新・現在4コマ漫画レビュー 第85回

(初出:第293号 21.11.20)


-TOPIC-
竹書房50周年という節目の年に、とは雑な括りになるが、「まんがライフ」誌(竹書房)10月号は一つの完成形なのでは?と思える出来であった。
たまたま、購入した漫画誌のラインナップが軒並みクライマックスで何度も読み返せる当たりだった、という現象は訪れるものだが、端々に至るまで全てが「良き!」で「これは..!」と断言できる「神号」と言えるのはそうそうないはず。
直近のバックナンバーを読み返してみるとラインナップはほぼ同じだから外れなしは今号に限ったことではない。立ち読みで済ませた号こそ大当たりだった可能性もあるものの。

連載陣でピカイチだったのは胡桃ちの『旅するように暮らしたい』(ライフ)。
「防音設備が完璧な部屋」をお探しの客、「音楽関係のお仕事?」「いや深夜の配送業っス(そこのコンビニにも配達してるっスよ)」「夜勤仕事お疲れ様です(めっちゃ利用してます、感謝!)」
( )内は吹き出し外台詞、含めてこのやり取りは思わず膝を打つ秀逸な展開。下支えの職業に対する理解ある謝辞は、作者にとってはごく当たり前、でも普通ではない。独特な絵柄、個性的なオチの付け方だけが「作家性」を感じさせる要素ではないことに気付かされる。
結果要求に応えた極めて特殊な物件を紹介し大成功に終わった回であり、大オチから逆算すると妥当な設定だったのかも知れない。また、取材した珍しい成功例をそのまま使った回であったかも知れない。
それでも導入部の何気ないやり取りで主人公にこう言わしめるというのは「流石」の一言に尽きる。看板を背負えるほどの力量を持っていなければ描けないひとコマである。

新連載が松阪『毒を喰らわば皿までも?』(ライフ)。竹書房初登場にして即連載の待遇ながら、変わらずの時代物であり、単純に活躍の場が広がった慶事。食いしん坊の落ちこぼれ女中が回された仕事は毒見役。将軍正室の極上の食事を味わう感激が恐怖に勝り、天職となるのか。グルメに留まらぬ江戸の食文化も絡んだ内容はまた一つ、4コマの歴史ものの可能性を広げてくれるだろうし、十二分に力量を発揮してくれると期待出来る。
注目は樹るう『チート転生した猫は嫁の膝で丸くなりたい』(ライフ)。作者曰く久々のファンタジーものにして大流行の異世界転生ものは順調に単行本出来。今号ではタイトル通りのチートなレベルアップ(技)にて騒動を強引に取り鎮め、たら味方まで倒してしまって!?という一応のヒキまで。作者久々としているが、大ヒットした「ポヨポヨ観察日記」(竹書房)以降初心に帰ったようなストーリー4コマ、ショート作品を発表し、正直なところそれほど手ごたえが無かった印象。対して本作は続いていきそうな安定感がある。まだまだストーリーは二転三転していくはずだから断言は出来ないが、浅薄な知識を駆使すれば、本家ラノベはご都合主義の展開の中にも思春期特有の苦悩(シリアスパート)を少なからず描いている。対して本作のようなトレンドを取り込んだ4コマ作品は、その辺りを広げず、その方が読み(続け)やすい。ex.榊「異なる次元の管理人さん」(芳文社)。主人公は最後まで一般的な人間として英雄にはならず、ブレーン側のスタンスを保っていた。
前述の松阪作品も含蓄ありながらノリ軽く。概して4コマ作品は「何ちゃって」で良いような気がしてきた。これは元々日常活写という従来の4コマ以外はパロディから始まったジャンルであるからかも知れないし、読者層の違いによるものかも知れない。等身大の主人公に共感するラノベ(前身はYA(ヤングアダルト)小説だよね?)に対し、すでに通ってきた読者にすれば強調されなくても雰囲気だけで充分楽しめる。もはや壮年の自分がそうである。まあ、革新的なヒット作を読めば「そこが良い!」と手のひらを返して評するのだろうけど。

