-PICK
UP-
今回のオリムピックではアーバンスポーツという新たな競技類が実施され、様々思う中で時代の波を確かに感じた。期せずして、当月号の「主任がゆく!」誌(ぶんか社)では大塚みちこ『それいけ!せっぷく丸』(主任)がこの新世代の空気感をドンピシャで描いており、タイムリーだなと取り上げさせて頂く。
他人の言うことばかり聞いてきたので前ならえの姿勢にしかなれない若者(=キョンシーで具現化)が、サーフィンに出会い波に乗ることに目覚め一皮むけるというお話。やったことないからと尻込みするのに対しだからやるんだろ、楽しもうぜとサーファーがシンプルに導くところがキラキラとした将来性を感じる。
レトロチックなヘタウマ系の画風で、大筋はタイトルの子供侍を中心としたアットホームタイプの作品ながら、作者エッセイ漫画を数々手掛けており、啓蒙的な内容の回も多い。今話も人生訓ながら、競うのではなく皆で楽しむ、和気藹々とした世界としてサーフィン、サーファーを使っていて、この雰囲気はオリムピックでも出ていたなあ、と。
同号ではそめい吉野『農学女子』(主任)もまたトレンドを取り上げていて、含蓄に富む内容であった。
地域の高齢者をケアしたいけど、気付いた人だけが動いても無理。本作で度々取り上げている課題に対し、今回は流行りのデリバリーサービスを応用。バイトとして若者を集められれば、配達していく中で色々な問題に気付いて動き出す。トレンドを活写し、さらに飛躍する未来を描くというのはフィクションの醍醐味。
4コマ誌を買って読むと熟読する機会が出来るので立ち読みでは得られない気付きが増える。同じ話題が繰り返される中でその他のニュースを取り上げてくれる作品の多い「主任がゆく!」誌は酒の肴になる4コマ誌である、というのが今回の発見。
-REVIEW-
かわのゆうすけ『氷室君は板野さんの事が覚えられない』(タイオリ)
掲載誌がシェイプ化されて人気作でパンクすると思ったら逆に、単行本未刊行の「連載作品」のウェイトが増えているという氷河期な現状。そんな中でもきちんとストーリーを進行させて発展させている作品なので紹介したい。過去のトラブルで幼馴染の一人だけを常に忘れてしまう主人公を、忘れられる当人が好きで..という恋愛ものは、応援している側も感情は複雑な王道の三角関係。エピソード積み上げ型でドラマ性を感じなかったのが、ここ半年ほど(掲載時間)は応援側とのエピソードが強くなっていてヒロインの存在感が薄れている流れ。ここから大河恋愛ものばりに大逆転のエピソードが出てくるのか、平衡バランスが危ういところまで育ってきて楽しみになっている。
「凪くんの不運な棚ぼた」(芳文社、全2巻)は単行本化されているがなかなか次に恵まれない状況。突き抜けるチャンスは話題の展開となるかに掛かると思われる。設定は充分練れているので思い切った方向へ進んで欲しい。
金田ライ『通勤通学クエスト』(タイオリ)
新人賞応募作で「通学クエスト」のタイトルだったのが、大人も題材に広げ日常の小さな課題をクエストとしてク解リ決アしていくオムニバス作品。買う率が上がって処分するペースも早くなっている4コマ誌なので、記憶を頼りに書くしかなく、間違っていたらゴメンナサイ。
読み切り型でテーマ括りの4コマ向きなこのジャンルはギャグ作品に通じてアイデアを消耗する棘の道のためか相当少なくなり(前項「せっぷく丸」もこのタイプ)、本作は貴重で大事に見守ってきたものの紹介するのに決め手に欠けた。クエストの目の付け所、もったりとしたコマ進行(特に自問自答のシーンでは1コマで済む流れが2〜3コマに分割されがち)など独自色は強いもののやっぱり地味..。
そんな中、ようやくレギュラーと言えるキャラクターが出来上がりつつある。ショートカットの聡明な少女、このキャラは元々頻繁に出て来ており、当初から核となっていたのだが、個人的には脇を固めるキャラ、とりわけ「お騒がせ」タイプの友人を出してきたことによりようやく立ってきた印象。(これに関しては後日一章を設けたい)
トリオ立てのやり取りが定着してきたことで安定した面白さを提供することが出来るように。ここだけを追求していけば学園ものとして人気作ともなり得そうであるが、さらに別ルートでもレギュラーキャラクターを増やしていければシリーズが何本か定番化して単行本でまとめられそうな期待も持てる。せっかくの群像劇、今後の作品にも派生していくような多くのスターキャラが生まれることを望む。