GRANDSTAND PLAY Vol.11 (03.08.12)


メールと詩人と夢乞いと 石垣ゆうじ

携帯にメールが入ると、まだ私のことを気にかけてくれる者がいたのかと嬉しくなる。送信者は友人で詩人のノガミだった。彼の会社からだった。
『夕焼けに染まったレジャーセンター跡地でひぐらしが鳴いていた。18日、本町盆踊り大会』
私は青葉台のゴルフ場に愛車のマーチを停車させ、タウン誌を眺めていた。暇潰しだ。私が本物のモノ書きなら、運転席でも書けるだろうが、私は野外コンサートやコンビニの新作メニューの記事を拝んでいた。そこには書くべきものがあるかも知れなかった。
ゴルフ場の係員が駐車場の草刈りを始めたので私はマーチを走らせた。東北大工学部の食堂前に車を落ちつけると、サイドミラーに市の作業員が路肩のヘドロをスコップですくい上げ始める姿が映った。私はキーを捻り、車を発車させた。いかなる場所にも失業者の居場所はないのである。
『お前は一生、結論のでない問題を抱えながら茶店の隅で生きていくつもりか?』ノガミからメールが来る。
私は東北大の川内キャンパスに居た。もみじのトンネルをくぐり、苔むす石畳を歩き、トイレを拝借するところだった。返信した。
『今から用をたしたら、結論のでない問題を解くために茶店へ行く。そう、君の会社のデスクと変わりばえしない場所へだ』(事実は違う。茶店の隅のテーブルには私の未来がある)
『日本国とプロレス。カリスマ性のある指導者及び個人のいない国家及び団体は滅び行く』(ノガミ)
『俺に構わずに本でも書け。今とは違う道を歩めるぞ』(私)
『詩人に必要なのはレシートか紙袋の切れ端だろうが、俺に必要なのは茶店の隅のテーブルだけだ』(私)
『詩人に必要なもの。つまらない仕事と孤独感と後ろ向きな思考』(ノガミ)
『孤独ということは、才能があるということだ』(私)
私は孤独で後ろ向きな思考が得意だが、つまらない仕事にはおさらばしたばかりだった。
『いま社内貯金をおろした。回転寿司でも食いに行くか?』(ノガミ)
『今日は駄目だ。明日ならいい』(私)
『じゃあやめた。さよなら』(ノガミ)
明日も職安には行かずに、絵の具を買いに行くとしよう。そして茶店に立ち寄り四時間も粘るとしよう。
 

Hot Stuff

網地島で溺れかけた。脳裏に翌日の朝刊の見出しが浮かんだ。『29歳無職男性、救助及ばず溺死』カナヅチにも係わらず、夏の海の開放感に誘われて、私はえっちら、おっちらと平泳ぎで遊泳禁止区域を目指していた。思うように距離が稼げない。くたびれて泳ぎを諦めると、そこは足場のない深み。当り前だ。そういう所へ行き着こうともがいていたのだから。正確にいえば、遊泳禁止区域を示す境界線の遥か手前、私よりも遥か沖合いの辺りに、レンタル浮き輪に収まってプカプカ波に佇んでいるレイコ嬢へご挨拶と、洒落込むつもりだったのだ。つい先程までは、私が首まで海に浸かっていても、言い訳を繰り返して波打際でモジモジしていたのがレイコなのだ。それが今では彼氏よりも信頼のおける助手に抱かれて御機嫌なのだから、私としては面白くない。この下らぬ妬みが不幸を招く。予期せぬ高波が二度連続して私を襲う。焦った。呼吸が出来ずに緊張と冷たい海水に身体が硬直する。岸に戻ろうと意を決したところに三度高波が襲う。塩水を飲みパニくる私。異変に気付いたレイコの浮き輪に無我夢中でしがみつくと、顔を濡らされ怒り心頭の彼女は私を振りほどいた。



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