片翼だけの堕天使〜飛翔〜

(初出:第34号 00.1.20)

-Caution!-
今回の話はそこそこマニアックな仕様となっております(まあ、元々そうなんですけど)。最近ハマり始めた方々への啓蒙が込められておりますので、興味のある人はそれなりに。すでに卒業した方々はご遠慮下さい(再燃の危険性アリ)。


東京に来て6度目の春。アサヒはいまだ学生。
この半年ほどの間に、何があったか。本筋ではないので手短に。

バイトに精を出したお陰で借金は程なく完済。引換に、卒業と就職が伸びた。ある程度覚悟の事だ。あれもこれもと手を出して、結果全てを失うのは得策ではない。「二兎を追うものは一兎をも得ず」。すでに実戦で経験済みだ...。何を取るかは人にもよるが、俺はまず先行投資をあきらめ、目先の事を最優先することにした。で、解決後に控えていた残り2つの問題は、冬の足音と共に後の祭り。
仕送りの他に稼ぎのある生活はやはり安定している。そのまま俺はバイトを続けた。残る問題は春からの去就、何にせよ真っ当な道は歩めない。その辺、親にどう説明するか。戦略を練りに練って..卒業判定(不可)後、速攻で実家に里帰り。
「学校に残る。但し生活費(仕送り)はカット。学費は半分を自分で、残る半分は都合がつき次第、親に返済のこと。」
処遇は以上の様に決まった。上出来である。相当なお小言を覚悟していたが、それほどでもなかった。不景気、就職難は社会人のベテランとして肌で感じているようで、プーについては現状致し方なし。学費の半額を用意していたことも、好評価につながったようだ。「惰眠を貪っていた訳では、ないようだ」。確かに。波乱万丈の学生生活を送っている。しかし実情は..墓場まで持っていくしかあるまいな..。何よりもはや成人を(とっくに)過ぎており、己の将来についての選択権は自分にある。金銭面の話が主になったが、どっちにしろ今年はフリーターの生活に近い。この条件なら問題なし(元々使い途のない稼ぎだ、惜しくはない)。
てなわけで、晴れて6年目の東京は学生兼フリーターの身分と相成った。

閑話休題。本文に入ろう。
パチンコは、この半年のあいだに「やらなかった」とは言わない。ただ、一人では全く行かなかった。社会人となった友人に案外、パチンコを始めた者が多く、飲みの前後にチラと打つことがあっただけである。..みんな、早くも帰宅恐怖症なのだろうか...?
久々の連れパチも、気分はそう盛り上がらず、興も乗らなかった。かつて何度も煮え湯を飲まされた機種を指定された日にはもう..キッパリと、断わった。すでにパチンコからは、身も心も離れていたと言ってよい。過去の痛みももはや、飲みの上でのネタ話。そう、笑って話せる日がついに訪れたのだ..。
実を言えば収入が安定してきた頃、何度もキック・バックに悩まされた。通常は開店10時さえ近寄らなければ、街の風景と同化して気になる存在ではない。しかし「本日新装12時開店」の文字には...。必死に「負ける負ける..」を繰り返しつぶやいて耐え、その場を離れた...訳でもない。新装にも関わらず、並ぶ人々のあまりの少なさにヒいてしまったのが本当のところだ。
「ああ、やはりパチンコは黄昏時だったんだなあ」という思いを強くしながら通り過ぎたのだ。あの当時感じていた、「メーカー側がスペックを抑える仕様に終始している」という危惧は、間違いではなかったようである。その年、パチンコは様々な制約の前に大ヒット作を出せずに終わっていた..。

そしてアサヒにとっても、あの日々は追憶となるはずであった。そう、この時までは...(お約束)。

7月。繁期直前のこの時期、アサヒはまとまった休みをとった。試験対策の名目は、残り2科目であるから単なる方便である。しかし4日連続の休みはフリーターとしては実に久々の連休だ。ここらで一服...といっても用事はあった。父方の祖父の一周忌。実家からは都合がついたら参加して欲しいとの連絡があった。で、一応つけてみた訳だが...。2◯歳で2留のプー。行くのは...気がひける。しかし連休を持て余すのも嫌だ。
仕方がない。新幹線のチケットを買いに初日、街へ出た。
学校へ行く途中の駅ではあったが、下りるのは久々だ。陽気も手伝って、フラフラと歩き回った。そこで目にしたものが....。

