GRANDSTAND PLAY Vol.18 (03.09.19)


ディーン・シェルトンの歌う夜    石垣 ゆうじ

ディーン・シェルトンの歌う日曜の夜は眠くはなかった。
ぼくは洗濯かごからシューズを取り出すと、こっそり夜闇へと消えていくのだった。寝静まった町を自転車で駆けおりて行けば、そこには『レッドネックカフェー』から漏れるクアーズビールの黄色ネオンの灯りと、ディーンの枯れた歌声があるのだった。
『レッドネックカフェー』へ向かうには断然、学生食堂を経由して北口から入るのが近いのだが、ぼくは必ず南口から店を目指した。そこにはロックミュージシャンが集まるスタジオがあり、粗末な作りの建物からは昼夜を問わず、がなり立てる様な音が響いていたが、夜風に紛れて聴こえてくる「ソフトロック」は殊のほか心地良かったのだ。
カフェーにはフォークソング愛好会の学生カップルと隣り町の老夫婦、野口さんとこの未婚の娘、カナエさんがいた。もちろんマスターのサカイさんとディーンも。
サカイさんとは目で挨拶を交わしたが、ディーンはカウンターテーブルに空のウィスキーグラスを静かに去り置くと、こちらには見向きもせずに、20センチだけ高いステージへと歩いて行った。
ふと壁掛時計を見ると午後の11時を5分ほど廻っていた。ディーンがぼくを待っていたのは明かだった。
ステージに簡単なスポットライトが灯ってからも、そのカントリーシンガーはギターの音合わせに余念がなかったので、ぼくには飲み物を頼むきっかけになった。
「グレンフィディック」とぼくがいうとサカイさんは眉をしかめた。既に栓が抜かれたジンジャーエールを手にしていたからだ。
「いつものでいいです」とぼくがいうと、サカイさんはぼくの差し出した左手にグイッと緑色のボトルを押し込んで、しかめっ面のまま声を出さずに笑うのだった。
`夜空に浮かんだ星々を見てごらんよ、君の失った夢もそこにあるかい?`ディーンがそう歌いはじめると、すぐにぼくは泣きそうになった。「ディーン・シェルトンは本物だ」と思った。
涙をこらえているぼくにサカイさんがきっぱりいう。「坊や、背伸びしたがる理由が分かったよ」と。ぼくが驚いて彼を見、次に彼の視線の方を見ると、戸口にはサキちゃんの姿があった。
 

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