新・現在4コマ漫画レビュー 第87回

(初出:第298号 22.4.21)


-TOPIC-
だいぶ前にストーリー4コマの普及に伴ってコマ割りに変化が出てくるだろうと書いたような気もする。
単行本読みの荒井チェリー『未確認で進行形』(ぱれっと)が近年、ワイド4コマの形式に変更になったのに後書きでの報告があるまで気が付かなかったほどの鈍感だが、通常+ワイドの組み合わせになった水瀬るるう『大家さんは思春期!』(タイム)はさすがに「あれっ?」という違和感。
かつてはショート作でのラストページの4コマが通例だった(ex.深谷かほる「エデンの東北」(竹書房))。本編に対してのお後ま日け談。
エピソード積み上げ型の本作では後日談としての使い方と、本編中のネタの補足という追加要素が加わる。後半がワイド4コマになることで、視線の動きが縦縦..から横〜に変化し、読むスピードにブレーキが掛かるような感覚。正直通常話とワイドのネタが意図的に選別されているとは思えないが、読後感を長く楽しめる、余韻に浸れるといった効果はあるようだ。
ふと、気になって各誌をつぶさに眺めてみると、変則コマ進行がすでにして普及していることに今さら気付く。バックナンバーで追う限りでは何となく昨年辺りから急激に広まった、と思える。見込みはやや違い、どうやらワイド4コマの定着がきっかけとなったようだ。しかも新人の新連載からベテランの長編作まで満遍なく見掛ける状態となっている。
顕著な「まんがタウン」誌(双葉社)の連載陣から類例を挙げてみる。
従来通りの枠であってもページ4コマ2本の基本形がタイトルがページ全体に掛かり8コマ1本、さらにコマ割りが変化し5コマ、7コマ1本etc...になる場合(OYSTER『新婚のいろはさん』)、
これは従来は主に最終回にて決めのシーンで使われてきた(ふじた渚佐『あさひ大家族』次号最終回)
が、近年は今回の衣装はこちら、といったサービスショット的な使い方(赤のキノコ『恋がわからぬ大人共』)
で頻繁に見られるようになった。
しかし視覚的な効果だけを狙ってこのような変則コマを多用する作りは4コマじゃなくショート作品じゃないか、単にコマ割りが稚拙なだけ、なんて否定も出来る(大場玲耶『勇者様!?こ・・・これってそういう意味ですかっ?!・』)(例にしてゴメンナサイ)。
コマ割りが均一な制約があっての作画の工夫(小坂俊史『ルナナナ』)、
これもまた4コマにおける重要なスキル。
しかしながら近作の用法は作画云々というより、エピソードに抑揚を付ける(野広実由『兎なりのウサギさん』)、
クライマックスを明示するための使い方(橙夏りり『ねこ上司といぬ部下くん』)
に見える。
無論これらはあくまで一例であり、各作品とも複合的に活用していることを付け加えておく。いずれにせよ4コマが「物語る」ことを始めた何よりの証左であろう。

-PICK UP-
期待した作品があっさりと終わってしまって残念、と嘆く間もなく新作で登場するのは人気が無かったわけでない証なので切り替えて楽しみたいところ。
前作がショート作品だったのに取り上げてしまったまどろみ太郎『憧れの騎士様が、じいやだなんて言えない』(ライフ)。今作は4コマなので嬉々として読み始めたら即連載に昇格も前作通りの人気ぶり。しかし..タイトルにある秘密のはずの愛しの老騎士=お付きの執事という事が周囲にバレバレで、そこのスリルを楽しむラブコメとはならない流れ。すでにしてラブラブな関係じゃないかと言えるほどひたすらに甘々なコメディは寧ろ一昔前の4コマらしいドラマ性の薄い恋愛ものを見ているようだが、パターン化してロングランとはならないと思われる。ワイド4コマメインでたまに4コマ進行、時にショート割(ストーリー漫画のようなコマ割りを、4コマ誌での非4コマ進行=ショート作品になぞらえてこう呼称します)という今どきの作風でマンネリは無理だと思う..。だって前作「おまわりさんと悪女ちゃん」(竹書房)も全2巻。
前作は良作だったのに単行本成らず、今度こそ。さーもにずむ『魔界の愛されCEOは元勇者』(ホーム、ゲスト)も順調に回を重ねているがゲストの枷が取れない懸念。そして早くもラスボス(本作では勇者)と相対してしまった。英雄を使い捨てる現世に比べて労働環境改善の進んでいる魔界、この対比を描くのに、出会っちゃって良いの?ここから勇者を啓蒙する展開に?と、先が有りそうで無さそうな..。
作品タイトルがラノベ風だと単なる流行りに乗っかったというより短編ですと宣言されているような気になる。人気に左右されることなく「描きたいエピソード描けたら充分」といった作者側の「3巻の壁」が立ち塞がる。う〜ん、確かに人気に応じてダラダラ引き伸ばすよりは完成された作品として読みたいんだけど..30年近く眺めていると、時代を築いた代表作ってやっぱりロングランじゃないかな、と。
こちらの杞憂を吹き飛ばし、10年続く作品になることを期待します。

-REVIEW-
あしや稚浩『先輩に推されて仕事になりません!』(ホーム)
退屈な職場(ディスカウントストア)に潤いを!という女性社員に思い付きで「推し」にされてしまった学生バイトが困惑しつつも..と男性側から見ればまあ、ラブコメ。ところがこの社員は清々しいほどに「推し活」の姿勢しかなく、色事とは程遠い。それでも構われている内にお互いの内情が分かってくるから親密にはなっていき..と、結論に向かわないけど深まっていく展開は4コマ向き。
かつて恋愛ものは疑似家族ものという親子のような親密さでもって一線を越えないパターンを作り上げたが、(アイドル)崇拝でもない親愛の情で描かれた本作は何と括れば良いだろう。物語はまだ始まったばかり、結論を迎えた時に新しいジャンルとして位置付けられる作品かも知れない。

赤のキノコ『恋がわからぬ大人共』(タウン)
こちらは付き合い始めの初々しさを描いた真っ当?な恋愛ものながら、主にネット(ゲーム)を介したやり取りで男性側はそれなりにドキハラしているのに彼女は平然と素をさらけ出している。愛情の確認作業といった駆け引きサヤ当てがほとんど無く、彼氏が「恋を勉強したい」と恋愛ゲーをやるのに付き合い、それが18禁だったと判明してもお互い悶々とすることも無く。それなのに、キスされたいか聞かれれば「そうですね しかし」「まだ早いのでは」と赤面しつつ。こういったまるで同性の友人のような極めてフランクな関係ながら恋人同士のイチャイチャを挟んでくるのは草食と言われて久しい現在のリアルなのだろうか。
20年前の藤臣柊子「逆転夫婦のすすめ!」(芳文社)は意欲作と言われていたが、WEB漫画やエッセイコミックではすっかりお馴染みとなり、一般(4コマ)誌でも好評を博すように。ジェンダーレスは確実に浸透していることが分かる。


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