「シーマ◯ターX」。山佐の新台である。業界初の4リールを搭載した注目機種。噂は聞いていた。アサヒのバイト(仕事)先は、いわゆる「ガテン」系であり、ギャンブル、風俗、芸能(?)の話題には事欠かない。ギャンブルは引退の身ではあったが、メジャーな動向は把握出来ていた。
中でもこの機種は、久々に「打ってみたい」と思わせる魅力があった。何しろ4つのリールである。左、中、右の3リール。この有効ラインに7が揃えば大当りというのがパチスロだ。ならば4つ目のリールは、何を意味するのか!?衝撃度で言えば、1リールの3連7など比ではない。「ゲーム」の言葉がピタリと当てはまるのが、この4番目のリールなのである。
この揺り返しは激烈であった。しかも懐には、捨てても惜しくない(?)新幹線の往復3万弱が唸っている。

二度と踏み入れることのないはずであった領域に、アサヒは再び足を向けたがしかし。気持ちはかなり慎重であった。「大負けは勘弁願いたい」「ハマることのないように(祈)!これ一度だけ!!」
そんな思いで入った店内は、騒々しさの極にあった。薄暗い店内にデーハな音楽。そして人、人、人。職場とは対極に位置する場に、否が応にも興奮は高まる。入店10秒で早くもアサヒは、かつてのノリを取り戻していた..。
「とにかくうるさいな...」。階下のパチンコルームへ足を運ぶと、パチンコ玉を2つ、手にとる。

投資3千円。カン高い音とともに、例の4番目のリールが回った。いささか緊張して7を狙う。左リール、出た目は「赤7・オレンジ・リプレイ」。と、4thリールが黄色いクジラ(キッくん)で止まる。この時点でいわゆる「1確目」である。しかし、初見の台の開始早々であるアサヒは一瞬、「いや、ガセかもな..」と思う。この手のチャンス系は、たいがい条件付きである。ぬか喜びは禁物だ..(いや、鉄板だって!)。その惑いが中リール、赤7の上段テンパイに反応する。もしや..慎重に右リール、狙いをつけると3周目に運命のボタンを押す。止まったのは、ああ、「ニューパル」以来伝統の、「チェリー付赤7」。下段ではあるがリーチ目である...!。
次ゲーム一枚掛けで「BER」を押す。ツイてないな..と思う。バケは流れが止まるから嫌いだ。それが今までの経験則であった。
我々が何故パチスロをやるのか。「それはバラバラに止まっている7を一直線に揃える為だ」。かつての迷言である。やはり「777」と「BER」は違う。さて。
これ以上の投資は避けたいな..と思いつつ、手入れに戻る。と、またもや予告音。左出目は「オレ・青7・オレ」。完全1確目である!思わずリーチ目表を確認するのはナサケナイ。狙ったつもりの中リールは赤7。右リールは勿論中段に青7である。普段はめったに出ない7の一直線が当り前に出るのは当然。アウトオブ眼中(死語)にあった4thリールがここで止まる。あの懐かしの「ダ◯バーズXX」のカメが止まり、再始動。一瞬止まったのは..竜か..?グルグルと絵柄が停止→始動を繰り返す。チラと台脇の表をみると、4thリールに「?」と描かれた箇所。そうかこれが...大当り確定のネッシーだったか...。最終停止は「7・BER・7」。うーん、またもやBERかなあ..思った瞬間、再び「ウィーン」と動いた4thリールは「777」で止まった。「シャキーン!!」という音と共に!
ビッグ確定のアクションに、これ以上の演出はあっただろうか!!?思わず震えた手に、喜びが表現されていたのは言うまでもない。久々だ...実に久々の大当りは格別だが、楽しんでもいられない。収支計算である。投資3千円の出玉は400枚弱か?(ベルがよく揃ったが、とりあえず標準的に)。換金率は...と、またもや踊る「等価交換」のPOP。8千か...で即流しである。

