新・現在4コマ漫画レビュー 第72回

(初出:第262号 19.4.20)


-TOPIC-
今年に入っての動きを見ていると、芳文社がお株を奪うかの如く、ここへきてワイド4コマを各誌に載せ始めた(竹書房は見込み通り「ライフ」系列でワイド4コマを展開)。
新たなトレンドになる可能性のあるワイド4コマだが、単行本化に至った時に浮かんでくるのがページ数と内容が価格とマッチするかどうか。
既存4コマと同ページ数、同価格帯であれば内容によっては薄っぺらさが際立ってしまう。
元々ワイド4コマが誕生したのは森下裕美の代表作「少年アシベ」、の続編「COMA GOMA ゴマちゃん」(竹書房)になると思われるが(それ以前に和田ラヂヲ、高野聖ーナ辺りも描いていた記憶があるが、4コマではなくギャグ漫画の括りとして捉える)、この際ページ1本にした理由は強キャラが多すぎるから一度にたくさん出せるようにサイズを大きくした結果と考えられる。あるいは絵本仕様を想定したか、いずれにせよ大御所だからこそ出来た贅沢な誌面の使い方であった。
現在は新鮮な構図が取れたり書き込み量が増やせるという効果でワイド4コマは描かれているようだ。またストーリー性のある内容を描くのに具合が良いとも言えそうだ。
ここに新たなトレンドの萌芽が見て取れる。つまり従来の4コマではタブーであった「情報量の多さ」が寧ろ求められる4コマの誕生である。
それは諸刃の剣でもあって、その情報(文字、線、絵柄etc...)が蛇足と取られるレベルでは..。4コマ誌掲載時は数ある作品の一つとしてスルーされても単行本で単体勝負となると目に見えてしまう。まずはこれらの作品が単行本にまとめられた頃、ワイド4コマアリか無しかの最初のジャッジが下されると思う。
ちなみにビジュアル系においては現在までワイド4コマの作品は無し。これは「すでに一般4コマ作品ではタブーである情報量の多さが許容されている」「魅せる画で突出出来ない(著名イラストレーターが目白押し)」そして「ショート専門の系列誌を持っている(ex.ストーリア誌、フォワード誌)」からワイド4コマを推す必要が無いのであろう。
距離を置いているビジュアル系に軍配が上がってしまうと、せっかくの起爆剤が湿気っていたという結論に..。

-PICK UP-
いわゆる「企画もの」として、連載陣のエッセイページは普遍的だが「まんがタウン」誌(双葉社)のそれは今や次号予告のトピックに挙がるほどのメイン企画となっている。「クレしん」映画や単行本の宣伝込みで昨年辺りから載っているシリーズは連載陣関係なく多彩な顔ぶれが寄せていて、親切にページ外に作者の活動情報を付けてあるので4コマ誌で見かけなくなった方の近況が知れて、エッセイ以上に大変有意義な情報源となっている。毎度これらのページは単行本にまとめられることなく誌面のみでのお楽しみということで、勿体無く思いつつ。「きらら」誌(芳文社)が昨年何周年だかで(15周年)別冊付録を付けていて、津留崎優「箱入りドロップス」のあとがきでプロットだけ紹介された、描き切れなかった後日談が載り、これはもう単行本には入らないけれども一応保存出来る小冊子の形態であるので読み返しの効く1話となっている。「企画もの」もこのように年イチ程度のペースでいいから別冊、あるいは増刊号扱いででもまとめてくれればと思うのだが..。電子版なら随時集録でイケそうだけど。PR絡みで諸々の条件が厳しいだろうが推せるほどの人気企画であるのなら是非まとめて欲しいところ。
そんな中。水井真紀子がある回で載せていて、「ひかり!出発進行」(芳文社)の完結版をクラウドファウンディングで出せましたという近況。
15年も前になるか、最初の100人を挙げた第1シリーズ(編注:未復旧です申し訳なし)の最後に取り上げたのが、ロングランであったのに単行本化はされず自費出版で初期の分だけかろうじて読めるという現状を嘆いた一例であった。未だにこの状況から抜け切れない4コマ界のマスの小ささが無念であり、また読者が出資して単行本化出来る時代の進化を感じる話でもある。
ただここで、自身の感覚の古さを露呈してしまうのだが、作者と読者の一体感というか身近な存在で支え合う距離感に疑問を感じてしまう。読者同士の連帯感というのは違和感を感じないのだが、作者とフレンドリーにつながって、作品を昇華させるまでに至るというのは少々明け透け過ぎというか..。
作者にはあくまで「先生」として憧れの存在であってほしいし、出版社は彼らを「プロ」として別格扱いしてもらいたい。というのは最早昭和のスタンスであって2時代前の感覚であるか。実を伴っていないから絵空事と言われても仕方ない、実行している方がよっぽど有益ではある。それでも、掲載誌(社)でまとめられないことに異は唱えておきたい。


-REVIEW-
丸井まお
『となりのフィギュア原型師』(タイオリ)
前作「牧場OL」(ショート作)を読んでいながらスルーしがちな馴染のない方(失礼)の新連載にあって、これは珍しくページを遡って読み始めた、まさに一目惚れの作品。ワイド4コマの可能性としてはすでに作品のある歴史ものと、あるとしたら本作のようなルポものが向きなのではと思っていたから「来た来た」といった感じ。雇い主が幼女の外見であったり隣人との出会いありと人気取りの要素だらけながら、一時期海洋堂ブームで放送されたドキュメンタリーのような本格的な職リポの内容にもしてほしい。2次元を3Dで表現出来る、この原型師の技の解説は感動を呼べるはず。

冒頭では危惧を述べたがワイド4コマの可能性には結構期待している。一般4コマ作品の毎回の冒頭はタイトルの入った大ゴマ+4コマ1本の変則スタイル。この大ゴマを扉絵にする作品もあれば導入orオチの1コマに使う作品もあり、そう考えるとすでにほとんどの4コマ漫画家はこのスタイルで描いたことがあるので、4コマ、時に3コマ5コマ1本のページありで毎回に盛り上がりのある作品が生まれるかも知れない(ん?それでは4コマではなくショート作品になる?)。小池田マヤの築いたストーリー4コマ(変則コマ進行と言えば「バーバー・ハーバー」(講談社))がこのスタイルでやっと日の目を見そうである。

ことり野デス子
『BL漫画家と受けダンナさん』(ホーム)
同じく青田買いも甚だしいが、ゲストか連載かの確認もせず紹介してしまう。
見合いで即結婚まで踏み切ったのは、相手が自分の「観賞用の」モロ好みであったからという、とんでもない理由で結婚後も自分の理想像を体現してくれる旦那に萌え悶えまくる、性差別を一蹴するような笑いに昇華させたホームコメディの新しい形。
自身がまさに数学研究者と結婚したエッセイコミックを描いており、実話をフィクションに加工したファミリーものとなればポスト「夫婦な生活」(おーはしるい)にふさわしい。

前回「ホーム」誌括りで紹介した際BL系漫画家に侵食されているかもと記したが、青沼貴子がBL漫画家を目指した辺りから始まっていたか。浸食というより一定の枠が設けられているといった感じで、家庭あるある→疑似家族もの→BL要素プラスと、メイン購読層(30代女性?)に変化は無さそうだが受ける内容が時代によって変化していると、思われる。マイノリティであった嗜好がまた一つ、市民権を得た。


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