが、時々親子連れとか、塾帰りの子供がやって来ることもある。そういえば、深夜のファミリーレストランにもよく親子連れが居るのだが、保護者付きとはいえ子供が深夜にそんな所にいるなんて私が子供の頃には考えられなかったことである。
(私の子供の頃といったら20年以上前のことなので無理もないのか)
ところで実は、私は子供の相手をするのがちょっと苦手である。
昔は「ちょっと苦手」どころではなく、「嫌い」だったので、その頃より苦手意識は薄くなってきているのだが、いまでも正直なところ、どう扱えばいいのかよくわからない。
ところが本人の好き嫌いに関係なく、幸か不幸か、私は子供には好かれ易い。
どうも顔立ちが子供に好かれ易く出来ている、というより「子供がおもちゃと間違えやすい顔」をしているらしい。
先日、夜10時過ぎだというのに一人でやって来た女の子。
どう見ても小学校低学年である。
おいおいもう深夜だぞ、親はどうしたんだ、と思いつつ見ているとその子、何を買うわけでもなく雑誌コーナーをうろうろしたり、ピカチュウやキティちゃんのスナック菓子などに見入っている。どうも「おつかい」ではないようだ。いくら子供苦手な私でも、こんな時間だし放っておく訳にもいかないので、それとなく話しかけてみる。
「おとうさんかおかあさんは?」
「おかあさんねえ、あそこで電話してる」
女の子が指差す方を見ると、店を出てすぐ脇の電話ボックスで、見たとこ20半ばの女性が電話をしている。どういう事情かはわからないので滅多なことは言えないのだが、この時間に子供を連れ出して外で電話か・・・どういう了見だろうか。
それに、「おかあさん電話してる間、お店で待ってなさいね」とでも言ったのだろうか。あんまり常識あるとは思えん。
おかあさんは長電話が好きらしく、その間えんえんと私が子供の相手をすることになってしまった。
「今日ねえ、ゆりちゃんとこであの(並んだ商品を指しつつ)キティちゃんのチョコとジュースのんだのー」
子供の話って突拍子がないからなあ、誰だ、ゆりちゃんって・・・。
「あたしもゆりちゃんもキティちゃんのチョコ好きなのー」
「ふーん、で、食べたらちゃんと歯みがきしてる?」
「・・・」
「あ、ちゃんとみがいてないんだ。いけないなあ。」
「でも朝学校にいく前はちゃんと歯みがきしてるもん」
「あ、そう」
「それでねー」
説教くさいことを言って追い払おうと思ったのだが、あまり効き目がない。
一応、きき訳はいいようで他のお客様が来たら脇によけるし、ちょっと仕事あるからごめんねー、と言うと静かにしている。(でも帰らずにそこで待っている)
もうすぐ業者さん納品に来るしなあ、そろそろ帰ってくれないかなあ、まったく何やってんだ母親は・・・
外を見ると、何の話かわからないがこじれてるらしく、おかあさん深刻な顔つき。
まだまだ電話は終わりそうにない。困ったなあ・・・
それはそうとおかあさん、電話終わったら当然うちで買い物してくれるんでしょうね。
お子さんお預かりしてるんですから。でなかったらどーしてくれよう、ぐるるる。
気をつけたつもりだったが、威嚇音が聞こえてしまったようで、女の子は「おかあさんとこ行って来るー」と言って出て行ってしまった。
ちょっと気の毒だったかな、でも仕事あるしな、やれやれ。
と開放された私はその後まもなく来た納品の品出しに追われて女の子のことも長電話の母親のことも忘れていた。
そして0時過ぎ。引継ぎも済み、今日も何とか終わったなあと帰り仕度をして外に出ると、さっきの女の子が煙草の自販機の横に座っている。
そして電話ボックスを見るとおかあさんはまだ電話を・・・
首を突っ込むとまた長くなりそうなので、声も掛けずに帰ったのだが、あの子はあのあと何時ごろ帰って寝床に就けたのだろうか。
そして、母親はそんなに長い時間、それも外の電話で何の話をしていたのだろう。
想像するときりがないのでやめておくが、あの女の子が今日のことでコンビニにトラウマを持つことがないようにと願うばかりである。