新・現在4コマ漫画レビュー 第95回

(初出:第316号 23.10.24)


-TOPIC-
壮挙と言ってしまおう。先ごろ終了した井上とさず「オレの愛で世界がヤバい」(ホーム、終了)、最終回で告知されたのは年末単行本連続刊行。つまり全2巻で、単行本出ますと。
早くもおしまい全1巻、未刊、完結巻出ず、電子書籍のみで。憂き目は数々見てきたがこの逆転パターンは初めてだ。何より紙媒体で、というところにホーッと一息。これで歴史になる。というのも半永久的に保存出来るのが利点と思っていた電子書籍って、本当にそうだろうかと疑問を抱いてきたから。オンラインで読めるのはデータが提供されているからで、サービスが止まればどうなるの?買取でデータが手元にある。リーダーの買い替えとかで仕様が変わったら?自分の書庫には収まっていても、他人は読めない。仕組みが分かっていないから正解かどうか、何か抜け道があるのかも知れないけどこんな感じで「読めなくなるのかも」という不安が付きまとう。つまり電子コミックって「需要が一定量あれば」の一過性で、「知る人ぞ知る」永続性は弱いのではないかと。
書籍であれば友人に貸す(借りる)、古本屋に売る(買う)。対価を払っていないじゃないかという問題はさておき流布させることが長期間可能となる。破れたら濡れたら再生が効かないデメリットは電子版には無い。この「いつまでも劣化無く」というのもクセ者で、時代を感じさせないから経年に伴う価値の変動も少なければ現在進行形で過去作を読む価値も見出しにくい。
単行本で出るということは、数十年単位ともなり得るがいずれ「本作が描かれていた(読まれていた)時代が確かにあった」という物証となる。主人公が何らかの成長なり結論を迎えての完結ではなく、大風呂敷を広げたままの完とも思えたが、諸々レスの時代、周囲を一変させたというエンディングは変則的ながらお見事と言って良いだろう。この久しぶりの正統派ストーリー4コマ作品が単行本で読めますという出版社の動きは社会的責任を果たしたものと手放しで称賛したい。話題にならなくとも責める要など無い。

-PICK UP-
旅のお供に4コマ誌が最適と言っていた時代があって、立ち読みで相当数飛ばしているのに購読したところで、と言う時期もあった。生々流転、現在は全誌購読、継続中。単行本に負けず劣らず、一気読みの恩恵を享受出来ている。サ古ヨ紙ナ回ラ収だけの人生じゃナイ。
歴史ものは通読にうってつけだが中で今最高潮に向かっているのが杜康潤『孔明のヨメ。』(ホーム)。赤壁の戦いが作者渾身のアレンジで軽やかに描かれる。軽やかに?4コマの弱点として「時間経過を感じにくい」というのがある。息を呑む「間」が物足りないのである。エピソードを細切れにしてテンポよく進めていく形式だからだが、通して読めば十分にテンション上がる。映画でも4時間超掛かった、本作は2年超掛けていよいよ決着へ。
佐野妙『ホントはダシたい山車さん』(タウン)など、作者長編の名手なのに本作は展開が早いなあ、やっぱりダシ縛りの食漫ではネタ出し厳しいか、とパラ読みなら思っていただろう。さにあらず。初回を読んでいるので知っている。時間軸はまだ現在まで戻っていない、序章すら終わっていないのである。
こういった細かいところに目が届きやすいのも通読ならでは。トフ子『秘密のお姉さん養成ノート』(タイム)は主人公の母親の言動に気付いたらドンハマり。昭和生まれのバブル世代が出してくる古の流行りもの、中年のあるあるは逐一刺さる。
ぱんだにあ『ねこようかい』(ライオリ)は見開き2ページが飛び飛びで毎号3話載るアイキャッチ的仕様なので長年スルー対象。単行本がはちわれの巻(だから8巻と思いきや第10弾ですって)まで刊行中。これは一見の読者が支えられる人気ではない。明らかに購読者が支持している結果であろう。グッズの販売会も行われていて、看板コンテンツじゃないですか。
読者としては正直なもので、面白くなくなってくれば自然離れていく。購読が続いているのは単なる567禍の新習慣ではなくて、つまり誌面が充実しているから、なのであろう。

-REVIEW-
茶畑ヴァエ『黒曜ちゃんと白玉くんの変わった関係』(タイム)
ややこしい相関図だから立ち読みでは挫折していたかも知れない。本作は同性同士の幼馴染がお互い異性としてパートナーになりたい想いを抱きつつ、現実には意図しない方で性転換が起きてしまい..という倒錯の過ぎる設定。好意が一方的に見えていた初期は大した話に思えなかったが、通読して関係性が見えてくると元に戻っても波乱あるぞと進展が楽しみになってきた。まだ少ししか語られていないが、家族との軋轢なども描かれていてストーリー4コマとしての素養十分。この辺りのスパイス要素に気付けるのも通読のお陰。ネットで活躍されている作者、一般向け4コマ作品で商業誌に登場してくれた意図は不明だが何とも有難い限り。非エロを貫ければ大河長編にすることも可能な力量と見ている。(その前に早いとこ単行本化を)


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