-TOPIC-
長年欠番を探し求めてついに揃えられた作品、というのが過去幾つかあったけれども、つまりは絶版で注文が出来なかったから。
好調連載中にも関わらずなかなか古本屋で見かけない作品、というのが今幾つかあって(ex.OYSTER『新婚のいろはさん』(タウン)3巻〜)、購入者が手放さない良作の証であるから呑気に待ってないで買ったらいいじゃない。
古本屋巡りが空振りで終わった某日、ならば新刊で買おうかと本屋さんに行ってみる。すると..。4コマコーナーの何と狭いこと!目指す作品はおろか、この際だから買ってもいいぐらいまでハードルを下げて眺め回しても欲しいのが見つからず、手ぶらで退店。これが2軒続く。無論漫画アニメの専門店で無し、街中の本屋さんの規模ではこの程度の品揃えも致し方無いジャンルではあるものの。売れ線と分かっている作品が既刊すら置いてない現状を目の当たりにして改めて愕然とした。
あるいは。店で現物購入が主たる入手ルートでは無い時代なのかも知れない。ネットで注文(そう言えば書店にもそのまま注文できる検索機置いてありますね)、電子書籍、オークションetc...足を棒にして探し回る、何年掛かってもいいからじっくり待つ、ではなく、欲しければ寧ろ自宅に籠って漁れと。
567関係なく4コマにも新しい生活様式が浸透してきた。読者も変わらなくてはならないということか..。
-PICK
UP-
「文章で魅せる」、ワイド4コマの売りになるような要素ではないか。
ビジュアル系4コマに限らず、最近は一般作品でも文字量が多くなったと実感する。何しろ点数が少なくなったにも関わらず、立ち読みがしんどくなった。コマ数の少ないジャンルで台詞ばかりが並ぶ..かつては指摘事項でもあったのだが、現在のヒットの図式には当てはまらず的確でない。寧ろこの吹き出し文字がネタのメインになっていて、コマサイズの大きいワイド4コマが有利に働くのでは?と。
先ごろ1巻が出て好評らしい丸井まお『となりのフィギュア原型師』(タイオリ)は、コミュ障で難アリだったはずの主人公がいつの間にかハーレム状態と見事な迎合ぶりを見せつけ..もとい、ニーズに合わせて軌道に乗った。ルポものの側面はだいぶ薄くなったが面白さは変わらず。気になるのは話の内容ではなく、会話のテンポ。これがまるで掛け合い漫才のようなやり取りでオチの4コマ目にバチリと嵌る。複数人での台詞の応酬は、ガヤあり畳みかけあり、まるでコントである。背景がほとんど無く、人物(時に大ゴマ、サービスショット)と台詞のみで構成されていても物足りなさどころか台詞の読み順、間の取り方など読んでいてかなりの充実感を持てる。と言ってスピード感は損なわず。本数の少ないワイド4コマであれば尚更だ。
ところが。他の通常の4コマ作品でも台詞量は大体同じであって、読み辛さは感じることが無い。
違いは無いものかと色々比較してみると、以下のようにざっくり分けることが出来た。
エピソード積み上げ型は台詞量(会話シーン)が多い。
エッセイコミックを描いている(た)漫画家は台詞以外の文章を使いがち。
生粋の4コマ育ちは台詞の内容、登場人物の省略などスリム化させる。
新人はオノマトペ(効果音)を多用して空白を埋めたがる。
大体この程度の違いは見つけることが出来たものの、特にワイド4コマ有利となる要素では無し。作家性や熟練度の違いとだけ。
しかしワイド4コマ作品だけを眺めていると、やっぱり会話のテンポというか、1本ごとの展開が綺麗にオチるパターンになっているような気がする。その理由は「ページ1本」という誌面構成に拠る。一般4コマは見開き2ページなら4本(16コマ)が掲載されるので、ついつい隣接話を続けて見てしまう。1ページずつ仕上げるであろう作者側も2本は繋がっている(めくり効果も勘案するとやっぱり連関しやすい)。ワイド4コマも見開きは2ページ2本(8コマ)と続いているが、この倍の差は大きい。さらに1コマに入れられる情報量も単純に言えば倍になるので、その差4倍..1本4コマで大オチまで持っていける場合が多くなる。見開き2ページの場所であっても、ワイド4コマは時間の経過やシーン転換など、前の1本とは別のネタに切り替わっていることが多い(そのせいか各話に小見出しが付けられている作品の割合が多いような)。
無論漫画家個々の文章力や構成力の違いはあるとしても。大ゴマでビジュアル重視になるはずのワイド4コマが逆に文字で魅せる4コマになる可能性が見えてきた。1本ごとに短い完結を付けやすいとなればストーリー4コマとしてのハードルもクリアしており、ワイド4コマは「字を読む4コマ」としてポストビジュアル系と成れそうである。
-REVIEW-
松阪『大奥より愛をこめて』(タイオリ)
上記の分析を進めるうちに上手く仕上げているなあと感心した作品。作者は当初から一貫して歴史ものを描いているけれども、いわゆる戦国、武将ものではなく、生活、文化に目を向け当時の人々の暮らしを発信する(まあ、主人公は貴族や芸術家といった特権階級ではある)。
本作は大奥に紛れ込んだ金髪碧眼の女中を通してみた幕末史であり、能天気な異国人が末期を迎えつつある江戸城内に爽やかな風を送り込むエンタメ作品に仕上げている。
とはいえ舞台は動乱の時代。すでに主人公の裏の顔も登場しており、大河ドラマとして見た場合は期せずして巻き込まれていた流れにした方がより浪漫チックに出来たのでは、とか少々不満な点もある。なんて、あれこれ言いたくなる時点でしっかり作品に取り込まれているということだ。
せかねこ『はかせの未来』(ライオリ)
うら若き博士とロボ助手のホームドラマ、すっかりお馴染みになりました。
単行本が出てもボリュームの問題が、なんて言ってた時期もありましたが、ワイド4コマ、掲載が基本12ページなので1年で144P、4コマの単行本には十分な量。勿論ページ1本なので話数は少ないですが。ならこれならどうだ、と本作の単行本1巻は何と描き下ろしが60ページ!?これは作者が4コマ誌掲載と別個のエピソードをツイッターに上げているから出来たこと。
作者は元々WEBコミック(エッセイ漫画)出身なのでこのような自主的複数誌掲載のような離れ業に自然至ったのでしょうが、丸ごと取り込んでの単行本化というのはなかなかの壮挙。こういう事をしてくれるから「ライフ」系、「くらぶ」系に分けていた方が良かったと思うに。紙媒体にもまだやれることがあると示してくれたのは有難いかぎり。
などと周辺情報に費やしているのは、早々に見かけた時に買わなかったから。一期一会、勿体無いことをしたものです。
本編?の掲載誌では現在、誕生の秘密が切なく語られ出しているのですが、そもそも機械が存在意義を問うてくるのか、とかフィクションとして少々稚拙な展開ではある。
しかしながら前作「ほむら先生はたぶんモテない」(KADOKAWA)で、先生と生徒の恋という、これもまた繰り返されているベタなテーマにおいて、理屈ではあるが素直に共感できるやり取りで爽やかに締め括った実績がある。(編注)
本作においても十分に語れる言葉は持っていると期待している。
(編注)「ほむら先生はたぶんモテない」(KADOKAWA)は、好評を受けて続きが書かれており、現在単行本4巻まで刊行中の未刊作品でした。作者自身が一度締め括った作品と言われていますので本文については修正しませんが、確認不足をお詫びして補足いたします。(2020.11.23 発行人)