いつになく弱気なのは当り前と言えよう。すでに自分は引退した身なのだ。あの苦痛と屈辱は、2度と繰り返してはならない..。5千円のアブク銭はとりあえず飲み代に回すとして、今日はさて、チケットを購入せねば...。後ろ髪を引かれながら、店を出る。「アバヨ、楽しかったゼ」
...ポケットに突っ込んだ、2個のパチンコ玉は、何なのだろう...?

帰省った事は、後悔の嵐に終わった。
近況を訊ねる親戚に辟易したのに追い打ちを駈けて、待っていたのは両親によるお説教(丁寧語)。何の為に都合をつけたのやら。こんな事態は十分予想出来たのに..。久々の休暇を返してくれ!!!

学費を貯めるのが馬鹿らしくなったのは、何も己の怠慢のせいでもあるまい。そう言い聞かせつつ、「シーマス」との蜜月が始まった。平日に定休があるのを幸いに、「週末パチンカー」ならぬ「平日パチンカー」としての日々が始まった。店は勿論、あの繁華街の等価交換の店である。今にしてみれば、何故等価を敬遠していたのか分からない。等価=低設定の公式は「必ず」ではないし、低換金=高設定の公式も実はない。様は「引き際」である。単純に、等価なら出玉400枚で8千円。500枚目標で1万まで投資可能なんである。してみると、1万勝負で2時間程度。勿論最初のヒキが肝心になる。
依然として引退の身という罪悪感があって、「遊び」という感覚では出来なかった。とにかく負けない事。これを最低条件に、それでもそこそこ楽しんだ。打ち方として、一番アツいのはこの瞬間であると思われた。
「予告高音→逆回転→左リール(オレ・赤7・オレ)で停止(4thリール回転中)」
経験上、7割方ボーナスである。順打ちで(リ7リ)の2確を狙うもよし、(オ7オ)で右リールに持ち越すも良し。ハサミ打ちで赤7の2確を決めるもよし、ズレてオレンジテンパイも中リール、斜めオレンジにビックリ(ちょっと恥)も良し。あえて青7を絡ませて再始動を堪能するも良し、の、実に高密度な楽しみ方が可能なのである(勿論単なるオレンジの場合もアリ。それはそれで良し?)。
話しが逸れた。ともかく負けない所で潔くヒいた打ち方が効を奏したか、収支は少しずつだがプラスを重ねていった。

もはや引退は事実上撤退であった。一言言い訳を入れると、「パチンコは止めた」。但し今度はスロットである....。

斬新なゲーム性で常に満席であった「シーマス」も、徐々に人が離れていった。面白さは確かだが、勝てる機種とは言えなかったようだ。こちらも徐々にジリ貧気味。なかなか伸びない日が続いた。収支的にはトントンである。まあ、恩の字か...。しかしこれでアッサリ止めるようなら苦労はしていない。次なる目標は....。

等価のこの店に大分慣れてきた頃、気になる台が出来た。「シーマス」以前からあるようなのだが、常に朝から満席の機種である。モーニングもなく、全台高設定という訳でもないのにこの人気。何故なのだ..?
「ア◯テカ」。この年おそらく最大のヒット機に挙げられるであろうこの機種は、ECJ久々のヒット作。そしてCT機のイメージを覆えした金字塔。

後から言えば色々語れるが、この時にすれば「CT機って何だっけ?」という認識であった。CT1号機である「ウル◯ラマン倶楽部」。登場時はCR化する代わりに合法的に連チャンを促進させるものである、という説があった。事実はそうではない。アサヒ達にしてみればどちらにせよ、ワケワカラン仕様であった。よって、触った事がない。

「シーマス」を経て、徐々に勝つ方法論を心得つつあったアサヒは、ともかく人気のある方へ向かっていくクセをつけた。かつて、人気のない「ビッ◯パルサー(3号機)」をお気ににしていたとは思えない進歩である..。
とにかくゲーム性を把握せねば..と、久々に専門誌を買いに行った。そこで見たものは...!

