新・現在4コマ漫画レビュー 第69回

(初出:第252号 18.6.20)


-TOPIC-
前回から続く。「居候もの」というのは「疑似家族もの」と同義であるが、近年は居候が人外であるパターンで占められていて、「異文化交流もの」としての側面も併せ持つ「共同生活もの」とでもいうべきネオファミリーものとして確立されている(わけワカメ)。
奇しくもその隆盛はビジュアル系創成期に端を発しており、「MOMO」誌創刊時の作品、森ゆきなつ「いんどあHappy」(竹書房)、てっけんとう「うちのざしきわらしが」(芳文社)といった座敷童ものから始まっている(ちなみに「疑似家族もの」としての「メイドもの」も同時期)。
さらには動物や機械の擬人化というのもこの頃から出始めており、総じて「ゲーパロ」「アニパロ」といった4コマ化されたストーリー作品がその垣根を除いてくれた印象がある。
すなわち日常活写、あるあるネタから非日常設定、エピソード積み上げ型へと4コマの主流が移行したのはこれら新機軸、意欲作と言われたものが認知され、抵抗を覚えなくなり、寧ろ支持を得てきたことが大きく寄与している。
ただ前回の結論と重複するが、これらは「思春期にとって疎ましい存在、日常」である親兄弟を他人にすり替えて一つ屋根の下「共同生活」「合宿生活」に持ち込むという設定であり、歳を重ねてフィクションに物足りなくなれば、やはり不変の「ファミリーもの」に主流は戻っていくものと思われる。

-PICK UP-
座敷童はもはや居候もののド定番だから目新しさは欠片も無いのだが、ほぼほぼの作品に目を通しているくらい飽きない。
「純粋な子供にしか見えず」「そう言えば一人多くない?程度の存在感」で「その家から外に出ず」「住みつく家は栄える」といった従来の設定はすっかり飛ばされて、傍から見れば単なる引きこもりなダメ人間キャラへ。実の子供であるなら将来を踏まえれば自虐的にならざるを得ないが、成長しない神様なので遠慮なく永遠に突っ込める。変化していく主人公(達)に対し、サザエ時間が使えるので4コマのテーマとしてうってつけの設定である。
さらに主人公より長く生きている座敷童は基本子供であっても時に親になり親友になり、と様々な同居人を演じてくれるので便利なキャラクターだ。ワンシチュエーションコメディとして会話劇でも成り立つので台詞回しを磨くのにも好都合。

エミリ『座敷童子あんこ』(ホーム)
単発ネタメインでギャグ寄りの作品。社会風刺が入るわけでもなく、パロディでも無い、純粋な思い付きで勝負出来るのは結構貴重な存在である。
西岡さち『ざしきわらしと僕』(スペシャル)
実の親子関係にも言及するようになって成長譚として読めるようになったのは大きい。
小夏ゆーた『そのアパート、座敷童子付き物件につき・・・』(ライオリ)
大家さん(の孫)とのロマンス付き。座敷童が子供役で「疑似家族もの」の典型と言える。何と竹書房の年間グランプリ受賞作との事。ようやく新人杯が実を結んだようです。
あづま笙子『夜のメイドさん』(ライフ)
座敷童ではなくメイドの幽霊。前作(「ぷらんつ・がーる」(ぶんか社))の植物の擬人化といい、「居候もの」づいてますな。本作はワイド4コマ(1ページ4コマの進行)に挑戦。背景が細かく描けるようになった?
海野倫『きっこと申します。』(主任)
座敷童ではなくキツネの強引な恩返し。時折人情話も入れてくるが個人的にははた迷惑な押しかけ女房のキャラクターが秀逸と思っているので毒舌我がままやりたい放題でいって欲しい。

人外や擬人化といったNOT座敷童でもこの効用は共通している。さらにこれらの設定は、従来の4コマではタブーであった説明台詞だらけのコマも無問題にしてしまった。
ストーリー作品の江口夏実「鬼灯の冷徹」(モーニング)をアニメで観ている。本作は地獄を現代社会に即して描き、かつての絵解きを漫画にしているのだが、地獄界の説明だけで丸々一話が成立してしまう。つまり異文化の世界観を説明するだけの台詞量がコマに突っ込まれても「読みづらい」と思わない作品となっている。
これと同じ現象が4コマでも起きている。「何故何」の説明で埋められても抵抗を覚えない、異文化交流ものは世界観の説明だけでも1本が成立するようになった(ex.榊『異なる次元の管理人さん』(キャラット))。
つまりそれくらい魅力的な異世界設定を組む4コマ作品が増えてきたと言える。

裕木ひこ『うちの可愛い掃除機知りませんか?』(スペシャル)
機械の擬人化ではなく、開発中の掃除機ロボという設定が新しい。今後の展開に活かされればサイバーパンクのようなエポックな作品となるが?
柴『白衣さんとロボ』(ライフ)
ワンシチュエーションコメディながらSF設定を外さないので非日常世界が展開出来ている。
森永あやみ『みっちゃんとアルバート』(ライオリ)
クマのキャラクターのような宇宙人が賢しらに語るのを華麗にスルーする主人公、このパターンがハマるハマる。
器械『仮免サンタのサンディさん』(ライオリ)
サンタ見習いとして押しかけて来ただけで非日常なのに、字面が似ているだけでサタンの見習いもしているとくれば大騒動は必須。サンタキャラは歴代が少々短命なのでこのプラスワンが効くかどうか。
桜沢鈴『指せない二人・』(主任、ゲスト)
何が起こったか「義母と娘のブルース」(ぶんか社)の突然のドラマ化で脚光を浴びる作者の新作は将棋の駒の擬人化。不良の溜まり場のような高校に入ってしまう気弱な主人公という設定は王道だが今どき現実的でないから非日常設定として使えるのでしょう。廃れません。

とまあ、様々なパターンに枝分かれしているネオファミリーもの(疑似家族もの)であるが、すでに10年以上を経ているので類似作品は単行本を漁れば次々と。現在の作品から辿っていくのも一興。描き手のみならず読者にとっても4コマの入口として最適なジャンルと言える。


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