コンビニ側の証人 第3回

(初出:第24号 99.3.22)

『高品位サービス(おでんの巻)』
うちのコンビニに限らず、最近はあちこちの店で年中おでんが売られている。
寒い冬こそおでんというイメージではあるが、別に寒くなくたって売られていれば買うのが人情なんだろうか。
その中でもやはり大根と卵は人気商品で、 その二種と他に何品かを買っていく人が多い。
からあげやフランクフルトはどちらかというとスナック感覚だが、おでんというとどうしても、「おかず」あるいは「晩酌のつまみ」の感が高い。だからおでんを買う人を見ると、ああこの人はこれからこれをおかずにご飯を食べるんだなあ、などと、実際そうとも限らないのにそんなことを考えてしまう。
おでんと一緒に買っていく弁当や何やらで、その人のこの後の食卓(おそらく夕食か夜食)が想像できてなんだかほほえましい。おでんと白飯だけを買っていく人がいたりすると、
「野菜も摂られたほうがよろしいですよ。あちらのコーナーにサラダもございますがいかがでしょうか」
とか言ってしまいたくなる。
大きなお世話なんだが。
でもそういうセールストークをしたほうが売上につながるんだろうか。
以前、気になって友人に聞いてみたところ、
「そんな波状攻撃かけるコンビニには二度と行かない」
と言われたので、やはりやめておくべきか。そういえばマニュアルにもそんなことは書かれてない。
ところで問題は、場合に応じて何膳箸をつけるのが適当なのかである。
まあそんなものは聞いてしまえばいいことであって、実際そうしてはいる。それに目の前に居る人数分つければ基本的には問題はないはず。一人だったら一膳、二人連れなら二膳、というように。
でもお客様のそういう言外の部分を察知して対応するのが、高品位サービスというものであろう(高品位か?、それも割り箸で・・・)。
20代半ば位の女性のお客様。この後帰って夕食らしく、おでんを注文される。
大根に卵にちくわに白滝と、全部2個づつ。内訳を見れば想像はつきそうなのだが、つい習慣で箸を一膳だけつけて袋詰をしてしまう。
それを見ていたお客様、ちょっと困り顔で「あの、箸もうひとつ下さい」
そこではっと気付く私。そうだよな、うんうん。言われる前にそうするべきだよなと思いつつ、「あ、失礼いたしました」と言ってお客様を見ると
「全部2個づつ買ってんだから、二人で食べるに決まってるじゃないの。まったく、そのくらい気を利かせなさいよね、トロいんだから」
と言われてはいないのだが、なんか顔にそう書いてある様に思えた。
全部2個づつ、すなわち二人分。言われてみれば、じゃなくて基本だろう。 そうかと思うと、別のお客様。推定30代のちょっとせっかちな男性。
カウンターにまっすぐズカズカとやって来て、「おでんくれる?」
「あ、はい少々お待ち下さい」
「つみれ1個と、卵3個と、牛すじ4本と、大根8個。早くね、早く」
大根8個・・・やっぱり箸は8膳だろうか。聞いてもいいんだが、急いでるし、気難しそうな人だしなあ。
「では、箸は多めに入れておきますねえ(ちょっとご機嫌取り気味)」
とザラザラ袋に突っ込む。
「あ、いいよひとつで」
えー、もう入れてしまったので手遅れ。そのまま持たせる。
しかしひとりで大根8個・・・かなあ。健康的でいいけど。
それにしても箸多く入れすぎだっただろうか。ま、いいや、サービスサービス。
でもその次のお客様のかごに、「行楽用割り箸20本入」なんか入ってるとものすごくばつが悪い。
すみませんねえ、場合によってはただで貰える箸をわざわざ買っていただいて。なんて謝るわけにもいかないし。
幸いまだそういう事態に遭ったことはないのだが、そんな魔の刻が来ないことを祈りつつ仕事をする私であった。


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