コンビニには、棚を一つ使ってパチンコ/パチスロ専門誌のコーナーがあった。老舗の「必勝」シリーズを始め、ムック形式のものからタニムラの特集本まである。「えーっ?何だこの数は?」
いつの間にか、攻略はやって当り前の状況にあるようだ。ともかくアサヒは「いつもの」であった「(パチスロ)必勝ガイド」をレジに持っていった。しかし、家に帰って見てみると、「パチスロ必勝ガイドMAX」という代物であった...。
現在、パチンコパチスロ問わずして、世は新台ラッシュである。とてもではないが月刊ペースで最新情報は伝えられない。なので売れている情報誌は増刊を出して補完している状況である。

さておき。「テカ」のスペックは近年のノーマルタイプにして稀に見る高設定であった。CT突入率1/2、無制御リールは第2、第3停止リール。ここまでは普通の仕様である。注目は終了条件。BIG当選時、純増枚数201枚以上、150G消化まで。150ゲームリスク無しに回せるのである!連チャン率(理論値)は設定1でも2割強!(たぶん)とんでもない数値である!
更に問題なのは通常時、オヤジ打ちで全く構わない点。パチスロ通常時=チェリー狙いという公式しか知らなかった者にとって、「ブン回し」とは禁則であった。なので結果的に決まった出目(リーチ目含む)しか拝めず、それが気分的に飽きを呼んだ。それがどう打ってもいいと!さらにはボーナスゲーム中、CT消化中といずれも簡単目押しで獲得枚数アップ&現状(200枚)維持が可能!!!!

思わず納得も然るべき。これは打つしかない!

次の休みはこれであった。そして、これがアサヒの運命を決める...。

投資7千円。だいたい2リール目で消える効果音が久々に3リールまで到達した。ルーレットスタートである。しかし出目は、帽子が揃っている。「おいおい、無駄なんだよなあ・・・」回転は風車型。「7の前後で止まるんだよなあ..どうせ」。6コマ、7コマ...10コマ進んでも止まらない。「何、どうした!?....イケッ!!!」盤面9マス中1コマにしか存在しない7に、光が止まった..!アステカマーク点灯はボーナス確定である。
CT機はほとんどがビッグのみの大役形態で、ボーナスゲームは2回。Bタイプである。(懐かしい!アサヒにしてみれば「トロピ」「キンカリ」以来のB型。)
なので獲得枚数が少ない。が、「テカ」に関してはそれでも280枚を超える。中→右リールをオヤジ打ち。左リール、青7(デカチリ付)を基点にして子役&リプレイ外しである。初めてだったが、何しろデカチリが目立ちまくりだ(透過性の仕様らしい)。元々絵柄を早めに押す(スベリに頼る)癖があるから、デカチリ狙いで丁度、青7が入る。初めてにして300枚オーバーは出来すぎか?
しかし、ボーナス後のCT抽選は外れ。これでは通常(Aタイプ)の出玉以下である。「300枚..6千円...止められないな..」
気を取り直して通常ゲームに臨む。30ゲーム目、チリ挟みの帽子は右リール、青7がスベって外れ。鉄板である。ルーレットスタートも余裕で眺める。「いやー、ツイてるなあ」
さらにCT外れも600枚弱。替えるか...?ともかく100ゲームは..と、50ゲーム過ぎにまたもやビッグは生入り。「おお、いいねえ」
またもやCT外れ。「おーい、1/2で何で入らないんだ?」
とりあえず、元は取っているから100ゲームを止め時に定め、のんびりと打つ。とまたまた二桁でビッグ確定。
箱に半分と、下皿の出玉である。
しかし何と言うことか、CTとは何なのか?今度も抽選は4で消える。音も無し。

この時、アサヒは出玉のペースなど全く省みてはいなかった。ともかくCT。ここまできたからには見るまで止めん。冗談ではない!
..しかし、本当に、冗談ではなかったのである。