細かいところをいくと柱コメントのテーマが「何度も観た映画」。映画や本の話って、こすり倒されているけどやっぱり外れ無し。そしてFromEditors(編集後記)は時にPRコメントが並ぶ営業コーナーも今号はいずれも「ハマっている麺料理」の話で実に平和かつ個人的な大好物。
こんな感じで最初から最後まで、飛ばすことなく後回しすることなく、一気に読んでさらに読み返して飽きぬ号というのは記憶に無い。ので記しておく。

-PICK UP-
主人公大活躍の作品というのが大半ではあるが、脇役が光って人気を得る作品もある。
個人的には懐かしい湖西晶「かみさまのいうとおり!!」(芳文社)が浮かぶ。ジャンル、掲載誌違えど長年4コマ作品を送り続けてくれている作者について、かつてこう評したことがある。
以下続・現在4コマ漫画家レビュー 第6回(初出:第105号 06.1.20) より抜粋。
4コマ作家としてビジュアル先行気味と思っていた中、ロングランかつポスト海藍で「きらら」誌の看板を張っている「かみさまの〜」を注目するようになったのは、異色の病弱キャラの登場が大きい。ただ一点だけが引っ掛かって見続ける事になる作品というのが、4コマに限らず、あって、それはそれで大きな強みであると思われる。
だいぶ斜に構えた評価は若さ故とご了承いただき。つまり脇役の重要性、必要性である。
もっとも今さら言うことでもなく、キャラ推しは一般的であり、時に主役を凌駕する。前回の金田ライ『通勤通学クエスト』(タイオリ)を紹介した流れであるので学園もの縛りで取り上げる。
まず浮かぶのがクール教信者『小森さんは断れない』(タイオリ)。トリオ立ては有史以前からある初期設定ながら、個人的には知的キャラの成長に目を見張るものを感じている。中学〜高校まで描かれている中、このところ何気ないひとコマがイチイチ心に刺さる。しみじみ、大人になってきたなあ、と。作者が意図的に変化させているのだとしたら恐ろしい。手玉に取られるとはこの事か。ただこれは好みの問題であって、本筋ではない。取り上げたいのは「4人目」のキャラの豊富さ。彼氏となってしまう隣のクラスの男の子や高校編からレギュラーとなった普通の子、また最近は双子の後輩、果ては主要キャラの家族に至るまで、いずれも一通り絡んだら消えていく調味レベルではなく、折に触れ彼ら自身のエピソードが追加され、人物像が深みを増していく。同人から一般誌までこなし幅広く支持を得ている作者の力量が漏れ出ている。主人公一人を追いかけるなら振り回す、振り回されるとそれぞれの役割がパターン化しがちだが、本作は脇役にも惜しげなく背景を投入することで複雑に影響し合い、青春群像の大河作品に膨れ上がっている。
キャラの豊富さと言えば荒井チェリー。『未確認で進行形』(ぱれっと)はズバリイカレた姉と9歳の高校生小姑のやり取りが主役を食っていると言って過言では無い。アニメのEDが小姑のキャラソンになっていたことからも明白なこれは事実である。4コマデビュー直後からして「みおにっき」「ゆかにっし」(芳文社)とスピンオフなのか複数誌連載なのか分からないような主役飽和状態を生み出していた。まあ当時は4コマ誌乱立の黄金期だったのでこのような変則手も使えたんだよなあ、と遠い目..。しかし相変わらず途切れることなく連載を複数持つ立ちまくりのキャラ創造主、キャラ立て名人の作者に付いていって間違いは無い。
ラノベ作家でもあり、文字情報に絵コンテまで付けられる(逆か)のだから強みしかない渡井亘『恋愛感情のまるでない幼馴染漫画』(ライフ)は単行本にキャラ設定が付いている。無論公開ページだから「見られる」前提の編集された内容ではあるが。主人公は描く際の覚書といったような、ビジュアル面についてのメモが目立つ。一方脇役たちのメモ書きは語られないかも知れない裏設定が満載。パターンはテンプレであっても、この背景を踏まえた言動は存在感を増す。現に主役たちのやり取りより先生がたとの絡みが楽しみな読者である。先生の立場から描いた蕃納葱「教艦ASTRO」(芳文社)なんてのもあったなあ..時代は巡る。
主人公が立った作品が面白いのは不変だが、脇役が充実してくることでロングラン、ヒット作は生まれるのだと思う。新キャラ投入は苦肉のテコ入れ策ではなく、無限の可能性を秘めた好機と前向きに捉えたい。


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