100ゲーム直前のリーチ目は左リール中・下段に白7。いわゆる「サシシ」である。ドキッとした!
そしてCT抽選。何と5〜8がスローのハイチャンス!当選率は7割強と聞く。「ドーン!」突入の合図とともにボーナスが終わったのに効果音が鳴り響く。「おお、何かカッコイイ音楽だなあ」
目出度くCT初体験である。ひとまずデカチリを狙い、純増枚数を200枚に近づける。何度か目押しミス(らしき)はあったものの、30ゲームも立たずに到達。確認ランプが黄色になる。「ええと、帽子まで取れるんだったな」ランプの色で取れる小役が分かるとは安心機能である。慎重に左リール、デカチリを外す。で、ランプが赤に戻ったら再びデカチリ狙いである。「現状維持打法」というのもやってはみたいが、サボ付の単独白7(中リール)が捕まえにくい。「まあいいや、あと100ゲーム以上タダで回せるんだろ?上等、上等。」
ランプが3度黄色になっている。ここでクレジットを35まで減らす。で、デカチリだ。しかし普段は出ないリーチ目がここぞとばかり出てくるよなあ。いい眼の保養だよ...。
赤に戻ってデカチリを狙う。と、スベッて過ぎる。これはリプレイだなあ・・で、音楽が止まる。???

エーっ!?201枚取っちゃった?
確かにランプは赤表示だったはずだ。このゲームもリプレイ、帽子すら揃っていない。何だ?もしや...!
1枚掛けで白7狙い。中に青7が止まるもルーレットは当然の如く7に。これがビッグ当選(CT連チャン)である!

ここから先は、詳述を避ける。賢明なる読者諸氏ならすでにお気づきと思われるが。ビッグの出現率が段違いに早い。つまりは高設定を拾ったのだ。
朝の10時から夜の11時まで。かつてのCRを思わせる一日仕事は、下皿からドル箱へのコインの移動に明け暮れた至福の刻であった。
出玉10242枚。ビッグ39回はまさに圧巻。今月のベスト1の快挙であった(設定は5だったようだ)!
等価で20万。思わず手が震えた。帰りの電車も懐と背後がやけに気になった。ともかく感無量である。そして思った。
「ああ、これでまたあの日々が始まるな....」

平日休みのパチンカーは続いた。徐々に、休みが多くなった。だって働くより日当が出るのだ!さすがにこの日以来の大勝ちは望めなかったし、またそこまでは入れ込まなかった。次の日は勤務(or学校(笑))である。とても13時間は打ち切れない。
その代わり、目押しの技術は目覚ましく進歩した。元々「テカ」は、技術介入のレベルの低さと反比例する効果の絶大さで人気を集めた機種である。アサヒくらいの経験者にしてみれば「やって当然、やらなきゃダメダメ!」。CT中の現状維持は勿論のこと、通常時のハサミ打ち、逆打ち..ありとあらゆる「楽しみ方」を駆使して、日当を稼いだ。

また、この頃には他の店を立ち回ることを始めていた。さすがに1店(等価)だけではリスクが大きすぎる。勝ち続けて目立っても良くない。近辺の、ありとあらゆるパチ屋を巡り、最終的に5店ほどに絞った(何しろ繁華街だ。おそらく1k四方に30軒以上ある)。
等価のB店は例の店。客付きはいい方ではないが、必ず何台かは高設定がある。
同じく等価のF店は、競争率が激しいが見返りも大きい。
5.5枚交換のD店。イベントが狙い時だ。
6枚交換のN店。客層が古く、機種によってはきちんと元が取れる。
そして、7枚交換はT店。全台高設定の日もあり、通常時でもかなりの確率で高設定を望める。
投資金額と時間、そして「引き際」を見定めつつ、これらの店を効率良く回る。勝率は5割を超え、安定した戦績を重ねていった。

「引き際」が掴めたのは、何も慎重さだけが理由ではない。Aタイプの機械割による出玉率の平均値に、自分の成績が近づいている事に気付いたからでもある。
つまり現状の機種の限界を知った訳だ。
D店のイベントで、運良く「サ◯ダーV」の設定6に座れたのは、秋深まる11月の事。開始は12時。もはや23時までの大勝負確定である。投資5千はレギュラーの4連発(追加無し)で始まった。今までなら腐っていたところ。しかし打つ度にレギュラーの出現率には関心を寄せつつあった。1度や2度ならヒキ弱(強?)も考えられるが、高設定なら当然、レギュラーの出現率は高い。特に一日勝負を頻繁にするようになってから、この事実は体感していた。この場合も高設定故の珍事であると、今では逆に喜んでいられる。もう一台、隣も設定6なのだが、こちらが投資1万でも掛からない。学生らしき兄ちゃんは、かなりローテンションである。こちらも、なかなかビッグにたどり着けない。
考えてみると、設定6とはいえビッグ確率は240分の1(REGとの合成確率は150以下だが)。単純に、240ゲームに1回である。してみると、出玉推移はゆるやかな上昇カーブになる。勿論当日の、打ち手の、ヒキの強さにもよるが、平均的には爆発的な出玉は望めない。
単純に、「一撃何千枚」を願うなら。ダラダラモードをひたすら耐え(あるいは避け)、連チャンの波を捉えて即、引くべきである。今日のように高設定が確定の場合、一日勝負は覚悟の上なのだから、トータルの出玉のみを期待すべきであろう。
高設定=爆烈連チャンなのではなく、高設定なら爆発する確率は最も高いが、低設定でも運気次第で出る時もある。実の期待値は、高設定=「負けない」程度なのである。
先の学生くんは、2〜3連→3倍ハマリの繰り返しでかなりお疲れモードである。せっかくの高設定も、過剰な期待には簡単に答えてくれない事を知るべきであろう。こちらはもはや確率には頓着していない。最終的に勝てばいいのだ。それよりも、この機種の場合は「スイカ(=15枚役)」の取りこぼしに気をつけなければいけない。
かつて。この機種が出た当時、キューちゃんと打ったことがある。俺はいつもの「チェリー狙い」を、キューちゃんは3連Vのトリテンをひたすら狙って(「コンチ3」のファンファーレが流れるのだ!涙モノ)、業界初のフラッシュ告知に大騒ぎしていた。通称「ガセフラ」と呼んでいた、中心からグルリと円を描くフラッシュ。今思えばスイカの取りこぼし目であった...バカモノ〜。
そう、ビッグ確率は常に一定なのであるから、通常時の減玉を抑えるべく、小役狙いに徹しなければならない。そこが、勝敗の分かれ目と、なる(おおげさ?)。

最終的に、学生とアサヒの出玉数はほぼ同等であった。ただし、学生くんは投資と精神的疲労を重ね、アサヒは予想通りの日当と高設定の上限を知る機会をモノにした。
....つまりはこの差なンである。

98〜99年は、パチスロがまさに円熟期を迎えた時期と言えるだろう。
規制の拡大解釈が認められ、ゲーム性は多様化した。かたや「裏モノ」が公然と再び世に出始め、ユーザーのあらゆる層に対応した機種が揃った事になる。最も注目すべきは攻略が技術介入に改善され、誰もが勝つチャンスを与えられた所である...努力次第で。
メーカー側は、システムをある程度熟知していると想定してスペックを調整する。しかしユーザーは思う以上には機種の多様性を理解していない。間に立つ店側は、無知なるユーザーの「離れ」を懸念して多少、甘めの台割にせざるを得ない。システムを最大限利用出来るユーザーは、ここに常勝の機会を得ることが出来る。

アサヒが目押しの重要性に目覚めたのは、98年の最ヒット機「ハ◯ビ」を打ち始めた頃である。年せまり、すでに後継機「大◯火」が出ていたが、デビュー1年を過ぎてこの機種はいまだ健在であった。低換金、故?の高設定で、長時間勝負に適していた「花火」を、アサヒは試験前(学生最後の休暇)に堪能する。
それは試練にも似た遊びだった...。
この頃、アサヒはある計画を抱いていた。「花火」の「氷狙い」は、その計画を実行に移すか否かのカギを握る。
左リール上段、19番「HANABI」狙いでハサミ打ち消化。次ゲームリールは1周半回しで左上段に8番「ドンちゃん」を狙う。
これを繰り返す事で、毎回小役狙いでも一日8千ゲームをこなせることになる(通常は約6千ゲーム。ビッグ30回と仮定)。設定による機械割は当然、100%を超えるとゲーム数に比例して期待出玉が増える。完全確率論だが実感として、収支は期待値に収束する。となると、一日でどれだけ回せるかが長時間勝負のカギとなる。

当初、中リールの7付氷ですら満足に押せなかったアサヒだが、ともかくあきらめずに目視出来るまでやり続けた。リール表を暗記し、台をあらゆる角度から眺め、同じ絵柄の停止目をひたすら耐え続け....。結果、いつの間にかアサヒは「1コマ目押し」のスキルを習得していた。それは先天的な動態視力の賜というよりも、後天的な努力で会得したものである。

過去1何年、そして「シーマス」、「テカ」といずれも「娯楽」として捉えてきたパチンコ(パチスロ)を、初めて「仕事」として意識したのである。この速攻打ちは、アサヒが職業(プロ)として打つことが可能であるかどうか、自身を試す為の課題であった。

勿論、職業意識はあまりない。ジグマも開店プロも今は食えないし、セット打ちやゴト行為に精通する身分でもない。あくまで、「やる以上は勝つ(あるいは、負けない)」ことを信条とするギャンブラーを志向し始めた程度である。日当が出れば即座に引くことも止めなかった。
短時間勝負の場合は、初期投資をどれだけ抑えられるかと、いつ波を引くかがカギとなる。設定の高低はあまりアテにならない。そして肝心の「引き際」は経験に基ける。

勝つ為の技術を、時間に応じた投資額と立ち回りを身に付ける。そして長期的な収支を問題とすることにより、アサヒの戦績は軌道に乗り始めた。そして2000年春...。

アサヒは相変わらず、プーであった。大卒の証書ももはや紙クズ同然。住居は繁華街に近い、風呂無しの4畳に移った。所持品は、服と米とケータイのみ。週末にバイトを続け、最低限の生活費のみ確保。
全てを捨て、アサヒはパチスロを選んだのだ。

世紀末は、昨年の「大花火」、そして合法的連チャン機と、明かにエポックな機種が登場した年となった。
生活を賭けた身にとって、不確定要素の強い機種の隆盛はあまり歓迎すべきものではない。再び時代の変わり目が訪れているのかも知れない。かつての、パチンコのように...。しかし情熱を傾けること。これが今のアサヒの正直な生き方であった。

学生を朝から見かける季節がやってきた。夏は並ぶのが楽でいい。意外と清潔なTシャツと、これはプーの証、サンダルばきで先頭に立つアサヒはチラと、楽しそうに昨日の戦果を語り合う集団に目を向けた。「ああ、今日も、運がいいといいね、楽しいといいね、幸せだと、いいね...」

学生パチンカー諸君。ちょっと、確認してもらいたいことがある。以下にあてはまる失態を犯していないか、チェックしてみてくれ。
・過剰投資を抑えられない
・何となく、居続けてしまう
・並んで連れ打ち
・7は形で狙っている
・知らない台でも新台なら問答無用
・攻略法はウロ覚え
・高設定なのに何でハマるんだ?と不思議に思う

いずれも、かつての自分であり、また隣で打っている君が、そうだ。
セミプロから見れば、この「若さ」が命取りとなる。簡単に補足しておく。
・回収額には限度がある
・勝ちを掴んだら離さないこと
・2台連続して勝つ台割の可能性は低い
・せめて色で判別出来るように
・スペック、ゲーム性は台によって「まるっきり違う」
・得する情報がわざわざ公然と流されているのだから把握すべき
・世に「絶対」はない
しかし。それでこそ学生パチンカーなのである。つまりパチンコを、「娯楽」として捉える者のするべき当然の行為なのだ。楽しんでくれ。決して無益では、ない。「遊興費」と引換に、刺激のある非日常を得、世の中の仕組みを知ることが出来る。

学生パチンカーからいつ脱出、あるいは脱皮出来るのか。それははっきりと区別することは出来ない。
アサヒの場合、それが運命なのだと感じて以来、進むべき途が開いたような気がするだけだった。そしていつの間にか、あの頃と確かに違う自分がいた...。

21世紀を迎えた初春。届いた賀状の一通が、アサヒからであった。
『久しぶり。元気に働いてますか(笑)。
こちらは相変わらず。何とか生きています。
ゆっくりお会いしたいところですが、もう少し先の方がいいでしょう。それまでお元気で。』

私は、そう、学生時代の友人。留年したアサヒ、俺から2万を借りて更正したはずのアサヒが、卒業祝いで衝撃的な告白をしてから1年がたつ。
「プロになる。これで食っていく。そこで、だ」
「.......」
「お前に10万渡しておきたい。すまんが定期にでもしてほっぽっておいてくれ」
「.....?...」
「もし、お前にこの金を返してくれと言いにきたら、問答無用で俺を実家に送ってくれ。その為の旅費と、迷惑料にする」
「...本当に、大丈夫なのか?...俺は一応、止めておけと言っておくぞ。仕事ならいくらでもあるし、趣味の範疇でやるべきものだぞ、それは..」
「自信はある。保険もたくさん用意した。これも、そうだ。すまんな、その代わり、借金だけはしないからさ(笑)」
「うーん..金を預からなくとも、苦しければ助けてやるけどな..友達、だしな。しかしまあ、無駄にするよりは取っておくほうがいいだろうな」
「そういうことだ。退路は常に確保しておくよ。潔くはないが、現実的だろ?」
「まあな(苦笑)。まあ、ともかく。卒業して毎日が休日だろ?これからはちょくちょく、飲みに行けるな!?」
「いや、それは無理だ....」
「...?」
「平日は不確定だし、土日は仕事だ。で、余裕もない。すまんが今日を限りで、しばらく会えないだろうな」
「...何だよ、それ...」
「ま、覚悟の上ってことだ。分かってくれよ」

そして、10万を渡したまま、アサヒは旅立った..。
実はまだ、目と鼻の先にいるのだが(当り前だ、どちらも東京23区内なのだから)。こっちも仕事が忙しいし、向こうから連絡も来ない。
夏に、一度遊びに行った時。アサヒは意外とまともな生活をしているようだった。印象に残っているのは、きちんと洗濯されてたたまれた衣類と、髭も髪も伸びていないアサヒのいつもの姿。何もない、本当に何もない部屋だったが、スッキリしていた。精神的に安定している様子が見て取れて、安心したものだ。
そして一丁前に年賀状をよこしてきやがった。電話でもすれば事足りるが、奴の儀礼に従って、賀状でも書くとするか...。
『よう、やってるね。今はまだ..なんていわず、明日にでも飲もうぜ。』
そうそう、あれから気付いて、言いたいことがあったんだった。

『追伸:お前のやっていることに文句を言いたくはないが。お前の労働に対する報酬は、決して正当なものではないぞ。
いつでも戻れるんだ。戻ってこいよ』

勝ちについて。勝つだけが能ではない。大切なのは勝負の中身である。
負けについて。負けて腐ることはない。大切なのは勝負の中身である。
勝負について。やるからには勝て。

「僕は走り始めたスロプロです。生活、賭けてます。」
...彼の勝負は一生続く...
 

(了)


最終話です。最後はちょっと自分の行きかけた道をシュミレートしてみました。
もはやアサヒくんは私の手を離れ、私の知らない道を進んでいます。
今回の話は従って、元ネタを他者から頂きました。今なお現役のスロッターでありつづけるキューちゃん(の、モデルさん)。熱く語ってくれてどうもありがとう。難しかったけど、興味深く聞かせてもらいました。そしてお陰で、アサヒくんをリアルに描くことが出来?ました。
読んでくれた皆様もありがとうございました!



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